今回のテーマは経営分析のフレームワークである「VRIO分析(ブリオ分析)」についてです。
VRIO分析を行えば、企業が持つ経営資源(人、モノ、カネ、情報、時間、知的財産)の競争優位性を評価をすることができます。
とくに価格競争で大企業に勝つことができない中小企業にとって、自社の経営資源が持つ強みと弱みを把握し、効果的に販促をするのは非常に重要なことです。
そこで今回はVRIO分析について、以下のような内容をわかりやすく解説していきます。
- VRIO分析の意味
- VRIO分析のやり方【テンプレート】
- VRIO分析を行うときのデメリット、注意点
- VRIO分析の事例
- 中小企業がVRIO分析を重要視しなければいけない理由
VRIO分析を理解し、自社の商品を分析するために役立てましょう。
VRIO分析とは?
VRIO分析とは、オハイオ州立大学経営学部のジェイ・B・バーニー教授が1991年に提唱した、経営資源の競合優位性を分析するフレームワークのことです。
ちなみに「ブリオ分析」という読み方をします。
(参考:Wikipedia_ジェイ・B・バーニー)
VRIO分析では、4つの問いに答えることで経営資源の強みと弱みをあぶり出し、競合に対してどのような優位性を持っているかを分析することができます。
VRIO分析における4つの問いは以下の通りです。
- 「経済価値(Value)」への問い
- 「希少性(Rarity)」への問い
- 「模倣困難性(Inimitability)」への問い
- 「組織(Organization)」への問い
これらの問いに答えることで、自社が持つ経営資源が市場でどのようなポジションに位置しているかを知ることができるわけですね。
それでは4つの問いの詳細について、1つずつ解説していきます。
経済価値(Value)
経済価値(Value)では、「経営資源に価値があるか?」という問いにYESかNOで答えてください。
「その経営資源を持っていることで利益をあげることができるかどうか」、「その経営資源を持っていることでビジネスの機会や会社存続の脅威に対応することができるかどうか」ということを考えていきます。
経営資源を金額換算するのではなく、事業を行ううえで役に立つかどうかという視点で考えるのが重要です。
希少性(Rarity)
希少性(Rarity)では、「経営資源に希少性があるか?」という問いにYESかNOで答えます。
要は「同じ、もしくは類似している経営資源をどれくらいの競合が持っているか」ということですね。
需要に対し少数の供給しかなければYESであり、供給過多になっているようならNOとなります。
模倣困難性(Inimitability)
模倣困難性(Inimitability)では、「競合が同じ経営資源を獲得、開発するときにコスト上の不利に直面するか」という問いに対してYESかNOで答えます。
要は「競合他社が模倣をするときに難易度が高いかどうか」という問いですね。
資金的、時間的なコストが大きかったり、特許で守られていたり、技術的に模倣が難しかったり、といった場合にはYESとなります。
組織(Organization)
組織(Organization)では、「経営資源を活用するための方針や手続きが組織内で整っているか?」という問いに対してYESかNOで答えます。
経営資源を活用する会社組織や仕組みに対する問いかけですね。
この問いがYESになるなら、経営資源を最大限活かせる基盤が整っているということを意味します。
VRIO分析のやり方【テンプレート】
VRIO分析は自社が持つ経営資産を抜き出し、先に挙げた4つの問いに答えていくことで分析を行っていきます。
経営資産の抜き出しについては、詳細に行えば行うほど綿密な分析が可能です。
たとえば以下のような形で細分化すると、自社の強みと弱みを把握することができます。
- 自社が販売している商品、サービス
- 自社が持っている設備
- 従業員のスキル
- 自社が持つノウハウ
- 仕入れルート
- ブランド
- 顧客リスト
※あくまでもこれは一例で、さらに細分化することもできます。
これらの項目について、4つの問いに答えていくわけですね。
ただし、適当な順番ですべての問いに答えれば良いというわけではなく、以下のようなフローチャート(テンプレート)が存在しています。
こちらを参考にして、上から順番に答えていってください。
たとえば、「経営資源に価値があるか?」という問いにNOで答えた場合は、その時点で問いは終了となります。
このときの経営資源は「競争劣位」という評価です。
もしくは、「経営資源に価値があるか?」、「経営資源に希少性があるか?」にYESで答え、「競合が同じ経営資源を獲得、開発するときにコスト上の不利に直面するか」という問いにNOで答えた場合も、そこで質問は終了となります。
この場合は「一時的な競争優位」という評価です。
VRIO分析ではこのフローチャートに従って、経営資源を以下の5段階で評価します。
1.競争劣位 | 経営資源に経済価値がなく、市場に価値を提供できない状態 |
2.競争均衡 | 経営資源に経済価値があるものの競合が多く、市場で優位な立場には立てていない状態 |
3.一時的な競争優位 | 現状は市場で優位な立場にあるが、模倣が比較的容易であるため競合が表れる可能性が高い状態 |
4.持続的な競争優位 | 模倣が困難で競合が表れる可能性が低いため、持続的に市場で優位な立場に立てる状態 |
5.経営資源の最大活用 | 持続的に市場で優位な立場に立てる状態であり、かつ持っている経営資源を最大限活用できている状態 |
1番の「競争劣位」がもっとも悪い評価であり、5番の「経営資源の最大活用」がもっとも良い評価です。
たとえば「自社が持つノウハウ」については「経営資源の最大活用」ができているが、「仕入れルート」については希少性がなく「競争均衡」であったとします。
この場合は「ノウハウ」が強みであり、「仕入れルート」が弱み(課題)であると考えられるわけですね。
ちなみにVRIO分析がなぜフローチャート形式になっているのかというと、上の問いでNOと答えた場合、下の問いがYESであってもそこに価値がないからです。
どれだけ希少性があり、模倣が困難であったとしても、そもそも市場に価値を提供できなければ何の意味もありませんよね?
