今回は中小規模の小売店と飲食店の回転率についてお話をしていきます。
回転率は財務分析において非常に重要な指標の1つです。
たとえば同じ客単価1000円の飲食店であったとしても、回転率の良いラーメン屋と回転率が悪いカフェでは得られる売上に大きな差が出てしまいます。
さらに回転率が悪いということは、それだけ無駄が発生してしまうリスクがあるということも意味しているのです。
そして回転率は、経営側の工夫によって改善することができます。
もしくは場合によっては、回転率を無理に上げない方が良いというケースも少なくありません。
とくに中小企業の場合は、回転率の考え方についてしっかり理解しておく必要があるのです。
そこで今回は小売店と飲食店の回転率について、以下のような内容を説明していきます。
- 回転率の計算式
- 回転率を上げる方法
- 中小企業における適正な回転率の考え方
もしあなたが小売店や飲食店を経営しているなら、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
小売店における回転率の計算方法と改善方法
小売店における回転率とは、商品回転率(在庫回転率、棚卸回転率)を指しています。
これは仕入れた商品がどのくらいの期間で売れていくかといった指標です。
商品回転率が良いということは、それだけその商品が売上や利益を生み出しているということを意味しています。
さらに中小企業の場合、売上金を使ってさらに商品を仕入れるというサイクルによって事業規模を大きくしていくケースが多いため、ビジネスが成長するスピードにも大きな差が生まれるわけですね。
また回転率を上げれば、在庫を長時間抱えるというリスクも抑えることができます。
だからこそ商品回転率は、小売店にとって非常に重要な指標だと言えるのです。
それでは商品回転率の計算方法と上げる方法について解説をしていきましょう。
小売店における回転率の計算式
小売店が気にすべき商品回転率については、以下の計算式で求めることができます。
商品回転率 = 年間商品売上高 ÷ 平均在庫高
※平均在庫高 = 期首在庫高 + 期末在庫高 ÷ 2
たとえば年間の売上高が1000万円で期首の在庫高が300万円、期末の在庫高が500万円だったとします。
この場合は「1000万 ÷ (300万 + 500万 ÷ 2)」という計算になり、商品回転数は2.5回ということです。
またこれは在庫全体ではなく、商品単体でも同様に計算することができます。
たとえば5000円の商品があって、基本その在庫を10個抱えているという状況を想定してください。
その商品が売れて在庫が10個未満になれば10個になるように在庫を補填するといった在庫管理のやり方です。
そしてこの商品が年間で50個売れたという場合、以下のように計算することができます。
年間商品売上高 = 5000円 × 50個 = 250000
平均在庫高 = {(5000円 × 10個) + (5000円 × 10個)} ÷ 2 = 50000
商品回転率 = 250000 ÷ 50000 = 5
つまり、在庫を10個確保している商品が年間で5回転したというわけですね。
これが小売店における回転率、商品回転率(在庫回転率、棚卸回転率)の算出方法です。
小売店における回転率を上げる方法
商品回転率を上げたいという場合、まずは商品回転率のチェックを頻繁かつ詳細に行うことが重要となります。
できれば毎日、少なくとも月に1回は、各商品毎の在庫回転率をチェックするようにしてください。
(計算式の”年間”の部分の期間を変えれば短いスパンでの計算ができます)
そうすることで、商品回転率の低い商品や商品が売れにくい時期が見えてくるはずです。
問題点が見えてくれば、テコ入れをして改善することも可能となります。
商品回転率が悪い商品について、たとえば以下のようなテコ入れが効果的です。
- 商品を目立たせる
- 仕入れ数(在庫数)を減らす
まずは今ある在庫の売上を上げるために、商品の存在を目立たせましょう。
見えやすい位置に置き場所を変えたり、ポップを使って目立たせてみたりするのが効果的です。
あとは仕入れ数を減らすことも考えなければいけません。
在庫数を減らしすぎると売りたいときに品切れになってしまうという機会損失を招く恐れもあります。
しかし商品の中には消費期限があったり、もしくは流行があったりするものも多くあるはずです。
そういった商品は最悪いつまで経っても売れない在庫になりかねません。
そのあたりのバランスについては、アンケートや市場調査によって顧客の需要を見定め、うまく調整するようにしましょう。
飲食店における回転率の計算方法と改善方法
飲食店における回転率とは、お店の座席数に対して何人のお客さんが来店してくれたかという指標のことです。
たとえば座席が20席のお店に1日40人のお客さんが来てくれた場合、「40人 ÷ 20席」で回転率は2ということになります。
ただし飲食店の場合、回転率は必ずしも高い方が良いということにはなりません。
たとえば牛丼屋と居酒屋では、お客さんがお店に滞在している時間に大きな差が生じます。
牛丼屋なら早い人は5分で出ていくでしょうが、居酒屋の場合、1~2時間程度は食事をしていくはずです。
ここで重要になるのが客単価という考え方です。
要は回転率が悪くてもその分1人1人のお客さんが多くのお金を使ってくれるなら問題はないというわけですね。
それは以下の計算式が示すとおりです。
売上 = 客数 × 客単価
飲食店の回転率について考える場合、まずはこのことを念頭に置いておいてください。
それではそれを踏まえたうえで、飲食店における回転率の計算方法と上げ方について説明をしていきます。
飲食店における回転率の計算式
飲食店における回転率の計算方法は以下のとおりです。
