今回は、事業を営んでいくうえで無視することのできない「スイッチングコスト」についてご説明していきます。
スイッチングコストとは、何かを新しくするさいにかかってくるコストのことです。
たとえばオフィスに新しいコピー機を設置すればお金がかかりますし、人員の入れ替えを行えば教育のための時間と手間がかかります。
このスイッチングコストについて大前提として知っておいて欲しいのは、決して避けるべきものではないということです。
スイッチングコストがかかることを嫌ったり、無意識に避けようとしてしまう社長は多いですが、実は「コストを恐れて現状維持に努める」という姿勢のほうこそ、収益増加の邪魔をしているのです。
そこで今回は、スイッチングコストに関する正しい知識と、スイッチングコストを回収する方法をお伝えしていきます。
スイッチングコストを正しく理解できていないがために倒産まで追い込まれる会社も少なくありませんので、この機会にスイッチングコストについてしっかり学んでください。
スイッチングコストの意味と事例
冒頭でも少しお話ししましたが、スイッチングコストとは、何かを新しくするさいにかかってくるコストだと定義されています。
会社を運営していると、日々、状況は変化してくるはずです。
技術の進歩、流行の変化、社員の入れ替わり、備品の劣化、などなど、変わる例を挙げだしたらキリがありません。
そして、状況の変化に応じて新しい機器の導入、新しい人員の確保、サービスの改定など、会社自体も変化することになりますよね?
3種類のスイッチングコストと事例
スイッチングコストには、大きくわけて3つの種類があります。
- 金銭的コスト(お金としてかかるコスト)
- 物理的コスト(工数としてかかるコスト)
- 心理的コスト(精神的負担としてかかるコスト)
スイッチングコストについて考えるときに、たとえば3種類のうちの金銭的コストばかりに目を向けて物理的コストを無視してしまうと、かかるコストを見落としてしまうことになります。
するとコスト計算が狂ってしまいますので、結果、会社が損をしてしまうこともあるのです。
そのためスイッチングコストの計算をするときは、きちんとこの3種類のコストすべてについて考えなければいけません。
ただ逆を言えば、スイッチングコストとしてかかってくるコストは、この3種類だけだとも言えます。
つまり、この3種類のコストを理解しておけば、かなり正確にスイッチングコストを計算できるということです。
それでは3種類のスイッチングコストがそれぞれどのようなものなのか、事例とともに紹介していきましょう。
スイッチングコストの種類1.金銭的コスト
金銭的コストは読んで字のごとく、お金としてかかってくるコストのことです。
- コピー機を入れ替えたときにかかった費用
- 値下げを行ったさいの差額
- 管理職を増やすことで生まれる給料支払いの増加
金銭的コストの事例としては、このようなものがあります。
単純にお金のコストなので、金銭的コストについてはほかのものよりわかりやすいのではないでしょうか。
実際に、この金瀬的コストをとくに気にする社長は多いです。
そして良くない例ですが、金銭的コストだけを気にしてしまい、結果的に経営を傾けてしまう社長も多くいます。
スイッチングコストの種類2.物理的コスト
物理的コストとは、時間や手間としてかかってくるコストのことです。
- 新しい人員を雇ったときにかかる教育の時間
- 新しいシステムを導入したことによる一時的な作業効率の低下
- 備品を買いに行かせた社員の工数
物理的コストは、このようなかたちで発生します。
物理的コストは一見するとお金がかかっていないように見えますが、実はそうではありません。
たとえば、新人を教育するには、その新人と教える先輩社員2人分の工数を使います。
そして工数には当然、給料が発生します。
もしくは新しいシステムを導入した場合には、そのシステムに慣れるまでは社員に残業が発生する可能性があります。
残業には当然、残業代の支払いが必要です。
このように物理的コストは、間接的にお金のコストとして換算することができます。
そういう意味では、物理的コストも比較的わかりやすいコストです。
スイッチングコストの種類3.心理的コスト
心理的コストは、社長や社員にかかる精神的負担のことです。
- 仲の良かった仕入れ先から別の仕入れ先に変えるときに感じるストレス
- やりたかったが採算の合わない事業から手を引くときに感じるストレス
- 新しいシステムに不慣れで思うように作業がはかどらないときに感じるストレス
このように、心理的コストはストレスというかたちで表れます。
そして実はこの心理的コストも、お金のコストとして換算することができます。
なぜなら、ストレスはモチベーションの低下に繋がるからです。
モチベーションが下がれば、作業効率も比例して大きく下がります。
つまり工数が増加し、その分支払わなければならない給料が増加するのです。
さらに、ミスによる損益や営業の失敗にも繋がります。
