今回のテーマは、商品が市場に普及して消失するまでの流れを表す「プロダクトライフサイクル(PLC)」についてです。
プロダクトライフサイクルを理解していないと、本来は撤退を考えなければいけない段階でどんどんと商品に投資してしまい、結局大赤字になってしまう危険性があります。
逆にプロダクトライフサイクルを理解しておけば、適切なタイミングで投資、撤退、継続といった経営戦略的な判断をすることが可能です。
そこで今回はプロダクトライフサイクルについて、以下のような内容でお話ししていきます。
- プロダクトライフサイクルの理論とは?
- プロダクトライフサイクルを念頭に置いたマーケティング戦略
- プロダクトライフサイクルをが機能する事例、機能しない事例
現状、プロダクトライフサイクルをあまり意識していないという場合は、ぜひ今回の記事を参考にしてください。
プロダクトライフサイクルの理論とは?
プロダクトライフサイクルとは、新しい商品が市場に普及してから需要がなくなって消失するまでの流れを4段階に分けた理論のことです。
- 導入期
- 成長期
- 成熟期
- 衰退期
このように商品の普及には4つの段階があり、それぞれの段階でマーケティング戦略を変えていく必要があります。
またプロダクトライフサイクルは商品に対してだけでなく、市場全体に対して当てはめることも可能です。
ただし後述しますが、すべての商品や市場がこの4つの段階で分けられるというわけではありません。
中にはプロダクトライフサイクルにおける4つの段階が当てはまらないものもあるのです。
とはいえ非常に多くの商品や市場がこの4つの段階を経て衰退していきます。
とくに中小企業が扱う商品については、ほぼプロダクトライフサイクルが当てはまると考えて良いでしょう。
つまり、それぞれの段階の特徴と取るべき戦略を知っておけば、適切なマーケティング戦略を立てることができるようになるというわけですね。
それではそれぞれの段階について、詳細を説明していきます。
プロダクトライフサイクル1.
導入期
「導入期」はプロダクトライフサイクルの最初の段階であり、商品を市場に投入した段階のことをいいます。
商品を投入してすぐであるため、認知度はかなり低い状態です。
そのため、どうすれば認知度が上がり、少しでも多くの人に商品を試してもらえるか、ということを考えなければいけません。
逆にこの段階でがっつり売上、利益を上げようとするのは難しいと言えるでしょう。
むしろ販促費に大きなコストがかかりがちなので、この段階だけで見れば赤字になってしまう例も多くあります。
たとえば楽天モバイルが提供している「Rakuten UN-LIMIT」が、記事執筆段階(2020年9月)で1年間プラン料金無料というサービスを打ち出しています。
CMもばんばん流しているため、この段階ではおそらく大きく赤字でしょう。
ただ今の段階で認知度を高め、シェアを増やすことができれば、1年後の成長を大きくすることができるはずです。
このように「導入期」は、たとえ一時的に赤字になってでも市場に商品を浸透させていくことを考えます。
プロダクトライフサイクル2.
成長期
認知度が高まり、商品が市場に広まりだす段階が「成長期」です。
ただし、もちろん市場に商品が広まるかどうかは、いかにユーザーのニーズに応えられているかどうかで決まります。
ちなみにプロダクトライフサイクルを市場全体に当てはめた場合でも、需要がどんどん拡大していく段階です。
供給が需要に追い付かない段階であるため、参入している市場が「成長期」であれば、比較的簡単に売上、利益を伸ばすことができます。
仮に新たな市場に参入するなら、市場全体が「成長期の前期」にあたる時期に参入するのがもっとも効率的です。
例を挙げると、少し前まで「タピオカ」がかなりの流行になっていました。
もともとは女子高生からブームが広まったと言われていますが、女子高生からそれ以外の層にブームが広がっていく時期が「成長期」にあたります。
実際多くの店がタピオカを取り扱ったり、タピオカ専門店ができたりしていましたね。
このように、商品の需要が一気に広まっていく段階が「成長期」です。
プロダクトライフサイクル3.
