今回は社会問題にもなっている「労働環境」についてお話をしていきます。
働き方改革が話題となり、労働環境の改善が注目を集めている昨今ですが、あなたが経営する会社の労働環境は整備されているでしょうか。
特に中小企業を経営する方にとっては、自社の利益を保ちながら労働環境を整備することに課題を感じている方も多いのでは?
2018年に株式会社PERSOLが行った調査を見ると、ビジネスパーソンが転職する理由の多くは、労働環境に問題があるということがわかります。
出典:転職理由ランキング2018<総合>(株式会社PERSOL)
このように会社の労働環境が整備されておらず、従業員に負担がかかってしまい、離職につながってしまうケースも少なくないのです。
実際に企業が人材不足で悩んでいる原因は、労働環境だということも大いに考えられます。
そこで、今回は労働環境について、以下の5つについて詳しく解説していきます。
- そもそも労働環境とは?
- 一般的に問題視されている4つの労働環境問題
- 労働環境を改善する3つの方法
- 労働環境を改善するときの注意点
- 労働環境を改善するために企業が行っている施策事例
この記事を読むことで、労働環境についての理解を深めて、自社の労働環境を整備することができるでしょう。
労働環境に課題を感じている経営者は、ぜひ参考にしてください。
そもそも労働環境とは?
はじめに、そもそも労働環境とはなんなのか? ということについてお話します。
労働環境とは、企業や個人に従事する人が働く環境のことをいいます。
日本では、給与の減少や労働時間の増加が問題視されており、劣悪な労働環境が原因で過労死してしまうことも。
このように労働環境の悪い企業を表すブラック企業と呼ぶ言葉もあり、労働環境の改善が重要視されています。
また、人口減少に伴う労働力不足も問題視されており、近年では「働き方改革」と称した施策を内閣府が取り組んでいます。
このように国が施策に取り組み始めるほどに、日本の労働環境には改善が必要だとされているのです。
労働環境という言葉は、もともと次の3つの条件を総称した言葉でした。
- 気候条件(温度・湿度・風速・気圧など)
- 物理的条件(採光・照明・色彩・騒音など)
- 化学的条件(ガス・蒸気・液体・固体のものによる有害物質など)
とはいえ、近年では職場の待遇や人間関係を指す意味で使われることも多くなりました。
そこで、この記事では近年の労働環境に焦点を当てて解説します。
一般的に問題視されている4つの労働環境問題
それでは、一般的に問題視されている4つの労働環境問題について解説します。
前の章でも少し解説しましたが、日本は国が労働環境を改善しようと取り組んでいるほど、労働環境が問題視されているのです。
今回は、あらゆる労働問題の中でも特に問題視されている以下4つの労働環境問題について解説します。
- 給与の減少
- 長時間労働
- 人件不足
- 生産性の低迷
自社の労働環境を改善したい方は、ぜひご一読ください。
労働環境問題1.給与の減少
日本の代表的な労働環境問題としてよく取り上げられるのが、給与の減少です。
平成30年の厚生労働省の報告によると、平成27年度の日本の1世帯当たり平均所得金額は545万8千円と報告されています。
出典:国民生活基礎調査(平成28年)の結果からグラフでみる世帯の状況(厚生労働省)
昭和60年以降、日本の世帯収入は平成6年の664万2千円をピークに、20年近く減少傾向にあります。
単純計算ですが、年間所得546万円で大学卒業の22歳から、一般的な定年退職である65歳までの43年間働いた場合の所得は2億3478万円です。
2019年に金融庁が老後資金は2000万円が必要と発表した「老後2000万円問題」や、子ども1人を大学卒業まで育てるために2000万円必要と言われていることを考えると、残金は約1億8000万円。
その他にも、税率の引き上げなどもあり、従業員の家計事情は厳しい状況にさらされている可能性も考えられます。
このように、日本の所得は減少傾向にあるのです。
労働環境問題2.長時間労働
次に紹介する労働問題は、長時間労働です。
日本で日常的にメディアなどで取り上げられている問題が、長時間労働です。
厚生労働省の調査によると、日本の総実労働時間は減少傾向にありますが、これはパートタイム労働者比率が増加したことによるものだと報告されています。
