今回は業界(市場)の収益性を分析できるファイブフォース分析(5F分析)について解説をしていきます。
どれだけ優れた商品やビジネスモデルを持っていても、業界自体の収益性が低ければビジネスは上手くいきません。
ビジネスは業界の流れに乗って行うものなので、逆流に向かっていっても失敗することは目に見えています。
その業界の流れを読み解くために必要なのが、業界の収益性を計ることができるファイブフォース分析です。
ファイブフォース分析を行えば自社の収益性を確認したり、新規参入や事業撤退の判断材料を得たりすることができます。
つまりファイブフォース分析は、経営者であるあなたが正しい判断をするために役立つということです。
そこで今回はファイブフォース分析について、以下のような内容をお話ししていきます。
- ファイブフォース分析の意味
- ファイブフォース分析を行う目的(メリット)
- ファイブフォース分析のやり方を事例で解説
経営者にとって、業界の状況を把握する能力は必須であると言えます。
ファーブフォース分析を使いこなし、勝てる市場でビジネスを行っていきましょう。
ファイブフォース分析とは
冒頭でも少しお話ししたとおり、ファイブフォース分析とは業界(市場)の収益性を計るための分析手法のことです。
アメリカの経済学者であるマイケル・ポーターが著書『競争の戦略』で語ったことで有名になりました。
(参考:Wikipedia_ファイブフォース分析)
ファイブフォース分析では、以下の5つの力を分析し、総合的に見てその業界にどれほどの収益性、優位性があるのかを判断していきます。
- 業界内の競合
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
- 売り手の交渉力
- 買い手の交渉力
これら5つは業界の収益性を決める競争要因であり、業界の収益性を下げる力です。
つまりこれら5つの力が強ければ強いほど、その業界の収益性は低いと判断できるわけですね。
それではファイブフォース分析の5つの観点について、詳しく解説をしていきましょう。
ファイブフォース分析の観点1.
業界内の競合
「業界内の競合」では、同じ業界にどれくらいの競合がいるかを分析していきます。
仮に業界内に目立った競合がいないなら、あるていど自社の好きに価格設定をすることが可能です。
しかし業界内に自社と同じレベルの競合がたくさんいた場合、価格競争が起こることで業界全体の収益性が著しく低下してしまいます。
もし「業界内の競合」の力が強いと判断した場合は、その市場から撤退するか、もしくは他社との差別化を図って市場をズラすかした方が良いでしょう。
ファイブフォース分析の観点2.
新規参入の脅威
「新規参入の脅威」では、業界内の参入障壁を分析していきます。
参入障壁が高い場合、新規参入が容易にできないことから競合が増えず、自社の収益を維持しやすいです。
しかし参入が容易な業界の場合、競合がどんどんと増えていってしまうため、収益性が低下しやすくなってしまいます。
「新規参入の脅威」が強い場合は、新規参入してきた競合が容易にマネできない自社独自の強みを作る必要があるということですね。
ちなみに「参入障壁」については別記事でも詳しく解説しているので、併せてそちらも確認しておいてください。
⇒参入障壁を具体例で正しく理解!障壁が高い業界・低い業界、作り方まで解説
ファイブフォース分析の観点3.
代替品の脅威
「代替品の脅威」とは、業界内のニーズを奪ってしまう代替品がどれくらいあるかを分析していきます。
たとえば航空業界では、ZOOMのようなテレビ会議システムを脅威として認識しています。
なぜかというと、「テレビ会議が主流になる ⇒ 会議のために出張をする人が減る ⇒ 飛行機の利用者が減る」と考えているからです。
このように全然違う業界の商品が業界内の収益性を下げてしまう可能性は大いにあります。
この脅威性を表すのが、「代替品の脅威」であるということですね。
ファイブフォース分析の観点4.