成熟期
成長期が終わって需要がピークに達すると「成熟期」になります。
成長期のときは需要に対して供給が少なかったわけですが、商品が市場に生き渡ったり、競合が出現して価格競争が始まったり、そのバランスが逆転してくるタイミングです。
成熟期に入ってくると出せば売れるという状況ではなくなってくるため、成長期に比べて利益が伸びにくくなります。
そのため売り方に工夫が必要になったり、競合との差別化が必要になったりしてくる時期だと言えるでしょう。
また市場全体で見た場合、成熟期は新規顧客よりリピーターが重要になってくる時期でもあります。
成長期のあいだにいかに新規顧客からリピーターを獲得しているかが、利益をあげるカギになってくるのです。
そのため、「成熟期」に新規参入を狙うというのは正直おすすめできません。
プロダクトライフサイクル4.
衰退期
「衰退期」に入ると、売上、利益がどんどん低下していきます。
商品にしろ市場にしろ衰退していく時期なので、市場のシェアを大きく獲得していなければ撤退を考える段階です。
たとえば白いタイヤキが流行ったとき、この「成熟期」に大手ショッピングセンターに出店し、流行の衰退とともに大赤字を出してしまった事例もあります。
「成長期」、「成熟期」のときと同じ感覚でビジネスをしていると痛い目をみるのが「衰退期」であるということですね。
プロダクトライフサイクルと似た意味を持つ言葉
ここまでプロダクトライフサイクルの意味について説明をしてきましたが、以下のように混同しがちな言葉もいくつかあります。
- プロダクトライフサイクルマネジメント
- イノベーター理論
混同しないように、それぞれの意味についても軽く説明していきます。
プロダクトライフサイクルと似た言葉1.
プロダクトライフサイクルマネジメント
プロダクトライフサイクルマネジメント(PLM)とは、工業製品を開発するときの一連の過程を総合的に管理する手法のことです。
プロダクトライフサイクルと言葉は似ていますが、意味は全然違うので注意してください。
プロダクトライフサイクルと似た言葉2.
イノベーター理論
イノベーター理論とは、新しい商品や概念が普及するときのプロセスを、以下の5つの顧客タイプに分けて考える理論のことです。
- イノベーター(革新者)
- アーリーアダプター(初期採用者)
- アーリーマジョリティー(前期追随者)
- レイトマジョリティ(後期追随者)
- ラガード(遅滞者)
新しいものに飛びつきやすい「イノベーター(革新者)」から保守的な「ラガード(遅滞者)」まで顧客を5段階に分け、商品が普及していく流れを分析します。
「イノベーター(革新者)」と「アーリーアダプター(初期採用者)」を合わせると全体の16%になるのですが、そこから「アーリーマジョリティー(前期追随者)」に普及するかどうかに溝(キャズム)があり、その溝を超えられるかどうかが商品が広く普及するかどうかを分けると言われています。
詳しくは「イノベーター理論とは? 5つの顧客タイプとキャズムの理解で商品が売れる」という記事で解説しているので、併せて確認しておいてください。
プロダクトライフサイクルを念頭に置いたマーケティング戦略
プロダクトライフサイクルを念頭におくと、以下のようなマーケティング戦略が考えられます。
まず、「導入期」に必要なのは認知度の向上と販売促進戦略の確立です。
そのために、あるていどの初期投資が必要となります。
場合によっては黒字にならなくても、無料お試しや大幅割引などの思い切ったキャンペーンを行うという戦略もありです。
次に「成長期」は「導入期」と一転し、売上、利益の最大化を考える必要があります。
具体的には、価格の適正化、販路の拡大、製造ラインの拡大、競合への対応、などです。
そして「成長期」が終わって「成熟期」に入ってくると、今度は差別化やポジショニングを考えていかなければいけません。
「成熟期」には競合が増え、需要の伸びが落ち着いてくるタイミングであるため、競合他社に勝つための戦略が必要となってくるのです。
