今回の記事では、運転資金についてお話をしていきます。
運転資金は、会社を運営するうえで必ず必要になってくる資金のことです。
運転資金がなければ、会社の運営を維持することができません。
しかし実際のところ、運転資金に対する認識が甘い社長は多いです。
とくに中小企業の社長や個人事業主は、自社の運転資金を把握していなかったり、あまりに適当な目安を立てていたりします。
そしてそれが原因で、黒字であったにも関わらず倒産してしまう会社も、実は数多くあるのです。
そこで今回は、運転資金の重要性を理解してもらうために、以下の疑問に対してわかりやすく説明をしていきます。
- そもそも運転資金ってなに?
- 運転資金の計算方法とは?
- 確保しておくべき運転資金の目安はいくらくらい?
- 運転資金の健全な考え方とは?
法人にとって、運転資金はまさに命綱のようなものです。
しっかり理解と把握をして、健全な会社運営を行っていきましょう。
運転資金の意味とは?
運転資金とは、事業を運営していくうえでかかってくる資金のことです。
たとえば飲食店を開業する場合、営業を回すためにはさまざまなお金が必要になります。
お店の家賃、材料費、人件費、光熱費、などですね。
当然のことですが、これらの資金がなければ飲食店を運営することはできません。
そして事業は違えど、こういった運営の肝となる資金はどんな会社にも存在しています。
このように、これがなければ会社を存続させることができないという資金が運転資金なのです。
ちなみに、設備投資に使うお金は運転資金とは違い、設備資金と呼びます。
同じ会社運営のために使うお金ではありますが、「設備資金」と「運転資金」は違いますので、混同しないようにしましょう。
運転資金の計算方法
自社で回転させている運転資金を把握するためには、以下の計算式を使ってください。
【売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務 = 経営運転資金】
正確に言うとこちらの計算式は、運転資金の中の1つ、「経営運転資金」と呼ばれるものの算出方法です。
後述しますが、運転資金にはいくつかの種類があります。
その中でも、仕入や人件費など、恒常的にかかってくる運転資金が「経営運転資金」と呼ばれるものです。
ちなみに、計算式に出てくる言葉の意味については、下の表のとおりです。
売上債権 | 売上債権とは、いわゆる売掛金や受取手形のことです。 商品やサービスを販売した支払いが後日行われることを約束している、金銭債権のことをいいます。 たとえば、警備会社が警備員を派遣した場合、その分の支払いが来月の15日と決まっている場合には、入金されるまでの間、売上債権となります。 |
棚卸資産 | 棚卸資産とは、簡単に言えば在庫のことです。 販売を目的とした商品やサービスに関わる保有物を指します。 具体的には、商品、製品、仕掛品、半製品、原材料、消耗品などです。 ただし、棚卸資産の価値を試算するさいは、経年劣化や価値の変動を考慮しなければいけません。 |
仕入債務 | 仕入債務とは、いわゆる買掛金や支払手形のことです。 あなたの会社が商品やサービスを購入したもので、後日支払いが発生するものをいいます。 たとえば、飲食店で食材を購入するさい、1ヵ月分の支払いを来月の25日に一括で行う、という場合、まだ支払っていない金額が仕入債務となります。 |
このように、要はすぐに現金化できないものを計算するわけですね。
さらにここから、恒常的にかかる経営運転資金の回転期間を計算していきます。
【経営運転資金 ÷ (1年の売上高 ÷ 12ヵ月) = 経営運転資金回転期間】
ここで出た数字は、あなたの会社の経営運転資金が売上高の何ヵ月分に相当するかというものです。
たとえば、運転経営資金が100万円で1年の売上高が600万円だった場合、以下のような計算式になります。
100万÷ (600万 ÷ 12) = 100万 ÷ 50万 = 2
つまり、経営運転資として最低限、月平均売上高の2ヵ月分が必要になってくるということですね。
このように、運転資金を正確に把握しておくことは、健全な会社運営のための必須条件です。
もしあなたが自社の運転資金を把握していないなら、今すぐ計算式を使い、正確な数字を算出してください。
運転資金の種類
運転資金には、ここまで説明してきた経営運転資金も含めて6つの種類があります。
- 経常運転資金
- 増加運転資金
- 賞与資金
- 決算資金
- 季節資金
- その他運転資金
それぞれがどのような運転資金なのかについて、1つずつ下の表で説明していきますのでご確認ください。
1.経営運転資金 | 経営運転資金とは、企業が現状と同じ状態で運営を行っていくために必要な運転資金のことです。 恒常的にかかる仕入費用、人件費、光熱費といった経費がこれに当たります。 基本的に運転資金と言うと、この経営運転資金のことを指すことが多いです。 |
