今回の記事では、「ABC分析」についてわかりやすく解説をしていきます。
ABC分析は重点分析とも呼ばれ、やり方を理解すれば売上やコストについてランク付けをすることができるようになります。
つまり、本当に重要な商品を割り出し、そこに注力することができるようになるということです。
資金力や労力に限りがある中小企業にとって、ABC分析で注力すべき部分を割り出すのは非常に重要であると言えます。
とくに在庫管理をするときには、ぜひ行っておきたい分析手法です。
そこで今回はABC分析について、以下のような内容をお伝えしていきます。
- マーケティングにおけるABC分析とは?
- ABC分析を行う目的(メリット)
- ABC分析を実践する5つの手順
- 実際にABC分析を行うときの注意点
- ABC分析とセットで必ず行うべきこと
使える資源が限られている中小企業だからこそ、ABC分析を駆使して優秀な部分を重点的に伸ばしていきましょう。
マーケティングにおけるABC分析とは?
マーケティングにおけるABC分析とは、売上やコストの構成比を分析し、A、B、Cの3段階でランク付けをすることで各商品の重要度を推し量る分析手法のことです。
※行動分析学、心理学におけるABC分析とはまた別モノです。
ABC分析は、もともと「パレートの法則」というものが元になっています。
パレートの法則とは、「経済において結果の8割を出しているのは全体の2割の要素である」ということを表す法則です。
つまり重要な2割に注力すれば、結果の8割を改善することができるということですね。
※関連記事「パレートの法則で仕事を効率化!組織運用や売上アップに活かす方法」
このパレートの法則をさらに細分化したものがABC分析です。
パレートの法則では上位と下位の2種類という大きなランクを分けをしていましたが、ABC分析ではAランク、Bランク、Cランクの3つに分け、もう少し詳細にランク付けを行います。
さらにパレートの法則では売上の8割を占めるものを上位としていますが、ABC分析ではこの売上割合についても状況に合わせ、自分で設定します。
たとえば、売上構成比の上位70%をAランク、残りの内25%をBランク、そして残った5%をCランクにする、というような形にしたとしましょう。
この構成比を踏まえ、5種類の商品を取り扱っているお店でABC分析を行うと、以下のような表を作ることができます。
商品名 | 売上高 | 構成比 (売上割合) |
累計構成比 | ランク |
商品1 | 40,000 | 40% | 40% | Aランク |
商品2 | 30,000 | 30% | 70% | Aランク |
商品3 | 15,000 | 15% | 85% | Bランク |
商品4 | 10,000 | 10% | 95% | Bランク |
商品5 | 5,000 | 5% | 100% | Cランク |
合計 | 100,000 |
この場合だと、商品1と商品2がAランクとなり、とくに注力すべき部分であるということが分かります。
逆に商品5は売上への貢献度が低いため、不良在庫に注意しなければいけないということが考えられるわけですね。
とくに飲食店などで生ものを仕入れている場合は、なおさら注意しなければいけません。
またこのABC分析は、商品の売上高以外でも行うことができます。
たとえば「売上個数でABC分析を行って在庫管理に役立てたり」、「顧客別の客単価でABC分析を行って売上の大部分を占める優良顧客を割り出したり」することも可能です。
もしくは、業務時間や原材料費といったコスト面でABC分析を行うこともできます。
※ちなみに顧客分析については、全顧客の購入金額を10等分してランク付けをする「デシル分析」というものもあります。
このように3段階のランク付けを行い、重要なものやウェイトの重いものを抜き出していくのがABC分析であるということですね。
ABC分析を行う目的(メリット)
ABC分析を行う目的、メリットとしては以下のようなものが挙げられます。
- 売れ筋商品を把握できる
- 在庫管理の指標になる
- 顧客選別を行える
ABC分析は情報を可視化するのに長けた分析手法であるため、このような目的に適しているのです。
それでは1つずつ解説していきましょう。
ABC分析の目的、メリット1.
売れ筋商品を把握できる
ABC分析を行えば注力すべき売れ筋商品を把握することができます。
「どの商品が会社の売上の大部分を占めているのか」が可視化されれば、今後の課題や戦略がより見えてくるはずです。
また売れ筋商品は、流行や季節の移り変わりや、もしくは競合の出現などによっても変わるものなので、一定期間毎にABC分析を行えば最新の売れ筋商品をチェックすることもできます。
今まで売れ筋だった商品が死に筋なることも少なくないので、ABC分析をこまめに行うことで常に最新の売れ筋商品を把握しておきましょう。
ABC分析の目的、メリット2.
在庫管理の指標になる
ABC分析を行えば売れ筋商品を把握することができるため、在庫管理に役立てることもできます。
たとえばランクAの商品は多めに在庫を仕入れておき、ランクCの商品は最低限に留めておくことで、無駄のない在庫管理を実現できるのです。
適正な在庫管理は、在庫切れによる機会損失を防ぎつつ、不良在庫による無駄な経費を削減することに繋がります。
ABC分析の目的、メリット3.
