今回は良い意味と悪い意味を併せ持つ「カニバリゼーション」について解説をしていきます。
カニバリゼーションは、もともと自然界における共食いを意味する言葉です。
そしてこの共食いは、ビジネスの世界でも起こり得ます。
「共食い」と聞くと良くない言葉だと思われるかもしれませんが、実はカニバリゼーションは必ずしも悪いことではありません。
事実、マーケティング戦略の一環としてカニバリゼーションが利用されることもあるのです。
とはいえ、意図しないカニバリゼーションについては、やはりデメリットが大きいと言えます。
そのため、カニバリゼーションを起こさない対策も重要となってくるのです。
そこで今回は、カニバリゼーションについて以下のような内容でお話ししていきます。
- カニバリゼーションの2つの意味
- カニバリゼーションのメリット、デメリット
- 意図しないカニバリゼーションの対策方法
- カニバリゼーションの事例
ぜひ、経営やマーケティングの参考にしてください。
カニバリゼーションの2つの意味とは?
カニバリゼーションはその言葉のとおり、共食いを意味しています。
詳しくは、自社の製品や店舗同士が同じ需要を食い合う状態のことです。
たとえば自社で似たような商品を出し、同じターゲット層に向けて販売する場合、高確率でカニバリゼーションが起こります。
もしくはすぐ近くに同じ系列のコンビニエンスストアが複数建てられるのも、同じ地域のお客さんを自社の店舗同士で食い合うカニバリゼーションです。
そんなカニバリゼーションですが、実は以下のように2つの種類があります。
- マーケティング戦略として意図的に起こすカニバリゼーション
- 意図せず起こるカニバリゼーション
カニバリゼーションはこの2つの種類によって、意味も効果も大きく変わってくるのです。
要は、メリットを期待して意図的に起こすか、意図せず起こってデメリットを受けてしまうか、ということですね。
意図的にカニバリゼーションを起こすメリット
以下の2つが、マーケティング戦略としてカニバリゼーションを意図的に起こすメリットです。
- 自社の競争力を強化することができる
- 自社内で競争を発生させることができる
それでは1つずつ解説していきましょう。
カニバリゼーションを起こすメリット1.
自社の競争力を高めることができる
カニバリゼーションを意図的に起こす理由として、自社の競争力を高めることができるからというものがあります。
カニバリゼーションの発生を覚悟のうえで業界内のシェアを取り切れば、競合が入るスキをなくすことができるのです。
たとえばA社という「チョコレートを作っている会社」があったとします。
そしてA社は一口でチョコレートと言っても、非常に多様な商品を作っていると考えてみてください。
スタンダードなチョコレートにビターチョコ、ミルクチョコ、チョコクッキー、チョコケーキ、といった感じですね。
このように多様なチョコレートを販売すれば、お互いがお互いの需要を奪い合うことになります。
普通のチョコレートしか売っていなければ全員がそれを買うところですが、ほかの種類があるとそちらに流れてしまうわけです。
しかし、実はこの食い合いにも意味があります。
どういうことかというと、シェアを取りこぼさないようにすることで、競合に対する自社のポジションを確立することができるのです。
A社のチョコレートは甘くて、B社のチョコレートはビター、となっていたところを、A社のチョコレートの中には甘いものもビターなものもある、としてしまうわけですね。
このような商品展開を行うことで、A社かB社かで悩んでいた人が、A社の商品の中でどれにしようかと迷うようになります。
そうなればA社は、チョコレート業界の中で確固たる地位と圧倒的な競争力を築き上げることができるのです。
カニバリゼーションを起こすメリット2.