飲食店における回転率 = 1日の来店者数 ÷ 座席数
この計算自体は非常に簡単ですね。
ただ飲食店における回転率を考える場合、もう1つ気にしておかなければいけないものがあります。
それが客席稼働率です。
客席稼働率とは、満席になったときにどれくらいの客席が稼働しているかということです。
たとえば3人のお客さんが来て4人席にお通しした場合、その4人席は3人のお客さんで使ってもらうことになります。
つまり、その席の客席稼働率は75%になるわけです。
計算式としては以下のようになりますね。
客席稼働率 = 満席時の客数 ÷ 座席数
このように客席稼働率は、満席のときに何人のお客さんを入れられるかという指標になります。
満席になったさいはこの客席稼働率についてもチェックと計算をしておくと良いでしょう。
客席稼働率を上げることで、回転率にも良い影響をおよぼすはずです。
飲食店における回転率を上げる方法
飲食店における回転率を上げるための対策としては以下のようなものがあります。
- 客席稼働率を上げる
- 1人客を大事にする
- 作業効率を上げる
まず1つ重要なのが先にも少しお話ししたとおり、客席稼働率を上げることです。
客席稼働率を上げるためには、お客さんを座席誘導するさいに無駄が出ないようにする必要があります。
たとえば2人で来店したお客さんはきちんと2人の席に案内し、4人以上の席はできるだけ多くの人数で来店したお客さんに使ってもらうということですね。
「お客様の人数によって順番が前後することがございます」というような張り紙をしておくのも良いでしょう。
また回転率を上げるためには、1人で来店しやすいお店づくりをするのも効果的です。
というのも1人のお客さんは複数人で来るお客さんに比べて退店までのスピードが早いという特徴があります。
そのため1人でも利用しやすい雰囲気づくりやカウンター席の充実など、おひとりさまが来店しやすいお店づくりをすると客席稼働率や回転率の向上に繋がるというわけですね。
あとは1つ1つの作業効率を上げるということも重要です。
たとえばオーダーをとるスピードであったり、バッシング(お客さんが帰ったお皿を下げて席を清掃する作業)の速度であったりですね。
このあたりはお店の仕組みと従業員の練度によって改善されていくはずです。
どうすれば1つ1つの作業が早くなるのか、現状非効率になってしまっているのはどの作業なのか、といったことを1度考えてみると良いでしょう。
中小企業における適正な回転率の考え方とは?
ここまで小売店と飲食店の回転率についてお話をしてきましたが、大前提として回転率は最優先事項ではありません。
とくに私たち中小企業にとってもっとも重要なのは、利益と利益率です。
自社にとっての適正な回転率を考える場合、まずはそのことを理解しておかなければいけません。
とくに多いのが、回転率を気にするあまりに値下げを行い、利益率を下げてしまう行為です。
しかし中小企業が優先させるべきは利益や利益率の方なので、値下げによる回転率向上はよほどの勝算がない限り止めておいた方が良いでしょう。
とはいえもちろん、回転率も無視して良い数字ではありません。
なぜなら回転率が悪いということは無駄が発生しやすいということだからです。
たとえば小売店の場合、回転率が悪いということは長期に渡って在庫が滞留してしまうということを意味しています。
この場合、消費期限があるものは廃棄が必要になりますし、そうでない場合でも市場の変化によって在庫がさばけなくなってしまう可能性が高まるのです。
もしくは飲食店の場合、回転率が悪いということは座席を無駄にし、機会損失を起こしている場合があります。
もちろんお店のジャンルによって回転率は変わるものですが、想定より回転率が良くないという場合には改善が必要となるでしょう。
このように回転率は、あくまでも無駄をなくすために改善するという考え方をするべきです。
つまり適正な回転率とは、「利益率に影響が出ない範囲で無駄を減らすことができるていど」が目安になるというわけですね。
ちなみに中小企業にとってもっとも重要な利益率を上げたいなら、商品やサービスの価格アップを検討してみてください。
なぜなら日本の中小企業には、商品が本来持つ価値より安い価格でビジネスをしてしまっているところが非常に多いからです。
もしかしたら「うちはそんなことない」とか、「価格アップなんてしたらお客さんが離れてしまう」といったことを考えているかもしれませんが、そうとは限りません。
私たち中小企業にとって第一優先は利益と利益率です。
回転率はあくまでもその次以降に考えるべきものであるということを覚えておきましょう。
【まとめ】回転率はこまめにチェックしておくべき
今回は小売店と飲食店における回転率について説明をしてきました。
とくに私たち中小企業の場合、基本的に回転率は無駄をなくすためにチェックするべきもので、あくまでも優先すべきは利益や利益率であるということでしたね。
ただとはいえ、もちろん回転率を無視して良いというわけではありません。
回転率はビジネスの無駄を見つけるための大事な指標です。
そのため回転率については、できるだけこまめにチェックをしておき、ビジネスの改善に役立てられるようにしておきましょう。
ちなみに中小企業にとってもっとも重要な利益率を上げたい場合、商品やサービスの価格アップから検討してみるべきです。
というのも中小企業には、商品やサービスの価格を安く設定し過ぎてしまったために苦しんでいるところが非常に多くあります。
もしかすると現にあなたの会社でも、忙しいのに儲けが少ないと苦しい思いをしているかもしれませんね。
回転率は利益率には劣るものの、非常に重要な指標の1つです。
こまめにチェックすることで、ぜひビジネスの改善に役立ててください。