2.増加運転資金 | 増加運転資金は、売上が増加した場合に経営運転資金に追加しなければならない費用のことです。 たとえば、今までは1日10食売っていた飲食店が、顧客数増加により1日15食提供するようになったとします。 このとき、単純に考えて仕入費用はもともとの1.5倍程度になるはずです。 このように、事業成長に伴って増加する運転資金のことを増加運転資金と呼びます。 |
3.賞与資金 | 賞与資金とは、社員に対して賞与を払うために必要な資金のことです。 賞与支払いをしている会社の場合、毎月かかる人件費に加えて用意しておく必要があります。 |
4.決算資金 | 決算資金とは、決算時に必要となる資金です。 たとえば、納税、株式の配当、役員賞与などがこれに当たります。 |
5.季節資金 | 季節資金とは、季節によって増加する運転資金のことです。 たとえば、アイスを売っている会社の場合、ほかの時期に比べて夏の時期は売上が何倍にも増加すると考えられます。 そうしたときに、普段と同じ量の仕入れだけを行っていては商品の供給が間に合いません。 そこで夏の時期だけ仕入資金を増やす、という増加部分が、季節資金と呼ばれるものなのです。 |
6.その他運転資金 | 上記5つに該当しない運転資金も存在しています。 たとえば、赤字の補填や買掛金の支払いなどがそれに当たります。 運転資金の中では、予定外にかかる費用という位置づけです。 |
このように一口で運転資金と言っても、その用途によって6つに区分されているのです。
とくに運転資金の融資を受けたいと考えているなら、受けたい運転資金の種類がこの6つのうちのどれに当たるによって、銀行の態度が大きく変わってきます。
また、この6つを把握しておかないと「予想もしていなかったところで運転資金がかかってしまった」ということにもなりかねません。
自分の事業でかかりそうな運転資金がないか、しっかり確認しておいてください。
運転資金の目安と考え方
ここからは、「運転資金はどの程度を目安に確保しておけば良いのか」、「健全な会社運営のためには運転資金についてどのように考えれば良いのか」についてお話をしていきます
知識として運転資金のことは知っていても、目安や考え方が甘いという社長も多いです。
しかし運転資金については、しっかりと目安や考え方を身につけておかないと、大きなリスクを抱えることにもなりかねません。
だからこそこの記事を読んでいただいているこの機会に、運転資金に対する認識を再確認してください。
運転資金の目安は3~6ヵ月分
業種や経営状況にもよりますが、手元にキャッシュとして残しておくべき運転資金は、粗利益の3ヵ月分~6か月分が目安となります。
急激な売上の落ち込みや営業停止かがあった場合に、数か月間は会社を存続できるような額だと考えておいてください。
ただし、資金調達力が強い企業の場合は、粗利益の1ヵ月分~2ヵ月分でもなんとかなると言われています。
とはいえこの記事を読んでくれている多くの人は中小企業の社長をしているはずなので、あなたもそうであるならば、運転資金はある程度余裕を持って用意しておくべきでしょう。
また、粗利益の3ヵ月分~6ヵ月分というのはあくまでも目安です。
予期せぬ支出が起こりやすい業務形態の場合は、さらに多めのキャッシュを残しておく必要があります。
何にせよ、キャッシュが手元に多く残っていればいるほど安全であるということは間違いありません。
余談ですが、任天堂は無借金で粗利益の15か月分のキャッシュを保有しているそうです。
とはいえもちろん、キャッシュを手元に残し過ぎて事業が成長しないことも問題です。
自社の事業と照らし合わせ、丁度良い運用資金を計算してみてください。
運転資金を正確に把握しておかないと黒字倒産が起こる
運転資金を大雑把に考えてしまっているなら、あなたの会社は黒字倒産をしてしまう危険性があります。
というのも、運転資金が尽きてしまった場合、売上高を見れば黒字でも手元にキャッシュがないわけですから、事業が停止してしまうということがあるのです。
余力がない状態で事業が停止してしまえば当然、会社は潰れてしまいます。
さらに、運転資金が不足してしまうと、以下のようなデメリットも出てきます。
- 顧客や取引先の信用をなくす
- 銀行の信用がなくなる
- 給与未払いが発生すると社員に不満が募る
- 新しいことができず、機会損失をしてしまう
- 不渡りを出してしまうと取引先がいなくなる
このように、いくら事業がうまくいっていても、運転資金が足りなければ少しのきっかけで業績が大幅に悪化してしまうのです。
それこそ、倒産にまで追い込まれるケースも少なくありません。
こういった運転資金不足によるリスクは、しっかりと理解しておいてください。
運転資金の借りすぎにも注意!