自社内で競争を発生させることができる
意図的にカニバリゼーションを起こすもう1つの理由として、自社内で競争を発生させるためというものがあります。
自社内でカニバリゼーションが起こることで、部署や店舗間で競争が起こり、全体的なレベルアップにつながるのです。
たとえば、あえて狭い地域に店舗を集中させたり、複数の流通チャネルであえて同じ商品を販売させたり、といったやり方をします。
そうすることで、自社内で切磋琢磨が行われ、業務効率が上がったり、イノベーションが起こったりするわけですね。
競争が発生すれば効率が下がるため、そういった意味ではリスクがある手法ではあります。
しかし、その分社員のレベルを上げることができれば、会社にとって有利に働くはずです。
意図せずカニバリゼーションが起こるデメリット
メリットを狙って意図的に起こされることもあるカニバリゼーションですが、意図せず起こってしまい、デメリットを被ってしまうこともあります。
たとえば、以下のようなデメリットです。
- 無駄な資源を使ってしまう
- 利益率が下がる
- 社員のモチベーションが低下する
意図的にカニバリゼーションを起こす場合は、これらのデメリットに対する対策をきっちりしておかなければいけません。
そうしなければ、デメリットの影響が大きく出てしまう可能性があるからです。
それではデメリットについて、1つずつ解説をしていきましょう。
カニバリゼーションが起こるデメリット1.
無駄な資源を使ってしまう
カニバリゼーションが起こるということは、“無駄”が発生してしまうということです。
新しい商品を開発したりプロモーションを仕掛けたりするには、それなりの費用や工数がかかります。
それなのに既存の需要を食い潰すだけになってしまっては、非常に効率が悪いのです。
新商品を開発したり新しいプロモーションを仕掛けたりする前には、既存商品と需要の食い合いが起こらないよう、しっかり検討するようにしましょう。
カニバリゼーションが起こるデメリット2.
売上が低下する
カニバリゼーションが起こると、利益率の高い商品が売れなくなり、全体の利益率が低下する可能性があります。
なぜなら同じような商品があった場合、お客さんはよりお得な方を買いたいと思うからです。
たとえば「質は良くて高価な商品A」と「質はそこそこだけど安価な商品B」があったとします。
しかし企業努力により、商品Bの質が商品Aに迫るほどに向上した、と考えてみてください。
あなたはどちらを購入したいと思うでしょうか?
おそらく多くの人が、「質にそこまで大きな差がないなら安い商品Bを買いたい」と思うはずです。
すると、安価な商品Bが価格の高い商品Aの需要を食ってしまう、という現象が起こるわけですね。
高い商品が売れなくなって安い商品が売れるようになるわけですから、当然全体の売上は下がってしまいます。
さらに、安価で高品質を実現した商品Bは利益率も低いと考えられるため、全体の利益率も下がってしまう可能性が高いです。
売上も利益率も下がってしまえば、当然、利益は大幅にダウンしてしまいます。
このように安価な商品の質を上げた結果カニバリゼーションが起こり、企業全体の利益が下がってしまうということもあり得るのです。
カニバリゼーションが起こるデメリット3.
社員のモチベーションが低下する
カニバリゼーションは、社員のモチベーションにも悪影響を及ぼす可能性があります。
なぜなら自社内でカニバリゼーションが起こると、部署間で足の引っ張り合いが起こってしまうことがあるからです。
それこそ、社員が一生懸命考え、作業して実施したプロモーションなのに、同じ会社の別部署に大きく売上を奪われてしまう可能性も十分にあります。
それが良い意味での競争に発展すれば良いのですが、悪い方に出てしまうと、社内の雰囲気は悪くなり、社員のモチベーションを下げるキッカケにもなりかねません。
さらに部署間のコミュニケーションにも溝ができてしまう可能性があります。
もしカニバリゼーションを意図的に起こす場合は、社員のモチベーションに対するケアが必要になってくると考えておきましょう。
意図しないカニバリゼーションを防ぐ5つの対策方法
意図しないカニバリゼーションを起こさないためには、以下のような対策が効果的です。
- ターゲティングを綿密に行う
- テストマーケティングを行う
- 再ポジショニング(リ・ポジショニング)を行う
- 社内のコミュニケーションを強化する
- 代理店、フランチャイズ加盟店の管理を行う
これら5つの対策を行えば、意図しないカニバリゼーションが発生する確率を大きく下げられます。
それでは1つずつ解説していきましょう。
意図しないカニバリゼーションの対策方法1.