つまり下の質問は、上の質問でYESとなることが前提条件となって、初めて意味のある質問になるということなのです。
ぜひあなたの会社が持つ経営資源についても、テンプレートを使って分析してみてください。
VRIO分析を行うときのデメリット、注意点
経営資材を評価することのできるVRIO分析ですが、完璧な分析方法であるというわけではなく、デメリットや注意点も存在しています。
- 問1の経済価値が判断しにくい
- 持続的な競争優位が絶対のものではない
まず「経営資材について価値があるか」という問いの判断が難しいというデメリットがあります。
たとえば自社商品についてVRIO分析を行う場合で考えてみてほしいのですが、そもそも企業を経営している以上、市場で価値がないものを狙って作ることはありませんよね?
必ず市場価値があるという前提で作っているはずです。
そのためたとえ経済価値がなかったとしても、実際に市場に出してみるまでその判断がつきにくいのです。
また、「持続的な競争優位」や「経営資源の最大活用」という評価であったとしても、必ず優位性が持続するというわけではありません。
なぜなら市場が常に変動するものだからです。
たとえば当時カメラフィルムの技術で優位性を持っていた「富士フイルム」という企業は、フイルムを使わないデジタルカメラの普及によって一時期、危機的な状況に陥りました。
このように模倣されない技術を持っていたとしても、その代替となる新しい技術が誕生したり、流行が終わったりすれば、競争優位性が一気になくなってしまうこともあるのです。
VRIO分析を行う場合は、これらのデメリット、注意点についても認識したうえで行うようにしましょう。
VRIO分析の事例3選
ここからはVRIO分析の事例を3つ紹介していきます。
- ユニクロ
- トヨタ
- 警備会社K
分析結果が良い事例だけでなく、分析結果が悪い事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
VRIO分析の事例1.
ユニクロ
大手アパレル企業であるユニクロについてVRIO分析を行っていきます。
経済価値 | 【YES】
安くデザイン性の高い衣服を提供しており、多くの需要がある |
希少性 | 【YES】
安さとデザイン性を両立しており、競合にない強みがある |
模倣困難性 | 【YES】
独自のSPAモデル(製造小売モデル)を構築しており、他社が簡単に模倣することができない |
組織 | 【YES】
多くの店舗を構え、スタッフの教育も行き届いているため、効率的に商品を販売することができる |
このようにユニクロは「経営活用の最大活用」を実現しています。
だからこそ競合の多いアパレル業界で急成長を遂げ、多くの人に愛されているわけですね。
VRIO分析の事例2.
トヨタの工場施設
日本を代表する自動車メーカーである「トヨタの工場施設」についてもVRIO分析を行ってみましょう。
経済価値 | 【YES】
質のよい自動車を生産しており、非常に高い価値がある |
希少性 | 【YES】
他社には見られないロボット共存型工場を実現している |
模倣困難性 | 【YES】
工場施設内にはトヨタ独自のノウハウが詰まっており、他社が模倣することはできない |
組織 | 【YES】
最先端のラインを海外工場に技術移転する仕組みができており、ノウハウを最大限に活かすことができている |
このようにトヨタの工場施設は、VRIO分析で見ても非常に優れています。
だからこそトヨタは、日本が世界に誇る大企業であり続けているのです。
VRIO分析の事例3.