運転資金は多いほど安心だからといって、安易に融資を受け過ぎるのも問題です。
融資には当然金利が存在しており、それなりの利子を支払わなければいけません。
そのため、必要以上にお金を借りすぎてしまうと、利子の支払いで大損をしてしまうのです。
だからこそ、きちんと自社の運転資金を計算して、適正な額の融資を受けることが重要になります。
運転資金が少なすぎるのも問題ですが、借りすぎるのも問題なのです。
運転資金を”減らす”という視点も重要
運転資金の中に無駄なものがないか、というコスト削減の視点を持つことも重要です。
とくに個人事業主や中小企業の場合は、なんでもかんでも委託してしまうというのはおすすめできません。
利益がきっちり上がり、余力がある状態なら問題ありませんが、ギリギリの状態で事業を回したり借金をしている状態で外注を使い過ぎると、結局失敗してしまう可能性も高くなってしまいます。
さらに、「仕事を委任するの間違い」という記事で弊社代表の北岡も語っていますが、社長自身が作業を一通り経験しておくことには意味があります
もしあなたが外注している仕事の内容をきっちり理解していれば、外注先でトラブルが起こった場合でも、冷静に対処することができようになるのです。
逆に仕事内容をまったく把握していなければ、トラブルのさいに何の対処もできません。
そのため、もしまだ利益がそこまで出ていない状態で、かつあなたにできることがあるのなら、できるだけ自分で作業をするようにしましょう。
そうすれば、運転資金もおのずと抑えることができます。
運転資金を調達する短期的な方法と長期的な方法
運転資金の調達方法には、大きく分けて短期的なものと長期的なものの2つがあります。
- 融資を受ける
- サービスの価格を上げてキャッシュを残す(利益を上げる)
基本的には、最低限必要な運転資金を融資で調達し、利益を上げることで会社の資本力を上げていくのがベターです。
それでは1つずつ、具体的な詳細とコツをお伝えしていきます。
運転資金の短期的な調達方法「融資を受ける」
短期的に運転資金を調達する場合は、銀行からの借り入れという方法を選ぶことになるはずです。
そこで今回は、融資を受けるためのコツについてお話をしていきます。
まず、融資を受けられるかどうかは、「運転資金の種類」で説明した6つのどれを調達するかによっても変わってきます。
「経営運転資金」と「増加運転資金」については、比較的に融資を受けやすいと言われています。
次に、「賞与資金」、「決算資金」、「季節資金」についても、上2つに比べれば劣りますが、そこそこ融資は受けやすいです。
ただ、「その他運転資金」については、融資を受けにくいという現実があります。
銀行の立場になって考えてみれば当たり前なことなのですが、「赤字の補填」や「買掛金の支払い」という名目でお金を貸すのはかなりリスキーなことですよね。
そのため、同じ運転資金でも急に必要になるようなものの融資は、基本的に受けにくいのです。
そんな運転資金の融資を受けるコツですが、銀行から聞かれるであろう質問の答えをしっかりまとめて用意しておくことが重要です。
運転資金の融資について、銀行側から聞かれやすいのは以下の質問です。
- なぜ借り入れが必要なのか
- 必要な借入額はいくらなのか
- いつまでに借り入れが必要なのか
- 返済期間の計画に妥当性はあるのか
これらについて、わかりやすくまとめておけば、融資を受けられる可能性は上がります。
ただし、質問の答えにはすべて納得のいく根拠があるようにしましょう。
たとえば、賞与資金として借り入れを行いたい場合は、返済期間を6か月~12か月未満に設定すべきです。