そのため、平成6年から約20年間の間、一般労働者の総実労働時間は約2000時間で横ばいになっています。
出典:我が国における時間外労働の現状(厚生労働省)
また、欧州諸国と比べて日本は労働時間が長いということ、長時間労働者の構成比が高いことも同じ調査で報告されています。
日本では、週の労働時間は原則40時間以内と労働基準法で定められています。
ただし、厚生労働省の報告では、日本の約60%の労働者が週に40時間以上働いていることが報告されています。
出典:我が国における時間外労働の現状(厚生労働省)
労働時間は違法だと判断されることや、従業員の体調にも影響を及ぼすことがあるため、企業は労働時間を適正化しなければいけません。
テクノロジーが発展しているにも関わらず、長時間労働が改善されていないことは、日本社会全体の課題といえるでしょう。
労働環境問題3.人件不足
次に紹介する労働環境問題は、人件不足です。
これは少子高齢化問題などの影響もあり、企業が収集な人材を含めて労働者を確保できないという問題です。
特に中小企業では、労働者を確保することが課題だと感じている企業も多いのではないでしょうか。
中小企業庁が毎年公表している中小白書によると、少子高齢化と生産労働人口の減少により、企業の人手不足が深刻化していると報告されています。
実際に中小企業が人件不足を感じているのかを確認してみましょう。
下の図は従業員数が「過剰」と答えた企業の割合から、「不足」と答えた企業の割合を引いた数値を示したものです。
業種別に見ても、数字が減少していることから、従業員の不足を訴える企業は年々増えているということがわかります。
出典:2019年版「中小企業白書」(中小企業庁)
世帯所得が減少していることから、子どもを生むことができない日本の現状を変えることができない限り、人手不足を完全に解決することは難しいでしょう。
特に中小企業は、設備投資にかける資金を持っていないケースも多いため、業務をオートメーション化することができず、人に業務が依存してしまうことも少なくないのです。
改めて自社を見直してみると、人件不足が原因で特定の人物に業務が集中したり、依存していませんか?
このように人件不足が原因で、そのしわ寄せが他の労働問題につながっているケースは少なくないのです。
労働環境問題4.労働生産性の低迷
労働生産性の低迷も日本の企業が抱える労働環境問題です。
労働生産性とは、従業員1人が生み出す価値のことを指します。
つまり、労働生産性が高いほど、従業員1人が生み出している価値が多く、効率よく価値が生まれているということです。
しかし、日本ではこの労働生産性が低迷しています。
公益財団法人日本生産性本部の2018年の報告によると、2017年の名目労働生産性は836万円と過去最高の数値を記録したと報告されています。
出典:日本の労働生産性の動向2018(公益財団法人日本生産性本部)
たしかに、上の図を見ても名目労働生産性は2012年から緩やかに増加しています。
しかし、過去からの推移を見ると1995年から大きな変動はなく、横ばいだということがわかるでしょう。
つまり日本の生産性は、約20年もの間、大きな変化はないのです。
また、世界的に見ても日本は労働生産性が低いということもわかっています。
出典:労働生産性の国際比較2018(公益財団法人日本生産性本部)
公益財団法人日本生産性本部の別の報告によると、OECD加盟36カ国の中で日本の1人あたり労働生産性は21位だと報告されています。
さらに、主要先進国7カ国の中だけで見ても、日本の1人当たり労働生産性は最下位だと報告されています。
先進国と言われておきながら、労働生産性が低迷していることが日本の労働環境の現状なのです。
労働環境を改善する3つの方法
次に労働環境問題を改善する3つの方法を紹介します。
自社の労働環境に問題がある場合は、労働環境を改善しなければ、従業員が離職してしまう可能性があります。
また、経営を続けていくことも難しくなる可能性もあるため、経営者は労働環境を整備することに注力しなくてはいけないのです。
- 多様なワークスタイルを導入する
- 人材の多様化
- ITを活用する
それぞれの改善方法について解説します。
労働環境を改善する方法1.多様なワークスタイルを導入する
労働環境を改善する1つ目の方法は、多様なワークスタイルを導入するということです。
ワークスタイルを多様化することで、従業員満足度が上がったり、交通費の削減交通時間の削減にも期待できます。
