今回は、中小企業という視点から見た薄利多売についてお話をしていきます。
社長をやっている人か、もしくは個人で物販ビジネス(せどりや中国輸入など)をやっている人なら、誰もが1度は薄利多売の戦略について考えたことがあるのではないでしょうか?
商品やサービスの価格を下げればよく売れるようになるけれど、その分利益が落ちてしまう、と頭を悩ませる社長は多いです。
実際、薄利多売には、メリットがある反面デメリットも存在しています。
そこで今回は、薄利多売に関する疑問にお答えしていきます。
- 薄利多売のメリット。デメリットはどんなものがあるか?
- 薄利多売をやってもいいビジネスとやってはいけないビジネスは?
- 薄利多売を脱して利益を倍増させるための戦略とは?
このような疑問を持っている、もしくはこのような話題に興味があるのなら、ぜひこの先を読み進めてみてください。
あなたの欲しい答えがあるはずです。
薄利多売の意味とは?
薄利多売(はくりたばい)とは、利益を少なくすることで値下げを行ったり、生産力を上げて、その分大量の商品を売りさばくという商法です。
薄利多売では、商品1つ1つの利益は少なくなりますが、その分うまく売上数を上げることができれば莫大な利益を生み出すこともできます。
その性質上、回転率が高い商品、もしくは手間のかからないサービスを扱っている場合に効果的です。
たとえばファーストフード店なんかは、回転率を上げて安い商品を大量に売りさばくことで大きな利益を得ていますね。
ちなみに、薄利多売の対義語は厚利少売(こうりしょうばい)です。
薄利多売とは逆の意味を持っていて、高い利益率を持つ商品を少数の人に売り込むことをいいます。
この商法なら、売れる商品数は少なくても1つ売れるだけで大きな利益を得ることができるというわけです。
厚利少売という商法は、主に高所得者を狙った高級店などで採用されています。
あと注意しておきたいのが、薄利多売と多売薄利(たばいはくり)の違いです。
前述したとおり、薄利多売は1つの商品に対する利益率を薄くすることで大量の商品を売りさばき、結果的に大きな利益を得る商法です。
一方多売薄利は、たくさん売っても利益が薄い、ということを意味しています。
同じように聞こえるかもしれませんが、薄利多売はポジティブな意味で、多売薄利はネガティブな意味でとらえていただけると分かりやすいです。
戦略的に利益率を下げているのか、不本意に利益率が下がっているのかの違いだと考えてください。
ちなみに、頭ごなしに「薄利多売は良くない」と言う人は、薄利多売と多売薄利を混同していることが多いです。
このように薄利多売は、あくまでも戦略的に利益率を下げ、その分多くの商品を売りさばくことで、結果大きな利益を得る商法のことをいいます。
そのため基本的には、ポジティブな捉え方をするべき言葉です。
薄利多売の3つのメリット
薄利多売の戦略には、3つのメリットがあります。
- 顧客数と売上を伸ばしやすい
- 少数の顧客が離れても影響が少ない
- 多くの口コミが集まり、認知度が上がる
これらのメリットを上手く活用することができれば、利益率が落ちたとしても利益自体は増加するはずです。
それではこれらがそれぞれどのようなメリットなのか、詳しく説明していきましょう。
薄利多売のメリット1.売上と利益を伸ばしやすい
薄利多売がうまく機能していれば、売上と利益を伸ばすことができます。
そもそも薄利多売の基本戦略は、商品1つに対する労力を減らすことで、その分多くの商品を売り、多くの売上と利益を獲得するというものです。
たとえば、個人事業主が1日に利益が10,000円出る商品を1個作り、売っていたとします。
この商品は、どうがんばっても1人で1日1個しか作ることができません。
そこで働き方を変えて、1日8,000円で10人の外注を雇い、自分は彼らに指示を出す仕事に専念することにしました。
すると、1日に10人で10,000円の利益が出る商品を10個作れるようになります。
それがすべて売れれば、1日に10万円の粗利益になるということです。
そして10万円の粗利益から外注費10人分として80,000円を支払い、その残りがあなたの純利益となります。
すると純利益は20,000円となり、元の10,000円よりさらに10,000円増えることになるのです。