それどころか最悪、社員が一斉に辞めてしまうという事態にもなりかねません。
このように心理的コストは、決して軽く見てはいけないものです。
しかしわかりにくいコストでもあるので、多くの社長がこの心理的コストを軽く見てしまいます。
その結果、残念ながら倒産に追い込まれてしまうという会社も少なくありません。
スイッチングコストは顧客に負わせるものもある
スイッチングコストには、会社ではなく顧客に負わせるタイプのものも存在しています。
たとえば、携帯電話の解約を思い浮かべてみてください。
携帯会社は、あの手この手であなたに対してスイッチングコストを負わせてきます。
- 解約金(金銭的コスト)
- わかりにくい解約フォーム(物理的コスト)
- 情に訴えかけるような文章(心理的コスト)
このようなものは、携帯会社から負わされているスイッチングコストです。
もしかしたら、こういったかたちでスイッチングコストを利用するという戦略は、あなたの事業でも可能かもしれません。
しかし、露骨にやり過ぎてしまうと顧客離れを起こしてしまう可能性があります。
それこそ解約の電話窓口が平日の昼間1時間しか受付していなくて解約できない、というような詐欺まがいなことはおすすめしません。
スイッチングコストを顧客に負わせるときは、あくまでもフェアな取引を心がけてください。
スイッチングコストが生み出す2種類の効果
スイッチングコストが生み出す効果は、大きくわけて2種類あります。
- 生産性の向上
- 付加価値の向上
スイッチングコストを正しく運用するためには、コストに対するリターンを理解しておくことが必要です。
そうでなければ、スイッチングコストの回収を確実に行うことができません。
種類の効果がそれぞれがどのようなもので、どうすればスイッチングコストの回収に繋がるのか、詳しく説明していきます。
スイッチングコストの効果1.生産性の向上
スイッチングコストを負うことによって得られるリターンの1つが生産性の向上です。
- 社内のパソコンを入れ替えることによって作業効率が上がる
- 実力を持った人員を補充することで作業効率が上がる
- 社員の給料を上げることでモチベーションアップに繋がる
たとえばこのような事例は、スイッチングコストに対して生産性アップの効果を得ています。
そして、生産性が上がることによってスイッチングコストを上回る経費削減や収益増を達成できれば、正しくスイッチングコストを運用できたということです。
スイッチングコストの効果2.付加価値の向上
スイッチングコストによって得られるもう1つのリターンは、自社サービスに対する付加価値の向上です。
- 飲食店がより高価な材料を仕入れることで味を向上させる
- 新しい接客システムを取り入れることで顧客の満足度を向上させる
- 優秀な人員を雇うことで今まで対応できなかったニーズに対応する
こういった事例は、サービスに付加価値を付けるというかたちでリターンが返ってきます。
自社のサービスの価値が上がることにより、スイッチングコスト以上の利益アップを達成できれば、スイッチングコストの運用は成功したということです。
スイッチングコストの効率的な回収方法
スイッチングコストを効率的に回収するためには、2つの方法があります。
- リスクとリターンの正しい計算式を作る
- 付加価値を顧客に伝える
この2つを徹底すれば、スイッチングコストを恐れる必要はなくなるはずです。
スイッチングコストの回収方法1.
リスクとリターンの正しい計算式を作る
スイッチングコストを回収するためには、スイッチングコストがどれくらいかかるのか、どれくらいのリターンが見込めるのかを正確に把握することが必要です。
これはとても簡単な話で、「リターン - コスト = スイッチングコストによる効果」という計算式によってスイッチングコストの効果性は割り出すことができます。
つまり、コストとリターンの計算ができてさえいれば、スイッチングコストは効率的に回収できるはずなのです。
しかし現実は、社長の多くがコストの計算とリターンの計算を正しく行えていません。
スイッチングコストを金銭的コストだけで考えてしまうなど、何かしらの不備があるのです。
これでは、スイッチングコストを正しく回収することができません。
そのため、スイッチングコストを効率的に回収したいなら、まずはこの記事で紹介している「3種類のスイッチングコストと事例」と「スイッチングコストが生み出す2種類の効果」を参考にして、正しい計算式を作るところから始めましょう。
もちろん、すべてが計算通りにいくわけではありませんが、そもそもの計算式が間違えていては論外だという話です。
逆に、コストとリターンの計算式さえしっかりしていれば、そうそう大きな失敗にはならないはずです。
まずは3種類のコストをしっかり把握すること。
そして、そのコストによって得られる2種類の効果をきちんと理解しておくこと。
スイッチングコストを効率的に回収するには、まずこの2つを意識しましょう。
スイッチングコストの回収方法2.