ターゲティングを綿密に行う
意図しないカニバリゼーションを防ぐためには、ターゲティングをしっかり行うようにしましょう。
大雑把なターゲティングをしているとターゲット被りが起こりやすくなるため、意図しないカニバリゼーション発生の大きな原因となってしまいます。
そのため、しっかりと情報収集をしたうえでターゲティングを行い、ターゲットが被らないようにしなければいけないのです。
ちなみにターゲティングについては別の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
⇒ターゲティングの見直しで利益が3倍になった成功事例!正しいターゲティング戦略の方法とは?
意図しないカニバリゼーションの対策方法2.
テストマーケティングを行う
テストマーケティングを行い、どのような層が商品を購入するのかを実際に確認することで、意図しないカニバリゼーションの発生を防ぐことができます。
テストしてみて意図しないターゲットからの反応が多くある場合は、そのまま進めるべきかどうかを精査する必要があるということですね。
さらにテストマーケティングを行えば、前述したターゲティングの精度を上げることにも繋がります。
意図しないカニバリゼーションの対策方法3.
再ポジショニング(リ・ポジショニング)を行う
意図しないカニバリゼーションを防ぐためには、再ポジショニング(リ・ポジショニング)を行うことも重要です。
なぜなら、既存商品のポジショニングが状況の変化によってズレてしまうことがあるからです。
たとえば高額でも売れるほど高性能な製品でも、時代の変化とともに旧世代の安価な製品というポジションに落ちてしまうことがあります。
つまり、今まで旧世代の安価な製品として売り出していた商品とカニバリゼーションが起こってしまうわけです。
このカニバリゼーションを回避するためには、今まで安価な製品として売っていた商品の価格をさらに落とすか、もしくは販売を停止するかしなければいけません。
つまり、商品のポジショニングを考え直さなければいけないわけですね。
意図しないカニバリゼーションの対策方法4.
社内のコミュニケーションを強化する
社内コミュニケーションを強化することも、カニバリゼーションの回避に繋がります。
なぜなら、コミュニケーションが取れていないことが原因でターゲットが被ってしまうことが起こり得るからです。
たとえば、いくつかのチームに分かれて集客の施策を行う場合などは、お互いに何をしているかを把握しておかないといけません。
違う媒体を使っていたり、違うポジショニングをしていたりしても、同じターゲットを取り合ってしまう可能性は十分にあります。
だからこそ社内でのコミュニケーションを強化し、情報の共有を行いましょう。
意図しないカニバリゼーションの対策方法5.
代理店、フランチャイズ加盟店の管理を行う
代理店契約やフランチャイズ契約をしている場合は、管理を行うことでカニバリゼーションを防ぐことができます。
中小企業で多いのは、個人事業主と成果報酬で代理店契約を結んでいるケースですね。
たとえば何人かと直接契約する場合、集客媒体が被る人選を避けたり、集客するときのポジショニングをあるていど指定したりすることで、カニバリゼーションを防げます。
意図したカニバリゼーションの事例
マーケティング戦略として意図的に起こしたカニバリゼーションには、以下のような事例があります。
- セブンイレブン
- トヨタ
この2社は、カニバリゼーションをあえて活用する戦略を実践しています。
あなたの会社でも活かせるヒントがあるかもしれないので、ぜひチェックしてください。
意図したカニバリゼーションの事例1.
セブンイレブン
セブンイレブンはドミナント戦略の一環として、意図的にカニバリゼーションを引き起こしています。
ドミナント戦略とは、特定のエリアに集中的に資源を投入してその市場の独占を狙う経営戦略のことです。
たとえば狭い地域にセブンイレブンの店舗を乱立させれば、そのエリア内にある競合の売上を落とし、締め出すことができます。
そうすることで、エリア内のコンビニシェアをセブンイレブンが独占できるというわけですね。
ただその弊害として起こるのが、セブンイレブン同士のお客さんの食い合い、つまりカニバリゼーションです。
しかしセブンイレブンの場合、フランチャイズ展開を行っているため、リスクをセブンイレブン本部とフランチャイズオーナーに分散することができます。
だからこそセブンイレブンはカニバリゼーションが起こることも覚悟のうえで、ドミナント戦略をとっているわけですね。
ただし、セブンイレブンを始めとしたコンビニエンスストアのカニバリゼーションについては、店舗オーナー側の負担が大きすぎるということで、実は失敗事例なのではないか、と考えている人も多いです。
意図したカニバリゼーションの事例2.
