今回は、販売価格の決め方についてお話ししていきます。
まず大前提として、販売価格は原価や時給から逆算して決めるものだと思っているのなら、それは半分間違いです。
なぜならユーザーが買ってくれる価格帯というのは、必ずしも原価や時給と比例しないからです。
もちろん、基本は原価や時給からの逆算になるのですが、それだけを参考に販売価格を決めてしまうと、失敗する可能性が高くなってしまいます。
そこで今回は、「適正な販売価格の決め方」について解説していきます。
販売価格の決め方に迷っている、という場合には、ぜひこの記事を参考にしてください。
一般的な販売価格は原価から計算する
ここからはまず、一般的に行われている原価を使った販売価格の計算方法を説明していきます。
冒頭で、「販売価格を原価からの逆算だけで決めてはいけない」という話をしましたが、とはいえ原価からの逆算で出た数字をまったく使わないというわけではありません。
というのも原価から計算する販売価格というのは、「最低限の利益を出せる数字」になるからです。
つまり、原価からの逆算で出た数字は販売価格の最低値を測るために使えるということですね。
そこでまずは、一般的な原価を使った販売価格の計算方法を説明していきます。
原価から販売価格を決める計算式は、以下の2通りです。
〇販売価格 = 原価 ÷ 原価率
〇販売価格 = 原価 ÷ (1-予定利益率)
まず上段の決め方ですが、こちらは原価と原価率を基に販売価格を決める計算式です。
たとえば飲食店の場合、原価率の基準は30%程度であると言われています。
原価が300円の場合は「300÷0.3」で1000円の販売価格とする、という決め方をするわけですね。
そして下段の方は、原価と予定利益率から販売価格を決めます。
たとえば利益率が50%欲しいと仮定し、原価が500円だったとすると、計算式は「500 ÷ (1-0.5)」です。
計算すると、販売価格は1000円となります。
以上が、原価を基に販売価格を決める一般的な計算方法です。
ただし、「飲食店の原価率の目安が30%は間違い!?計算式と原価率を下げる方法を解説」の記事でも解説しているのですが、基本的に原価率を「〇%」と決めつけてしまうのはあまり良くありません。
とくに中小企業や個人事業主の場合、原価率に囚われずに商品やサービスの差別化を行うことこそが重要だからです。
これは利益率についても同様で、決めつけてしまえば、それ以上の利益を得られなくなってしまいますし、商品やサービスの幅も狭くなってしまいます。
だからこそ販売価格を決めるさい、原価からの逆算だけをしてはいけないというわけですね。
2種類の原価
「原価から販売価格を逆算する計算式」の補足的な説明になりますが、実は業種によって、原価の出し方は2種類存在しています。
原価の出し方は、「商業簿記」と「工業簿記」で変わってくるのです。
まず、商社や小売店のように仕入れた物をそのまま売る場合は、商業簿記での計算になります。
その場合、仕入れを行ったときの仕入れ値がそのまま原価です。
そして製造業など、仕入れたものに対して加工を行う場合は、工業簿記での計算となります。
この場合は、仕入れ値と加工にかかったコストを足したものが原価です。
販売価格を決めるときに限った話ではなく、原価を使って何かの計算をしたい場合は、自分のビジネスが商業簿記なのか工業簿記なのかについて必ず確認しておくようにしましょう。
販売価格を原価だけで決めてはいけない理由
ここまでで散々、「販売価格を原価や時給だけで逆算してはいけない」という話をしてきましたが、ここからはその理由についてさらに掘り下げて説明していきます。
販売価格を原価や時給だけで決めてはいけない理由は、以下の2つです。
- 原価や時給以外にも考慮すべきものがたくさんある
- 商品が実際に持つ価値を考慮しなければいけない
まず、販売価格を決める場合には、原価や時給以外にも考慮すべきものがたくさんあります。
- 販促費
- 競合他社の販売価格
- 自社が売っているほかの商品の価格
- 消費税