自社の市場シェア率を踏まえ、それに合った戦略が必要となります。
中小企業がこの「成熟期」に消耗戦を仕掛けてしまうと大きな損害を受けてしまう可能性があるので、注意してください。
そして「衰退期」に入ってくると、市場からの撤退を考えなければいけなくなってきます。
市場の購買意欲はかなり低下しているので、新規顧客の獲得が難しくなるのです。
とはいえリピーターが多い場合は衰退期でも上手く利益を出し続けられる例もあります。
経営者はそういった状況を加味して、撤退するか、存続するか、新しい市場を開拓するか、といった選択をしなければいけません。
以上がプロダクトライフサイクルを念頭に置いたマーケティング戦略の考え方です。
お客さんや市場の動きを察知し、今がどの時期にあるかを常に確認するようにしましょう。
プロダクトライフサイクルが機能する事例
プロダクトライフサイクルですが、事業によって機能する場合と機能しない場合があります。
プロダクトライフサイクルが機能する事例としては、「タピオカ」や「白いタイヤキ」といった流行性の強いものが挙げられますね。
基本的に一気に流行したものは、プロダクトライフサイクルの4つの段階を一気に駆け抜けていきます。
一気に広まり、一気に売上が上がり、一気に競合が増え、一気に流行を終えるのです。
事業で考えると、「SEOによるアフィリエイト」や「せどりなどの小規模な物販」といった参入障壁が低いビジネスも、プロダクトライフサイクルの進行が早かったと言えます。
実際、一時期は乱立していたSEO対策の会社も、今ではその多くが倒産していますね。
このように流行性が強かったり参入障壁が低かったりする商品、市場は、プロダクトライフサイクルが強く機能すると言えるでしょう。
プロダクトライフサイクルが機能しない事例
プロダクトライフサイクルが機能しない事例としては、生活必需品や独自性の強い商品が挙げられます。
まず生活必需品は、流行などに関係なく必要なものであるため、「成熟期」が非常に長いです。
たとえば「炊飯器」は、形は変わっても衰退せず、ずっと市場に残っています。
このように生活に欠かせないものは、イノベーションが起こって新しい技術が普及しない限り、衰退期が来ません。
そのため、一概にプロダクトライフサイクルに当てはめることができないのです。
あとは独自性が強い商品についても、「成熟期」が長く続き、衰退期がなかなか来ないといった特徴があります。
たとえば薬酒である「養命酒」は、その独自性の高さから400年もの長いあいだ愛され続けています。
「成熟期」がずっと続き、ずっと衰退していないわけですね。
このように、プロダクトライフサイクルが必ずしも機能するわけではないということは認識しておきましょう。
【まとめ】プロダクトライフサイクルは常に意識する必要がある
今回はプロダクトライフサイクルについて解説をしてきました。
プロダクトライフルサイクルは、商品が市場に登場し、普及し、衰退するまでの流れを表したサイクルです。
とくに流行性の強いものはプロダクトライフルサイクルの流れが早いという特徴があります。
また、各段階によってとるべき戦略が変わってくるので、経営者は今がどの段階にあるかをしっかり把握しておかなければいけません。
ちなみにプロダクトライフサイクルにおける「成長期」には、利益を最大化する必要があります。
そこで重要なのが、しっかりと適正価格で商品を売るということです。
というのも日本の中小企業は、価格設定で弱気になりやすいという特徴があります。
競合と無理な価格競争をしてしまい、「成長期」という絶好の時期に、忙しいのに利益が出ないという状態に陥ってしまう企業が本当に多いのです。
流行している商品に手を出し、引き際を間違えて一気に借金を背負ってしまうという経営者はかなり多いです。
そうならないように、プロダクトライフサイクルについては常に意識するようにしておきましょう。