付加価値を顧客に伝える
スイッチングコストを回収するうえでもう1つ重要となるのが、スイッチングコストによって得た付加価値を顧客に伝えるということです。
スイッチングコストは、生産性を向上させるものと付加価値を向上させるものに分かれますが、このうち付加価値を向上させる方は多くの社長を悩ませます。
なぜなら、付加価値を向上させても利益がアップしないという問題が起こってしまうからです。
生産性を向上させた場合、その効果は工数の低下というかたちですぐに見えてきてくれます。
しかし付加価値の向上は、ただ付加価値を上げたというだけで終わりではありません。
付加価値を向上させた結果、しっかりと利益アップに繋がって、初めて成功したと言えるのです。
実は、付加価値を向上させた結果、逆に利益をダウンさせてしまうという会社も少なくありません。
そういう会社では、せっかくスイッチングコストをかけたのに顧客の数が一向に増えない、値上げをしたら客足が途絶えてしまった、ということが起こっています。
なぜそのようなことが起こってしまうのかというと、付加価値を向上させたという事実が顧客に届いていないからです。
たとえば、今まで外国産の野菜を使っていた飲食店が、顧客の健康を気遣って国産の野菜に変更したとします。
しかしそのことについて何も言わなければ、残念ながら気づいてくれる顧客はごく少数しかいないはずです。
そのため、当然のことながら顧客はほとんど増えてくれませんし、値上げをすればその分顧客が減ってしまいます。
つまり、コストだけかかって利益が上がらないというわけです。
しかし逆に言えば、価値をしっかりと伝えることができれば、顧客は増え、単価を上げることだって簡単にできるようになります。
実際、自社が提供している付加価値をしっかりと顧客に伝えることで単価を20倍にまでアップさせた治療院の経営者も存在しています。
単価が20倍、と言うと嘘のように聞こえてしまうかもしれませんが、本当の話です。
スイッチングコストによって付加価値を向上させた場合は、その価値を顧客に伝えるまでが重要であるということを理解しておきましょう。
【まとめ】スイッチングコストを恐れる必要はない
今回は新しいものを取り入れるさいにかかってくるスイッチングコストについてお話をしてきました。
スイッチングコストには、大きくわけて3つの種類があり、この3つを全部足し合わせたものがスイッチングコストの全容です。
「金銭的コスト + 物理的コスト + 心理的コスト = スイッチングコスト」
しかし、このうち金銭的コストだけを見て、ほかのコストに目が向いていないために失敗してしまう社長は多くいます。
そのため、まずはスイッチングコストをきちんと把握しておくことが重要なのだと覚えておきましょう。
そしてもう1つ多いのが、付加価値の向上を利益アップに繋げられず、スイッチングコストの回収ができていないという会社です。
なぜこのようなことが起こってしまうのかというと、付加価値を向上させたという事実が顧客に伝わっていないからです。
付加価値の向上は、顧客に伝わらなければ利益アップに繋がることもありません。
しかし逆を言えば、付加価値をうまく伝えることさえできれば、スイッチングコストの回収はとても簡単に行うことが可能です。
事実、北岡のコンサルによって価値をきっちり伝えた結果、サービスの単価を20倍にまで上げることができたという事例もあります。
当たり前な話ですが、単価が上がるということはそれだけ利益が上がるということです。
スイッチングコストは、その全容を把握し、リターンをしっかりと得られれば、何も恐れる必要はありません。
むしろ日進月歩で進む社会の中、あなたの会社が取り残されないためには、積極的に使っていくべきコストです。
スイッチングコストをうまく運用できれば、あなたの会社はどんどんと発展していけるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。