1商品単位で考えると1万円から2000円と利益が大幅にダウンしていますが、全体の利益としては倍増しています。
これが、薄利多売の基本戦略です。
もちろん、商品がきちんと売れることが大前提ですが、もし採算が取れる程度に商品が売れる見込みがあるのなら、薄利多売という商法はとても効果的だと言えます。
薄利多売のメリット2.少数の顧客が離れても影響が少ない
薄利多売ではたくさんの顧客を相手にしますので、少数の顧客が離れても影響が少ないというメリットがあります。
仮に、あなやの会社が1つの取引先に対して商品を卸していた場合、その取引先に何かがあればあなたの会社も共倒れになってしまいます。
一方、色々な取引先に商品を卸していた場合は、最悪1つの取引先がダメになったとしても、ほかの取引先がまだ存在しているため、なんとか持ちこたえることができるのです。
さらに顧客数が多ければ、商品を売るさいのリスクを抑えることもできます。
たとえば、利益が100円出て購入率1%の商品Aを100人に営業したとします。
理論上、平均1つは売れて、100円の利益が見込めるはずです。
しかし購入率が1%しかないと、100人に営業をかけても1つも売れずに利益が0になってしまう可能性も高いのです。
一方、利益が10円出て購入率10%の商品Aを100人に営業したとします。
理論上、平均10個は売れますが、利益率が商品Aの1/10しかありませんので、同じ100円が見込利益となります。
そして商品Bの場合、購入率が10%ありますので、100人に対して1つも売れないということはほぼ起こり得ません。
〇商品Aの場合
購入率は1%のため、1人の顧客に対して商品が売れない確率は99%(0.99)
それが100人連続で起こる確率は、「0.99^100=約36%」
つまり、36%の確率で商品が1つも売れないことになります。
〇商品Bの場合
購入率は10%のため、1人の顧客に対して商品が売れない確率は90%(0.9)
それが100人連続で起こる確率は、「0.9^100=約0.0027%」
つまり、商品が1つも売れない確率は0.0027%しかありません。
このように薄利多売を行った商品Bは、商品Aとは違い、1か0かというリスクの高い商売を避けられるのです。
言い換えると薄利多売は、顧客1人当たりのリスクを抑えられるわけですね。
薄利多売のメリット3.顧客数が増え、多くの見込み客や口コミが集まる
薄利多売は売る商品の数を増やす商法ですので、当然、あなたの商品やサービスを手に取るお客さんの数は増えます。
顧客数が増えるということは、見込み客のリストが増えるということです。
つまり、高価なバックエンド商品を売り込めるチャンスも増えるということですね。
そのため薄利多売は、たとえその商品の採算が合わなかったとしても、結果的に全体を通して考えると大きな利益を生み出す場合もあります。
さらに薄利多売で顧客数を増やせば、口コミによる公告効果を得ることも可能です。
たまに量販店で赤字覚悟の商品を売りに出したりするのも、多くの人を集めることでこの広告効果を狙っているわけですね。
とくに今は、食べログやぐるなび、Googleマップなど、インターネット上で手軽に口コミを投稿したり、もしくはそれを参考にしたりできる時代になっています。
そんな時代だからこそ、薄利多売によって客数を増やし、口コミを集めるという戦略がより効果的に働くのです。
薄利多売の3つのデメリット
薄利多売には、3つのデメリットも存在しています。
- 多くの労力がかかってしまう
- 利益率が低いため、赤字になりやすい
- 顧客の質が落ちる
あなたのビジネス形態によっては、薄利多売は大きな問題を起こしてしまうこともあるのです。
それぞれどんなときに、どのようなデメリットとして働くのか、詳細を説明していきます。
薄利多売のデメリット1.多くの労力がかかってしまう
薄利多売で利益を出そうとした場合、薄利多売ではない場合に比べて、多大な労力がかかってしまいます。
増えた作業のすべてを外注で回せるようならまだ良いのですが、社長と数人の社員だけで薄利多売戦略を取ってしまうと、高い確率でパンクしてしまうのです。
実際、顧客数や売上だけを考えて商品やサービスの価格設定を低くし過ぎてしまった、という社長は多くいます。