多くの一般的な企業では、決められた場所で決められた時間だけ働くというワークスタイルが一般的です。
しかし、これでは従業員のワークスタイルに柔軟性がないため、従業員の生活に自由度がありません。
そこで、近年注目されているのがワークスタイルの多様化です。
ワークスタイルの多様化とは、出勤時間を変更したり、リモートワークにしてどんな従業員でも働きやすいような環境を整えるということです。
たとえば、以下のような制度を導入することで、ワークスタイルを多様化することができます。
- リモートワーク
- フレックスタイム
- 短時間契約
- パラレルワーク
近年では、中小企業だけでなく、大手企業でもワークスタイルを多様化しています。
必ずしも、すべての従業員が柔軟に働かなければ行けないということではありませんが、このようなワークスタイルを用意しておくことで、従業員が働きやすい魅力的な企業になるでしょう。
労働環境を改善する方法2.人材の多様化
次に紹介する方法は、人材の多様化を行うことです。
人材を多様化することで、人件不足を改善や生産性の向上が見込めます。
社会のグローバル化が進む一方で、一般的な企業では日本人しか雇わなかったり、大卒者しか雇わないケースも少なくありません。
しかし、これでは人口が減少している日本で人件不足を改善することは難しいです。
そこで、人材を多様化することで、新たな人材の発見を行えるのです。
たとえば、
- 外国人雇用
- 障がい者雇用
- 中卒・高卒者の採用
このような採用制度や雇用制度を導入することで、社内の人材を多様化し、人件不足を改善することができます。
社内の人材を多様化することで、さまざまな文化や考え方を知ることができ、新たな施策のヒントを得られる可能性もあります。
多様な人材が活躍できる企業は少ないため、企業としてのロイヤルティを向上させることもできるでしょう。
労働環境を改善する方法3.ITを活用する
3つ目の方法はITを活用するということです。
ITを活用することにより、人件不足の現状があっても業務効率を上げて生産性を向上させることができます。
日本は、先進国でありながらテクノロジーの活用ができていないために、生産性が低迷していると言われています。
人件不足が原因だと言っている企業は多いですが、それを解決する方法は人材を増やすことだけではありません。
機械やツールなどのIT技術を導入することで、人が行うよりも早く的確に行える業務も数多く存在するのです。
たとえば、
- 経営管理ソフトの導入
- 業務のオートメーション化
- 書類の電子化
このようなIT技術を導入することで、人が行うよりも業務効率を上げたり、業務を行いやすくできます。
テクノロジーが急激に発展したため、理解を追いつかせることが難しいという考え方もわかりますが、IT技術を導入することで人件不足を解消し生産性を挙げられるということを覚えておきましょう。
労働環境を改善するときの3つの注意点
ここからは労働環境を改善するときの注意点について解説します。
労働環境を改善するときには、さまざまな人に影響を及ぼします。
そのため、経営者の考えだけで労働環境を変えることは絶対にしてはいけません。
そうならないためにも、以下の3つの注意点を意識してください。
- 従業員満足度を把握する
- 特定の従業員に業務が依存しないようにする
- 他社の労働環境を参考にする
それぞれの注意点について詳しく解説します。
注意点1.従業員満足度を把握する
1つ目の注意点は、従業員満足度を把握するということです。
従業員満足度を知ることで、会社の現状に従業員がどのような考えを持っているのかを明らかにできます。
具体的には、社内アンケートや聞き取りを行うことで、従業員が会社の従業員満足度を調査することができます。
自社の現状を知ることで、自己分析ができるようになり、労働環境の具体的な改善案を決めることができるのです。
労働環境の変化が最も影響するのは、従業員です。
従業員から意見をもらうことが、労働環境改善の一番大切なことといっても過言ではありません。
従業員満足度を上げるには、インターナルマーケティングを行うことが重要です。
インターナルマーケティングについては、当サイトの別記事で詳しく解説しています。
従業員満足度を上げて、労働環境を改善し業務効率を上げたい方は、ぜひご一読ください。
事例でわかるインターナルマーケティング!従業員満足度を上げる方法とは?