顧客選別を行える
ABC分析は商品だけでなく、顧客に対しても行うことができます。
たとえば客単価や購入回数でABC分析を行えば、自社の利益を支えてくれている優良顧客を割り出すことができるのです。
資源が限られている中小企業にとって、優良顧客を選別して注力することは非常に重要であると言えます。
なぜなら、会社を支えてくれるファンを作ることが、順調な企業経営をするうえで欠かせないものだからです。
詳しくは「顧客選別は絶対に必要!会社にとって良い顧客に残ってもらう方法とは」の記事内で説明しているので、併せてチェックしてみてください。
ABC分析を実践する5つの手順
実際にABC分析を実践するときには、以下の5つの手順で行うのがおすすめです。
- 商品の品目、売上のデータをまとめる
- 品目ごとに売上割合(構成比)を計算する
- 分類の基準を明確にする
- 品目をABCで分類する
- パレート図を作成する
それでは順を追って説明していきましょう。
ABC分析の手順1.
商品の品目、売上のデータをまとめる
まずはABC分析に使うためのデータを収集し、まとめましょう。
売上に関してABC分析を行うなら商品の品目別に売上高や売上個数のデータを、顧客管理のためのABC分析を行う場合は顧客別に累計客単価や購入頻度をまとめることになります。
※今回の記事ではわかりやすく説明するため、「売上に対するABC分析」に統一して手順を説明していきます。
収集したデータについては、エクセルでまとめておくとあとから計算や並び替えがしやすいのでおすすめです。
ABC分析の手順2.
品目ごとに売上割合(構成比)を計算する
まとめたデータを基に、それぞれの構成比を計算しましょう。
たとえば売上のABC分析を行う場合の構成比は、「品目の売上 ÷ 全体の売上」で割り出すことができます。
各品目の構成比が計算できたら、構成比の高い順に上から並べておいてください。
ABC分析の手順3.
分類の基準を明確にする
割り出した構成比を参考にして、ランクの分類基準を決めましょう。
何%までをAランクにして、残りの何%までをBランクにするのかという基準ですね。
業種や業務形態によって変わってきますが、以下の範囲で割合を調整するのが一般的です。
- Aランク → 全体売上の70%~80%までを占める品目
- Bランク → Aランクの品目を除いて全体売上の90%~95%までを占める品目
- Cランク → Aランク、Bランク以外の品目
どれくらいの基準でABC分析をやればいいのか分からないという場合は、上記の範囲を参考にすると良いでしょう。
ABC分析の手順4.
品目をABCで分類する
分類基準が明確になったら、実際にランクの分類を行っていきます。
これで重要な品目を割り出すことができるはずです。
ABC分析の手順5.
パレート図を作成する
ABC分析の結果をより視覚的に確認するため、パレート図というものを作成することもあります。
パレート図とは、各品目の売上と累積構成比を以下のようにグラフでまとめた図のことです。
棒が売上で、線が累積構成比を表しています。
こちらを確認すれば、より視覚的に品目の重要度を把握することができるのです。
ちなみにエクセルなら、品目名、売上、累積構成比の表を作り、そのセルを選択した状態で上部メニューの「挿入⇒おすすめのグラフ」をクリックすれば、簡単にパレート図を作成することができます。
とくに品目数が多い場合や、もしくはレポートにして人に説明をしなければいけないときには非常に便利なので、必要であれば作成しておきましょう。
実際にABC分析を行うときの注意点
商品や顧客の重要度を視覚化することができるABC分析ですが、実践するときには以下の3点に注意しなければいけません。
- 売れる期間が決まっている商品は考慮する必要がある
- ロングテール現象が起きている場合は参考にしにくい
- 集客用の商品は低いランクでも重要度が高い
1つずつ説明していくので、よく理解しておいてください。
ABC分析の注意点1.
売れる期間が決まっている商品は考慮する必要がある
季節性が強い商品やたまたま流行になっている商品については、十分に考慮したうえでABC分析を進めていく必要があります。
売上が大きいと思って下手に在庫を増やし、そのあとで流行が終わってしまった場合、大量の不良在庫を抱えかねないからです。
実際、ひと昔前に「白いたいやき」が流行っていたとき、これはいけると思って店舗を拡大した結果、ブームが終わって一気に倒産してしまったという会社の事例がありました。
季節性や流行性のある商品は、あくまでも一時的な売上増であるということをきちんと理解しておきましょう。
ABC分析の注意点2.