売り手の交渉力
「売り手の交渉力」は、仕入を行っている取引先がどれくらいの力を持っているかを分析していきます。
たとえばあなたがビジネスを行ううえで「どうしても〇〇社の△△という商品を仕入れなければいけない」という状況であった場合、△△からどれほど値上げされても買わざるを得なくなってしまいます。
そうすると当然、原価が上がってしまうため、収益性が著しく下がってしまう要因になり得るのです。
もし仕入先の業界が少ない企業に独占されているような状況なら、ある日突然原価が一気に高騰してしまう危険性があるということを理解しておくべきでしょう。
ファイブフォース分析の観点5.
買い手の交渉力
「買い手の交渉力」で分析するのは、あなたのお客さんがどれくらいの力を持っているかです。
取引先が強い業界の場合、向こうの値下げ要求を飲まなくてはいけなくなってしまったり、無理な要求を受けなくてはならなくなってしまったりします。
たとえば大手企業に部品を製造して納品するような業種の場合、大手企業の都合に合わせて値下げ要求をされたり、無理な納期を設定されたりしがちですね。
逆に値上げをしようとしても、強い反発を受けてしまってなかなか上手くいかないことが多いでしょう。
もし買い手に対する優位性があまりに低い場合は、自社のビジネスモデルを見直す必要があるかもしれません。
ファイブフォース分析を行う目的(メリット)
ファイブフォース分析によって業界内の収益性を分析する目的(メリット)としては、以下のようなものが挙げられます。
- 自社の収益性を向上させる
- 将来の問題点を把握する
- 新規参入、事業撤退の判断に役立てる
それでは1つずつ解説していきましょう。
ファイブフォース分析の目的1.
自社の収益性を向上させる
ファイブフォース分析を行えば、自社の競争優位性を明確にして収益性を向上させることができます。
ファイブフォース分析で脅威性が低い部分があれば、そこに対しては強気でビジネスを進めていけるということですね。
たとえば「業界内の競合」、「新規参入の脅威」、「代替品の脅威」の力が弱い場合は、思い切って値上げをすることもできます。
値上げをしても結局あなたの商品を買わざるを得ないわけですから、簡単に利益率を上げることができるはずです。
ただし、値上げのやり方を間違えると既存のお客さんから大きな反感を買うことになってしまうので注意してください。
ファイブフォース分析の目的2.
将来の問題点を把握する
ファイブフォース分析を行えば、自社の競争優位性が低いところを把握することができます。
競争優位性が低いということは、将来的に問題になる可能性が高いということです。
たとえば「新規参入の脅威」が強い場合、今はたとえ上手くいっていたとしても、将来的には競合が多く参入し、価格競争が起こる可能性が極めて高いと言えます。
もしくは「買い手の交渉力」が強すぎる場合、取引先の景気が悪くなったときには無理な値下げ要求を受けてしまう可能性が高いです。
ファイブフォース分析を行えば、このような問題点を把握し、起こる前に対策を練ることもできます。
ファイブフォース分析の目的3.
新規参入、事業撤退の判断に役立てる
ファイブフォース分析は業界の収益性を計る分析手法であるため、新規参入・事業撤退の判断に役立てることもできます。
業界の収益性が高ければ新規参入に向いていますし、あまりに低ければ事業撤退を考えるべきです。
新規参入や事業撤退を考えているなら、ファイブフォース分析は漏らさずにやっておきましょう。
ファイブフォース分析のやり方を3つの事例で解説
ここからはファイブフォース分析のやり方を、以下の事例を交えて解説していきます。
- マクドナルド(ハンバーガー業界)
- ユニクロ(アパレル業界)
- セブンイレブン(コンビニ業界)
これらの事例を見ていけば、各要点をどのように分析していけば良いか分かるはずです。
それでは1つずつ確認しいていきましょう。
ファイブフォース分析の事例1.