警備会社K
続いて大企業の優れた事例だけでなく、中小企業の事例についても紹介していきましょう。
以下は、とある零細警備会社をVRIO分析した結果です。
経済価値 | 【YES】
さまざまな工事で警備員の配備が法律で定められており、一定数の需要があるため価値を提供することができている |
希少性 | 【NO】
警備業務自体はほとんど誰でもできるもので、特別な教育なども行っていなかったので希少性はない |
模倣困難性 | ― |
組織 | ― |
とある警備会社はこのように、「競争均衡」の状態でした。
その結果何が起こったのかというと、熾烈な価格競争に巻き込まれてしまったのです。
警備員には最低賃金しか渡せず、それでもほとんどお金が残らないため、社長の給料も最低限で、税金さえ延滞するような状況に陥っていました。
このようにVRIO分析で低い評価になっている場合、事業としての優位性がないため、非常に厳しい状況に追いやられてしまいます。
もしあなたの企業でもメインとなる商品やサービスが低い評価になっていた場合は、できるだけ早く改善するようにしましょう。
中小企業がVRIO分析を重要視しなければいけない理由
中小企業は、大企業に比べてVRIO分析をより重要視しなければいけません。
なぜなら大企業と違って資源に限りがあるため、物量や価格では勝負できないからです。
資金が豊富な大企業の場合、多額の広告費を投入したり、極限まで薄利にして数を売ることで利益をあげたり、といった大量生産の戦略をとってきます。
このような戦略を似たような商品やサービスでとられてしまえば、中小企業はひとたまりもありません。
だからこそ中小企業は、「持続的な競争優位」がある商品を開発し、大企業との差別化を図らなければいけないのです。
もちろん資源が限られているわけですから、「資源の最大活用」についても十分に意識する必要があります。
ではどうすれば大企業を相手に「持続的な競争優位」、「資源の最大活用」という状況が作れるのかというところですが、「ランチェスター弱者の法則」を実践してください。
ランチェスター弱者の法則とは、差別化を図って局地的なシェアを獲得する経営戦略です。
以下の5つの戦略を基本とし、限られたニーズの中でNo.1を目指します。
1.一点集中主義 | 一点集中主義は、強者の総合主義に対抗する考え方です。
総合的には強者に勝てないため、業種やターゲット、商品開発について無駄に手を広げず、一点集中で力を注いでいきます。 |
2.局地戦 | 局地戦は、強者の広域戦に対抗する考え方です。
広い領域で事業を展開しようとすると資源が分散してしまうため、弱者は手を広げれば広げるほど不利になってしまいます。 そのため、勝てる市場や地域を探すか、もしくは作り出し、そこに注力するという戦略です。 |
3.接近戦 | 接近戦は、強者の遠隔戦に対抗する考え方です。
弱者の場合は顧客をただ増やすのではなく、顧客1人ひとりに近づき、時間や労力をかけることで重要顧客をがっちりと抱え込む必要があります。 |
4.一騎打ち | 一騎打ちは、強者の確率戦に対抗する考え方です。
競合が強い市場には手を出さず、競合が少ない、もしくはいない市場を狙って手を出します。 競合が多い市場で総力戦をするのではなく、競合が少ない市場で一騎打ちのように戦っていくイメージです。 |
5.陽動戦 | 陽動戦は、強者の誘導戦に対抗する考え方です。
強者が思いつかない、もしくはやらないようなアイディアで差別化を図ります。 |
(参考:中小企業のランチェスター戦略事例5選!弱者が勝てる経営戦略とは?)
このような考え方をもとに商品やサービスを開発し、そのうえでVRIO分析を行えば、「持続的な競争優位」や「資源の最大活用」が実現できるはずです。
資金や労力の限られた中小企業だからこそ、限られたニーズ内での競争優位性を作り上げましょう。
【まとめ】VRIO分析で自社の強みを把握できる
今回は経営資源の分析を行う「VRIO分析」について解説をしてきました。
- 「経済価値(Value)」
- 「希少性(Rarity)」
- 「模倣困難性(Inimitability)」
- 「組織(Organization)」
これら4つの問いに答えることで、市場における競争優位性を分析することができるというものでしたね。
VRIO分析のテンプレートについても紹介しているので、やり方を知りたい場合は活用してください。
今回紹介したVRIO分析については、資金や労力が限られている中小企業こそ理解しておくべき分析手法です。
中小企業は大手企業のように物量や価格で戦うことができないため、希少性や模倣困難性で戦う必要があります。
仮に価値ある商品を売り出していたとしても、希少性がなければ価格競争に巻き込まれ、最悪、倒産にまで追い込まれてしまうことも少なくないのです。
逆にVRIO分析で希少性や模倣困難性があるということが分かったら、下手な値引きはせず、しっかりと利益が取れるような価格設定にしましょう。
そうしないと、薄利多売ができない中小企業では十分な利益をあげることができません。
VRIO分析を行うことで、あなたの会社や商品の強み、弱みが見えてきます。
本記事内の「テンプレート」を参考にして、ぜひ1度VRIO分析を試してみてください。