こういったものを考えなければいけないからこそ、原価だけを参考にしてはいけないわけですね。
そしてもう1つ、とても重要なのが、商品が実際に持つ価値を考慮しなければいけないということです。
たとえ手間も原価もかからない商品であったとしても、作るためにあなたの会社が独自で持っている技術が必要不可欠だというのなら、その分希少性が付き、価値が上がります。
そうなれば当然、原価率や利益率の基準値以上の価格設定をすることができるわけです。
また、同じ価値を持った商品でも、どのように顧客に価値を伝えるかによって販売価格は大きく変わってきます。
現に弊社のクライアントの中には、価値をしっかりと伝えることで価格を20倍にまでアップさせた経営者もいるほどです。
価格を20倍にまでアップさせた成功事例については、この記事内で詳しく説明しています。
ぜひ、参考にしてみてください。
このように、販売価格はさまざまな要因で決定されます。
だからこそ適正価格を付けたいなら、原価や時給だけを見ていてはいけないのです。
基本的な販売価格の決め方は9種類ある
ここからは、具体的な販売価格の決め方を9種類紹介していきます。
これらを参考にして総合的に判断すれば、原価から逆算するだけよりも適正な価格設定ができるはずです。
1.コストプラス法 | コストプラス法は、原価に利益を加えた価格です。 主に製造メーカーが用いる価格設定法で、原価と予定利益から逆算するシンプルな計算式となっています。 「販売価格 = 原価 + 予定利益」 |
2.マークアップ法 | マークアップ法は、主に卸売業者が用いる価格設定法です。 コストプラス法と同じく「原価」に「利益」を加えるのですが、原価の中に販促費や人件費を含めて計算します。 「販売価格 = (原価 + 販促費 + 人件費) + 予定利益」 |
3.市場価格追随法 | 市場価格追随法は、すでに市場に出回っている競合製品(競合サービス)を基準にして販売価格を決める方法です。 「他社の商品に比べてここが勝っているから販売価格を上げる」、「他社の商品より原価を抑えることができているから価格を安くして勝負する」といった形で販売価格を決めます。 |
4.プライスリーダー追随法 | プライスリーダー追随法は、同じ業界に大きな影響を与えているリーダー的な企業を参考にして販売価格を決める方法です。 ただ、業界のリーダー的な企業となると大手になる可能性が高いので、中小企業や個人事業主がそこと安値競争をするのは得策であるとは言えません。 そのため、どちらかと言えばリーダー企業との差別化で勝負をしていく方が良いでしょう。 |
5.慣習価格法 | 慣習価格法とは、過去から何十年と慣習的に設定されてきた値段にならって販売価格を決める方法です。 たとえば、ジュースは120円、ガムは100円、といった感じですね。 ただ、習慣になるほど価格を定着させている企業は、基本的に大手となるはずです。 つまり、中小企業や個人事業主の立場で価格競争をするべき相手ではありません。 そのため、習慣価格法で割り出される価格についてはあくまでも目安として、そこから差別化を図っていくべきでしょう。 |
6.名声価格法 | 名声価格法とは、「品質や付加価値の違い=プレミアム」を作ることによって、一般的なサービスや製品よりも高い販売価格を設定する方法です。 簡単に言ってしまうと、差別化戦略ですね。 とくに中小企業や個人事業主は、この名声価格法を積極的に取り入れていくきです。 商品やサービスの差別化を図ることはもちろんですが、その価値を顧客にどうやって伝えるかによっても、販売価格は大きく変わってきます。 |
7.端数価格 | 端数価格は、少し値段を下げることで価格の桁を落とし、お買い得感を演出するための方法です。 たとえば1000円の販売価格を付けたい商品の場合、あえて値下げをして980円にします。 すると、1000円という大台に乗らない価格帯となり、ユーザーはお得感を感じてくれるのです。 スーパーやコンビニなどにいくと、よく980円や1980円といった価格を目にすると思います。 それこそがまさに、端数価格の実例です。 |