それこそ、「仕事が忙しいため細部まで手が回らない → サービスの質が落ちる → 良い顧客(ファン)が離れる → 倒産する」という会社は多いです。
つまり人手の少ない中小企業の場合、いくら顧客数や売上を増やせたとしても、利益率が悪ければリソース不足が起こり、どこかで潰れてしまうということですね。
薄利多売のデメリット2.利益率が低いため、赤字になりやすい
薄利多売は利益率を下げる商法であるため、原材料の値上げなどで赤字に転じやすいという問題もあります。
直近で言うと、マヨネーズやバターが原材料費高騰のため値上げを行いましたね。
そして薄利多売戦略を取るということは、それがあなたの会社においても起こり得るということです。
しかも、薄利多売で商品の安さばかりを押し出していた場合、少しの値上げで顧客離れを起こしてしまう可能性もあります。
そうなれば、ただでさえ利益の低い商品の売上数が大きく下がってしまうかもしれないのです。
利益率の低い商品が少ししか売れないとなれば、もちろんビジネスは破綻してしまいます。
薄利多売のデメリット3.顧客の質が落ちる
薄利多売で多くの顧客に商品を売ってしまうと、顧客の質が落ちてしまうといった問題もあります。
顧客の質が落ちるとクレームや返品が増えたり、すぐに顧客離れを起こしてしまう原因になったりするのです。
そもそも薄利多売で集まるお客さんというのは、基本的に価値ではなく安い価格を目当てにしています。
それこそ、どれだれ高品質な商品を作り上げようとも、価格が1円でも上がればクレームを入れてくるようなお客さんが多いのです。
要は、あなたの会社や商品のファンではないということですね。
質の良くない顧客は、クレームという形であなたの会社に多大な労力をかける反面、利益率の高い商品は買ってくれません。
それでも多くの市場シェアを獲得できるような大企業ならば問題はないのですが、中小企業の場合、利益率の高い商品が売れずに手間ばかりかかるというのは大問題です。
このように、知名度のない中小企業の場合、薄利多売で顧客数は増えても、良い顧客(ファン)は増えにくいのです。
この事実は、しっかりと覚えておいてください。
ちなみに、良い顧客と悪い顧客を選別する方法については、別記事にて説明しています。
そちらの方も併せて確認していただければ、顧客の質の重要性を理解していただけるはずです。
⇒顧客選別は絶対に必要!会社にとって良い顧客に残ってもらう方法とは
薄利多売で成功したビジネスと失敗したビジネスの事例
ここからは、薄利多売で成功したビジネスモデルと失敗したビジネスモデルの事例を紹介していきます。
自分の会社と見比べてどうなのか、確認してみてください。
薄利多売で成功したビジネスモデル
薄利多売で成功したビジネスモデルを持つ企業としてもっとも有名なのは、おそらくAmazonではないでしょうか。
Amazonと言えば、誰もが知っている世界的インターネット通販サイトです。
(参考:Amazonトップページ)
物販から動画配信まで、非常に多くの商品が安価で揃うということで、世界190か国以上の人々に愛用されています。
そして、Amazonがここまで成長できた要因こそが、薄利多売戦略なのです。
Amazonは、下手をすれば利益が出ないんじゃないかというくらいの薄利多売を行い、たくさんのお客さんを集めました。
そして、巨大なプラットフォーム、つまり、世界中から人が集まる巨大モールをインターネットの中に作り上げたのです。
その結果、今ではAmazonに依存しているという人が数多く存在しています。
Amazonで店舗を出している人たちはもちろん、基本的に買い物はすべてAmazonで行うという人も多数いるのです。
さらにAmazonは、動画配信、電子書籍、ゲームなど、事業をどんどんと拡大しています。
すでに莫大な人数が集まるプラットフォームで新しい事業が始められるわけですから、集客や売上に悩むことはおそらくないでしょう。
このように薄利多売は、長期的に多くの人を相手にすることでその強みを発揮します。
そのため、企業規模や資金力が求められることがほとんどなのです。
薄利多売で失敗したビジネス
薄利多売で失敗したビジネスモデルとして、私が実際にお会いした個人向けフィットネスクラブの元経営者さんのお話をさせていただきます。