注意点2.特定の従業員に業務が依存しないようにする
労働環境を改善するとき、次に注意したいことは特定の従業員に業務が依存しないようにするということです。
特定の従業員に業務が依存してしまうと、その従業員にストレスが溜まってしまったり、その従業員がいないと業務が進まないなどの問題が発生してしまいます。
労働環境を改善すると、業務フローや担当者が変わることもあります。
そのときに、特定の従業員に業務が依存していないか確認しましょう。
注意点3.他社の労働環境を参考にする
最後に紹介する注意点は、他社の労働環境を参考にするということです。
他社の労働環境を知ることで、労働環境の良し悪しを具体的に知ることができます。
労働環境を改善するときには、どのように改善すればよいか、どこまで改善すればよいかを決めなければ、改善を行うことは難しいです。
そこで、他社がどんな労働環境を用意しているのかを知ることが大切なのです。
企業によっては、オリジナリティのあるユニークな福利厚生や施策を行っている場合もあります。
次の章で企業が労働環境改善のために行っている施策を紹介します。
労働環境を改善するために企業が行っている施策事例
最後に労働環境を改善するために他企業が行っている施策の事例を紹介します。
繰り返しになりますが、他企業が行っている施策を知って、自社の労働環境改善の参考にすることは大事です。
- 味の素株式会社
- 株式会社サイバーエージェント
以上2つの企業の労働環境改善のための施策を紹介します。
労働時間と給与を改善した「味の素株式会社」の事例
化学調味料を中心として、馴染みの深い味の素株式会社では、労働環境を改善するために2017年4月から2つの施策に取り組みました。
それが次の2つです。
- 従業員の給与を一律1万円アップ
- 労働時間を7時間15分に短縮
味の素株式会社では、年間労働時間を1800時間にすることを目標に労働時間削減に取り組んでいました。
しかし、労働時間を削減すると、残業代も減少するのではないかという社内の声をもらって、従業員の給与を一律1万円アップしました。
労働時間に関しては、それまでの所定労働時間7時間35分から7時間15分に変更し、20分の労働時間削減を行いました。
(参考:日経ビジネス電子版「味の素「水曜は午後5時に“強制”退社」の理由」)
女性が働きやすい労働環境を作った「株式会社サイバーエージェント」の事例
株式会社サイバーエージェントでは、女性が出産や育児があっても働きやすい環境を用意するため、女性活躍促進制度「macaron」という福利厚生を設けました。
女性の仕事をサポートするために、macaronには8つの制度があります。
不妊治療中の女性社員が治療などを行えるように、月1回まで利用できる妊活休暇や、子どもの緊急時に休暇がとれるキッズ在宅というリモートワーク制度などがあります。
どれもサイバーエージェント独自のもので、女性が家庭と仕事を両立できるような労働環境を作っているのです。
(参考:株式会社サイバーエージェントHP)
【まとめ】労働環境を改善して経営を安定させよう!
今回は社会問題としてメディアでもよく取り上げられる「労働環境」について解説しました。
労働環境を改善することで、従業員がストレスなく仕事に打ち込めることができます。
また、労働環境が改善されれば、従業員満足度も上がり、人件不足を未然に防ぐこともできます。
これを機に自社の労働環境を見直してみてはいかがでしょうか?
とはいえ、企業が経営を続けられるように、生産性を向上できるような労働環境にしなければ意味がありません。
生産性が上がり、結果的に自社の利益につながらなければ、従業員のモチベーションは下がってしまいます。
生産性が上がらなければ、給与を上げることや労働時間を削減することも難しいため、生産性が上げることも意識して労働環境の整備を行いましょう。
また、労働環境の改善を行う前にやっておくべきことが1つだけあります。
それは、自社の商品やサービスの価格が適正であるか見直すことです。
商品の価格が適切でなければ、業務効率が上がっても生産性を上げることは難しいのです。
利益が上がらないことで、従業員のモチベーションは下がってしまいますし、経営を続けることも難しくなる可能性もあります。
だからこそ、商品の価格が適正かを見直してほしいのです。
適切な労働環境で、従業員のストレスがない企業を目指しましょう。