マクドナルド(ハンバーガー業界)
有名なハンバーガーチェーン店であるマクドナルドでファイブフォース分析を行うと以下のようになります。
〇業界内の競合
モスバーガーやロッテリアなど、ハンバーガーチェーン店の競合はかなりの数がいます。
そういう意味では、業界内における競合の脅威は高いと言えるでしょう。
しかし、その中でもマクドナルドは圧倒的なシェアを獲得しており、競合他社もマクドナルドとは市場をズラして勝負してきているため、競合に対する競争優位性は高いです。
〇新規参入の脅威
ハンバーガー業界の新規参入としては、海外企業の国内参入が考えられます。
しかし現状、マクドナルドは国内における圧倒的なシェアを誇っているため、新規参入業者がマクドナルドを脅かすのは難しいと言えるでしょう。
〇代替品の脅威
ハンバーガー業界(ファストフード業界)は、代替品の脅威が非常に高いです。
牛丼チェーン店やラーメン屋、回転ずしなど、安くて早くておいしいというお店が数多くあります。
さらにコンビニエンスストアが販売しているお弁当やお惣菜も、手軽に買えるという意味では競合と言えるでしょう。
食事は生活に欠かせないものであるゆえに、どうしても代替品も多くなってしまうということですね。
〇売り手の交渉力
マクドナルドは日本国内でも有数の大手企業であるため、取引先に対する交渉力は非常に高いです。
つまり「売り手の交渉力」として見た場合、脅威の度合いは低いということですね。
さらにマクドナルドは非常に多くの店舗を運営しているため、規模の経済(生産量や生産規模を高めることで生産効率が良くなる現象)も当てはまります。
そういう意味でも、売り手に対してマクドナルドは非常に強い企業であると言えるでしょう。
〇買い手の交渉力
マクドナルドは買い手(消費者)に非常に親しまれているため、あるていどの交渉力を有していると言えます。
しかし業界全体で見た場合、買い手からしてもスイッチングコスト(ほかのお店に乗り換えるときのコスト)がほぼ0に等しいので、その気になればすぐにでもお店を乗り換えることが可能です。
実際、安全面での問題が浮上したときには、買い手の多くが競合や代替品に移ってしまったため、マクドナルドは非常に苦しい思いをしました。
そういう意味で総合的に考えれば、「買い手の交渉力」はそれなりに高いと言えるでしょう。
〇マクドナルドの総合的な判断
ハンバーガー業界全体で見た場合は非常に多くの脅威がありますが、マクドナルドは圧倒的なシェアを誇っていることから、国内では非常に高い競争優位性を誇っています。
しかし、競合や代替品の多さから、業界的に買い手(消費者)に対してはそこまで優位に立つことができません。
さらに「マクドナルドは安くてそこそこおいしい」という「安いイメージ」を持っている人が多いことから、何か問題があれば簡単に乗り換えられてしまう危険性があります。
ファイブフォース分析の事例2.
ユニクロ(アパレル業界)
次に、国内アパレル業界の王者であるユニクロについてファイブフォース分析を行っていきましょう。
〇業界内の競合
アパレル業界は競合の数が多いと言えます。
安いお店としては「しまむら」や「無印良品」、おしゃれなお店としては「GAP」や「ZARA」といった海外勢がユニクロの競合となるでしょう。
〇新規参入の脅威
新規参入の脅威としては、最近一気に普及してきているネット通販が強いです。
とくにAmazonが非常に多くのデータを活用し、アパレル業界でも存在感を増しています。
また、アパレル業界は商品のセンスやマーケティング次第で小規模事業者が十分に戦える業界でもあるので、新規参入者は比較的多いです。
〇代替品の脅威
アパレル業界の代替品としては、衣装のレンタルが挙げられます。
しかしユニクロは安い価格で生活に必要な服を売っているため、代替品の脅威としてはそこまで大きくないと言えるでしょう。
〇売り手の交渉力
中国を始めとした東南アジアの人件費が上昇傾向にあるため、売り手の交渉力は年々上がっていると言えます。
逆にいうと今までは売り手の交渉力の低さを武器にしてきた業界でもあるので、生産拠点を移すなどの対策が必要となってくるでしょう。
〇買い手の交渉力
国内の若者があまりお金を使わなくなったことを受け、ユニクロは海外事業に力を入れています。
国内よりも買い手の交渉力が低い海外市場に事業拡大していくことで、結果を出しているということですね。
〇ユニクロの総合的な判断
ユニクロは独自のバリューチェーンによって安くて良い商品を作っているため、生産拠点の人件費が上がっている問題からは目を背けることができません。
「売り手の交渉力」が強くなっている点に対してどのように対策するかが注目点の1つであると言えるでしょう。
さらに今後は通販事業がどんどん伸びてくることから、Amazonや楽天といった非常に多くの顧客データを持っている企業とどのように戦っていくかを考える必要があります。
ファイブフォース分析の事例3.