8.段階価格 | 段階価格は「極端の回避性」という人間心理を利用した価格設定法であり、「松竹梅の法則」とも呼ばれています。 どういうことかというと、人間には3段階のものがあった場合、真ん中を選びやすいという特性があるのです。 つまり、2980円、1980円、980円といった3種類の商品があった場合、真ん中の1980円の商品がもっとも売れやすくなるということです。 飲食店などではよくこの法則を利用して、あえて2番目に安い商品の利益率を高めに設定したりします。 松竹梅の法則については別記事で詳しく解説していますので、そちらの方も確認してみてください。 |
9.抱き合わせ価格 | 抱き合わせ価格とは、メインの商品とサブの商品を組み合わせてセットにすることで値段が安くなるように設定する方法です。 分かりやすい例としては、マクドナルドのセットなどが有名ですね。 たとえばパソコンを買うさいのマウスやキーボードのように、メインの商品に対してこれもあった方が良い、という商品があるのなら、ぜひ自社でも販売を開始して、セット販売のプランを作ってみてください。 |
以上が、9つの価格設定法です。
確認していただければ分かるとおり、9つの価格設定法では、原価や利益といった売り手側の視点だけでなく、買い手側の心理についても考えられています。
結局お金を出すのは買い手側なので、買い手側がどう感じるのかというところが非常に重要だということですね。
ちなみに9つの価格設定法については、「【価格設定の9つの方法】マーケティング戦略や消費者心理が重要!?」で詳しく解説しています。
価格を設定する方法について詳しく書かれた記事なので、ぜひこちらの方も併せて確認してみてください。
実際に販売価格を20倍にまで上げた方法と実例
販売価格を決めるさいの参考として、実際に弊社のクライアントが販売価格を20倍にまで上げることに成功した事例を紹介していきます。
この成功事例を作り出したのは、治療院を経営している田中さんという方です。
田中さんは当初、周りの治療院と同じような価格でサービスを提供しており、日々の忙しさに目を回していました。
このままでは体調を崩してしまうし、勉強をする時間も取れないと感じた田中さんは、ある施策を行います。
それが、「価値をしっかりと伝えたうえでサービスの価格を上げる」ということです。
すると、多くのお客さんが田中さんの治療が持つ価値を理解してくれて、価格が上がったあとも田中さんの治療院に通い続けてくれました。
さらに価格が上がったことで時間的な余裕が生まれ、田中さんは勉強をする時間を確保することもできたのです。
その結果、サービスの価値はどんどんと上がっていき、価格を当初の20倍にしてもお客さんが来てくれる人気の治療院となりました。
このように、販売価格はお客さんがどれくらいの価値を感じてくれているかで大きく変わります。
田中さんの場合は、もともと質の高いサービスを提供していたのに、周りに合わせて価格設定をしてしまっていたために損をしていたわけですね。
【まとめ】販売価格は顧客目線で決めることが重要
今回は、販売価格の決め方について説明してきました。
販売価格を決めるさいにもっとも重要なのは、顧客が商品やサービスに感じている価値を参考にするということです。
一般的に販売価格は、原価、時給、競合の価格などを参考にして決められています。
しかし、それらより重要なのが、「顧客が感じている価値」です。
そして顧客が感じる価値は、こちらの伝え方によって変えることができます。
たとえば、同じ商品を売っていたとしても、叩き売りをしている会社の製品とプレミアム感を演出している会社の製品では、売れる価格が大きく変わってしまうはずです。
販売価格はこのように、顧客が感じる価値で決定されます。
もし販売価格に迷っているのなら、顧客が自社商品の価値についてどう感じているのかをアンケートなどで確認し、参考にしてみてください。
この記事でも紹介させていただきましたが、販売価格を決める方法はいくつか存在しています。
しかし、もっとも重要なのは顧客が感じている価値なのだということを覚えておいてください。