なぜなら、その間にまた次の賞与が来てしまうから。
賞与資金の返済に2年も3年もかかるようでは、銀行側としても貸したくなくなってしまうはずです。
このように、借り入れをしたい理由や返済計画を、わかりやすくストレートにまとめておくのが融資を受けるコツです。
下手に隠し事をしてわかりにくくしてしまうと、逆に融資してもらえない可能性が上がってしまいますので、注意してください。
また、これから事業を立ち上げたいという場合には、日本政策金融公庫が行っている新創業融資制度を利用できる可能性があります。
担保・保証人が原則不要となっているため、該当する場合は選択肢の1つとして相談してみるのも良いでしょう。
(参考:日本政策金融公庫 新創業融資制度)
運転資金の長期的な調達方法「サービス価格を上げてキャッシュを残す」
長期的な運転資金の調達方法としては、サービスの価格を上げることで利益を上げ、手元にキャッシュを残していくという方法があります。
要は、会社の資本力を高めるということです。
新しい事業を開始したり、単純に売上を上げようとしてしまうと、それに伴って運転資金も増加してしまいます。
それに比べてサービスの価格を上げるだけならば、運転資金は変わらず、利益だけを上げることができるのです。
しかしサービスの価格を上げるべきだと聞くと、多くの社長は顔を曇らせます。
「価格を上げるなんて簡単じゃない」、「価格を上げて顧客が離れたらマズイ」といった不安を抱くのです。
しかし、現在日本に存在するサービスの中には、実際の価値よりもずいぶんと安く売りに出されてしまっているものやサービスが溢れるほどあります。
安易な価格競争の結果、みずからの首をしめ、倒産してしまった会社も多いのです。
そもそも「サービスの価格を上げる」ということは、言い方を変えれば「適正価格に戻す」ということでもあります。
そのため、あなたの商品やサービスの価値をしっかりお客さんに分かってもらうことができれば、価格アップは簡単に達成できるはずなのです。
価格を上げ、十分な運転資金を手元に残すことができれば、会社は安定し、どんどんと成長していけます。
運転資金については目先のお金だけでなく、こういった長期的な計画も考えておいてください。
【まとめ】運転資金はきちんと計算して健全な企業運営をしよう
今回は、運転資金の計算方法、目安、考え方、調達方法についてお話ししてきました。
運転資金についてもっとも重要なのは、自社の運転資金を把握することです。
ここが大雑把になってしまうと、業績自体は黒字でも手元のキャッシュがなくなってしまい、結果、倒産に追い込まれてしまうことになります。
そうならないために、今回の記事で紹介させていただいた運転資金の計算方法を参考にして、自社の運転資金をしっかり把握しておいてください。
あと運転資金について重要なのは、会社にしっかりと余力が残るような運用を心がけることです。
運転資金は融資によって短期的に調達することもできます。
しかしそれだけではなく、同時に自社内でキャッシュを残せるような仕組みを作り上げるべきなのです。
そのためにもっともやるべきなのが、「サービスや商品の価格を上げること」です。
価格を上げるべきだと聞くと多くの社長があまり良い顔をしません。
しかし実は、顧客から嫌な顔をされずに価格アップを達成し、利益を上げるということは簡単にできます。
そして利益が上がるということは、会社の資本力が上がる、つまり運転資金を残せるということです。
運転資金をきっちりと把握し、適正な余力を残すことができれば、会社の安定感はかなり増します。
そのためにも、まずは自社の運転資金を見直してみましょう。