セブンイレブン(コンビニ業界)
日本国内で最大手のコンビニチェーンストア、セブンイレブンについてもファイブフォース分析を行ってみましょう。
また今回はセブンイレブン本部ではなく、店舗オーナーの立場で分析を行っていきます。
〇業界内の競合
コンビニ業界には、ローソンやファミリーマートといった競合がおり、競争が激しいです。
さらにセブンイレブンはドミナント戦略(地域を絞って集中的に出店する経営戦略)も行っているため、場合によっては同じセブンイレブン店舗の店舗同士でお客さんの喰い合いをしてしまうこともあります。
とくにコンビニオーナーという立場で考えると、競合の存在は非常に脅威であると言えるでしょう。
〇新規参入の脅威
コンビニエンスストアはフランチャイズ経営であり、開業資金も数百万円で済むため、参入障壁は非常に低いです。
実際、調子の良かった店舗が近隣の新店舗によって売上を一気に落とされてしまうということも少なくありません。
そのため、新規参入の脅威は極めて高いと考えられるでしょう。
〇代替品の脅威
最近はドラッグストアの存在がコンビニエンスストアの代替品として目立ってきました。
広い敷地でコンビニエンスストアより品揃えが良く、商品価格が安く、さらにスーパーよりも入りやすいため、非常に怖い存在であると言えます。
もしドラッグストアの多くが24時間営業をするようになった場合、コンビニ業界全体の収益性が大きく下がってしまうかもしれません。
〇売り手の交渉力
セブンイレブンの店舗オーナーにとって、売り手はセブンイレブン本部です。
この両者の力関係はニュースで問題として取り上げられるほど明らかで、店舗オーナーはかなり立場が弱いと言わざるを得ません。
「売り手の交渉力」が圧倒的に強く、覆すことができない状態です。
〇買い手の交渉力
コンビニエンスストアは店舗数の多さによる手軽感が武器であり、同じセブンイレブンであれば価格差もあまり生じないことから、買い手から価格交渉を受けるようなことはほぼないでしょう。
ただし店員のサービスや店舗の清掃状況が悪いと、近くの多店舗に移られてしまう可能性は高いです。
そういう意味で考えると、「買い手の交渉力」も侮れません。
〇セブンイレブン(店舗オーナー)の総合的な判断
セブンイレブンの店舗オーナーとして考えた場合、競争優位性はあまり高いとは言えないでしょう。
ただ、安い資金でセブンイレブンの完成されたビジネスモデルを使用できるため、その点に関しては魅力があります。
しかしそれは反面、店舗独自の強みを打ち出すことが難しいという意味でもあります。
そのためセブンイレブンに限らず、コンビニエンスストアの店舗オーナーには一定のリスクがあると考えておいた方が良いでしょう。
【まとめ】ファイブフォース分析で業界の収益性を知ることができる
今回はファイブフォース分析について解説をしてきました。
この分析を行えば、業界の収益性を計り、それに対して自社がどのような立ち位置にいるかを知ることができます。
「自社の収益性を向上させたい」、「将来の問題点を把握し、解決しておきたい」、「新規参入、事業撤退を考えている」という場合には、ぜひ分析をしてみてください。
業界の収益性を知っておくことは、ビジネスを成功させるうえで重要なことです。
業界の収益性が低ければ、どれだけビジネスモデルが優れていても利益は出ません。
だからこそ、できるだけ収益性の高い業界で事業を展開することを考えましょう。