その方のフィットネスクラブは少人数で経営されており、パーソナルトレーニングをメインのサービスとしていました。
パーソナルトレーニングとは、トレーニングをするさいにトレーナーが付き、指導を受けることができるというサービスです。
元経営者さんは、数人のトレーナーで会社を立ち上げ、各々がトレーナーとして仕事をすることで会社を運営していました。
そして結果、その会社を倒産させてしまったのです。
この経営者さんが失敗してしまった要因は2つありました。
- 競合に対抗しようと低い価格設定をしてしまい、薄利多売(多売薄利)になっていた
- トレーナーにかかる労力を把握できていなかった
簡単に言ってしまえば、小さな規模で薄利多売戦略をとってしまったため、激務に追われるうえに利益が少ないという状況を作り出してしまったわけです。
このように、無理な薄利多売戦略を取ってしまうと、十中八九ビジネスは破綻してしまいます。
とくに中小規模の会社では、よほど手間のかからない商品でない限り、薄利多売戦略には手を出さない方が無難でしょう。
リスクなく薄利多売(多売薄利)を辞める方法
リスクなく薄利多売(多売薄利)を辞める方法は、言い換えればリスクなく商品やサービスの価格を上げるという意味です。
そしてそれは、実は簡単に実践することができます。
なぜなら、ほとんどの社長が、自社のサービスや商品をかなり安く見積もってしまっているからです。
そもそも価格設定は、目標を明確化して行う必要があります。
そのことについて、国の中小企業政策の中核的な実施機関である中小機構では、以下のような図で説明しています。
(参考:J-Net21価格設定の考え方)
しかし、中小企業の社長で失敗してしまう人の多くは、ただ競合より安くして売上を確保したいという一心で、考えなしに安値を付けてしまうのです。
つまり、「価格を上げる」という話をすると多くの社長が顧客離れの危険性を考えて顔色を曇らせますが、実は価格を適正なものに戻すだけに過ぎないわけですね。
そのため、上手に価格を上げることができれば、顧客離れは最小限に抑えることができます。
さらに言えば、そこで離れて行った顧客は、価値ではなく価格を見ていた、つまりあなたのファンではない顧客です。
言い方を変えれば質の悪い顧客ですね。
あまり体力のない中小企業や個人事業主の場合、こういった顧客には、むしろ離れていってもらった方がプラスになります。
なぜなら、売上自体は彼らが購入してくれるような安い商品分しか減らない反面、あなたや会社にかかる労力については大きく削減することができるからです。
では実際、どうすれば上手く価格アップができるのか?
【まとめ】薄利多売が向いていないビジネスもある
今回は、薄利多売についてお話をしてきました。
薄利多売は、上手に使えば大きなメリットをもたらしてくれるビジネスモデルです。
しかしその反面、体力のない中小企業が間違った方法で手を出してしまうと、多売薄利となってしまい、数々のデメリットを被ることになってしまいます。
薄利多売が向いているのは、基本的には大企業です。
リソースや資金力があり、市場シェアを多く獲得できる会社で行ってこそ、薄利多売は活きてきます。
逆に、中小企業や個人事業主の場合は、薄利多売はあまりおすすめできません。
大手企業ほどのリソースや資金力はないはずなので、顧客数を無理に増やしてしまうと、最悪自滅することになってしまいます。
しかし現状、競合や売上だけに目が行ってしまい、商品やサービスの価格を安く設定してしまっている社長は山ほどいます。
そしてそういう社長の会社は残念ながら、どこかで転んで倒産してしまうのです。
とはいえ、ご安心ください。
薄利多売からの脱却は、案外簡単にできます。
薄利多売自体は、決して悪いものではありません。
しかしビジネスの中には、薄利多売に向いているものと向いていないものがあります。
そして事実、向いていないビジネスで薄利多売戦略を取ってしまうと、多売薄利となってしまい、会社を潰してしまうことになるのです。
だからこそ、もし今あなたの会社が薄利多売でうまくいっていないようなら、ここで一度立ち止まって考えてみてください。
もしかすると薄利多売を辞めた途端に、業績がうなぎ上りになるかもしれません。