トヨタ
大手自動車メーカーであるトヨタは、カニバリゼーションを戦略的に行っています。
というより、BtoCの車業界は全体を通してカニバリゼーションを戦略的に行っていますね。
トヨタは、「トヨタ」、「トヨペット」、「カローラ」、「ネッツ」というように、ディーラーを系統で分け、同じ地域に展開しています。
もちろんディーラーによって取り扱っている車種は分かれているのですが、実際はその車種以外でも、あるていど柔軟に対応することができるのです。
つまり、同じトヨタ系列のディーラー間でカニバリゼーションが起こっているわけですね。
トヨタはあえてカニバリゼーションを起こすことで、地域内のシェアを獲得する戦略をとっています。
さらに地域内のディーラー同士を競争させることで、サービスの向上も図っているのです。
このようにトヨタは戦略的にカニバリゼーションを起こすことで、業界内での優位性やサービスの質を高めているわけですね。
意図しないカニバリゼーションの事例
ここからは、意図せずカニバリゼーションを起こしてしまった企業の事例も紹介していきます。
- いきなりステーキ
- AOKIホールディングス
この2社は、予期せぬかたちでカニバリゼーションを起こしてしまい、売上を大きく落としてしまったのです。
それでは1つずつ事例を解説していきます。
意図せず起きたカニバリゼーションの事例1.
いきなりステーキ
いきなりステーキは、無理な店舗拡大によって意図しないカニバリゼーションを起こしてしまいました。
一時の好調で一気にフランチャイズ店を増やしていった結果、同じ商圏内に複数出店し、お客さんの食い合いが起こってしまったのです。
実際、いきなりステーキは無理な店舗拡大が原因で、2018年4月からは連続で赤字を計上することになってしまいました。
このように、無理に事業拡大を行うとカニバリゼーションが発生し、最悪赤字に転落する原因にもなってしまうので注意が必要です。
意図せず起きたカニバリゼーションの事例2.
AOKIホールディングス
スーツをメインで取り扱っていた大手アパレルメーカーのAOKIは、新サービスによって予期せぬカニバリゼーションを起こしてしまいました。
AOKIは、お金のない20代、30代の若い世代が良いスーツを着られるように、「suitsbox」というスーツレンタルのサブスクリプションサービスを展開しました。
スーツレンタルを利用した若い世代が、お金に余裕ができたときにスーツを買ってくれると期待したわけですね。
しかし、このサブスクリプションサービスは、利用者が増えていたにもかかわらず、半年でサービス終了してしまいました。
なぜ終了してしまったのかというと、20代、30代が利用すると考えていたサブスクリプションサービスを、40代のスーツを購入してくれていた層が多く利用しだしたのです。
その結果、カニバリゼーションが発生し、スーツ販売の売上が落ちてしまったわけですね。
このように新商品を展開した結果、既存の商品とカニバリゼーションを起こしてしまうケースもあるのです。
【まとめ】カニバリゼーションの発生は悪いことだけではない
今回は自社内で需要を食い合ってしまう「カニバリゼーション」について解説をしてきました。
カニバリゼーションが起こると需要を食い合ってしまうため、事業の効率は低下してしまいます。
しかし、カニバリゼーションはきっちり管理して意図的に起こせば、メリットを得ることも可能です。
意図しない発生を避け、必要であれば狙って発生させるのがカニバリゼーションの本来の在り方であるということですね。
ただし、意図的なカニバリゼーションを起こす場合は、利益率が落ちてしまわないように注意してください。
今回の記事でも紹介した、セブンイレブンが行っているようなドミナント戦略は、多くの資本を持つ大手企業だからこそできる戦略です。
私たち中小企業の場合は、利益率を大幅に落としてまでカニバリゼーションを起こすメリットは薄いと言えるでしょう。
カニバリゼーションは意図的に起こすことでメリットがあるものの、基本はリスクやデメリットがあるものです。
とくに意図しないカニバリゼーションが起こってしまわないよう、注意しましょう。