ロングテール現象が起きている場合は参考にしにくい
もしあなたの会社でロングテール現象が起きている場合、ABC分析はあまり意味を成しません。
ロングテール現象とは、メインではない複数の商品が総売上の大部分を生み出しているような状態のことをいいます。
たとえば有名ECサイトであるAmazonでもこのロングテール現象が起こっています。
Amazonでは一握りの人気商品が売上を支えているのではなく、細々と売れている商品が大量にあって、それが売上を支えているのです。
ちなみにこのロングテールをあえて狙っていくことをロングテール戦略といいます。
ロングテール戦略については別記事でも解説しているので、そちらも併せて参考にしてください。
⇒ロングテール戦略の効果的な使い方とは?考え方と成功事例を解説
ただし、ロングテール戦略は資源の豊富な大企業向けの戦略なので、中小企業の場合はそこまで考えなくて良いかもしれません。
ABC分析の注意点3.
集客用の商品は低いランクでも重要度が高い
ABC分析でCランクであったとしても、集客用のフロントエンド商品の場合は重要度が高い場合があるので注意が必要です。
フロントエンド商品の目的はあくまでも見込み客に最初の購買行動を取らせることなので、売上や利益における重要度とはまた別に考えなければいけません。
たとえば、化粧品のお試しセットを1,000円で売っている場合、そこではほぼ利益は出ていないはずです。(むしろ赤字になっている場合も多くあります)
しかし、このフロントエンド商品の質が良いからこそ、大きな利益となるバックエンド商品の購買に繋がります。
そのため、Cランクだからといって力を抜いて良いというわけではないということですね。
ABC分析を行う場合は、集客用の商品は度外視して考えるようにしましょう。
ABC分析とセットで必ず行うべきこと
ABC分析を行ったら、必ずセットで利益の見直しについても行いましょう。
というのも、会社経営をするうえで本当に重要なのは売上ではなく利益だからです。
たとえば、売上の大部分を占めるAランクの商品や顧客が、その実ほとんど利益を出していないとなれば、それはかなり大きな問題であると言えます。
いくら集客しても楽にならない、忙しいのにお金はないという中小企業の経営者が、実はかなり多いということをご存知でしょうか?
たとえば私が知っている中では、「リピートのお客さんはたくさんいたのに利益率が低すぎたゆえに社長や従業員が疲弊してしまい、そのまま総崩れになって倒産してしまったパーソナルトレーニングの企業」という事例があります。
とくに資源の限られた中小企業の経営を行っていくうえで、低い利益率という問題はもっとも避けるべきものなのです。
それが売れ筋であるAランク商品であればなおさらのことですね。
では利益率に問題があった場合どうすれば良いのかというと、まずは商品価格の見直しを行ってください。
なぜなら利益率の低い商品の多くが、安すぎる値段設定によって利益を削ってしまっているからです。
「そんなことをしたらお客さんが減って売上が下がってしまう」と考えるかもしれませんが、だからといって利益が取れない状況を放置はできませんよね?
仮に必要な利益が取れる価格にすることで商品が売れなくなるというのなら、それは商品やサービスの質に問題があるということになります。
つまり、利益率が低い時点でどちらにせよ改善しなくてはいけないということなのです。
とはいえ、価格の上げ方に工夫は必要です。
良くない価格の上げ方をしてしまえば、深刻な顧客離れに繋がりかねません。
【まとめ】ABC分析で在庫管理が効率的に行える
今回はABC分析について詳しく解説をしてきました。
ABC分析を行えば注力すべき売れ筋商品と改善すべき死に筋商品を特定することができるため、在庫管理をより効率的に行えるようになります。
売れ筋商品については機会損失しないように十分な在庫を用意し、死に筋商品については不良在庫にならないように仕入れ過ぎないということができるわけですね。
さらにABC分析は在庫だけでなく、顧客管理に用いることもできます。
優良顧客を割り出すことができれば、その顧客に注力したり、次回プロモーション時のターゲットを特定したりすることができるのです。
ただし、ABC分析を行う場合は、売上だけでなく利益についてもしっかり確認するようにしておいてください。
たとえば売れ筋商品が大きな売上を上げていても、利益率が低ければ必ずしも重要であるとは限らないからです。
とくに中小企業の限られた資源では、低い利益率の商品を大量に売って利益を上げる薄利多売戦略は絶望的なほど向いていません。
そのためもし売れ筋商品の利益率が低い場合は、まずは利益率の改善ができないかを考えてみてください。
具体的には、商品の価格を上げられないかを最初に考えてみるべきです。
単純に商品価格を上げれば、その分利益の向上に直結します。
さらに言えば日本の中小企業の多くが自社の商品を安売りし過ぎてしまっている傾向にあるため、とくに利益率が低い商品については、価格を上げてもお客さんが離れない可能性は高いです。
ABC分析は現状を把握するためにも便利な分析方法です。
ぜひ1度、あなたの会社でも実践してみてください。