今回は特殊な報酬形態である「ストックオプション制度」について解説をしていきます。
ストックオプション制度は、とくに将来性のある中小企業(ベンチャー企業)に向いている報酬形態です。
うまく活用することで優秀な人材を獲得できたり、社員のモチベーションを上げることができたりと、さまざまなメリットがあります。
とくに優秀な人材を獲得できるというメリットは、総従業員数が少ない中小企業にとってはとても大きなアドバンテージとなるでしょう。
そこで今回はストックオプション制度について、以下のようなことをお話ししていきます。
- ストックオプションの意味や仕組み
- ストックオプションのメリット、デメリット
- ストックオプション制度導入に向いている企業の特徴
- ストックオプションの税金について
- ストックオプション制度の導入手順
この機会にストックオプション制度を理解して、優秀な人材を獲得できる体制を作っておきましょう。
ストックオプション制度の仕組み
ストックオプション制度とは、社員や役員が報酬をお金ではなく「会社の株式を定められた価格(権利行使価格)で購入できる権利」という形で受け取ることができる制度のことです。
たとえば権利行使価格が1万円であったとして、数年後に会社の株価が2万円に上がったとします。
このときにストックオプションの権利を行使すれば、2万円の価値を持つ株式を権利行使価格である1万円で購入することができるのです。
そして差額として発生する1万円が、権利行使者にとっての報酬となるわけですね。
ストックオプションでの報酬は株価によって変化することから、会社の業績に大きく左右されることになります。
会社の業績が伸びて株価が跳ね上がれば、その分報酬も跳ね上がるという特徴を持っているのです。
ただし逆に株価が下落して権利行使価格よりも安くなってしまえば、報酬を受け取れない状態になる可能性もあります。
大きな報酬を受け取れる可能性がある反面、報酬がなくなってしまう可能性もあるのがストックオプションなのです。
ちなみにストックオプションは「新株予約権」の一種です。
新株予約権は会社法236条にて、「権利を有している人がその権利を行使することで会社の株式の交付を受けることができる」ということを定義しています。
この新株予約権のうち、報酬として支払われる権利のことをストックオプションというのです。
(参考:e-GOV 会社法)
ストックオプションは3種類ある
実はストックオプションには、以下のように3つの種類が存在しています。
- 通常型ストックオプション
- 有償ストックオプション
- 株式報酬型ストックオプション
同じストックオプションでも、種類によって少し意味合いが変わってくるのです。
それでは1つずつ解説していきましょう。
ストックオプションの種類1.
通常型ストックオプション
通常型ストックオプションはその名のとおり、もっとも一般的な通常のストックオプションです。
前述したとおり、報酬として株式の購入権を受け取り、好きなときにあらかじめ決めておいた価格(権利行使価格)で購入することができます。
つまり株式の時価が権利行使価格より上がったタイミングで権利を行使すれば、その差額分を報酬として受け取れるということですね。
ストックオプションの種類2.
有償ストックオプション
有償ストックオプションは、簡単に言うと通常型ストックオプションに「将来、決められた期間で必ず株式を購入しなければいけない」という義務を加えたものです。
必ず株式を購入しなければいけないわけですから、万が一株価が下がってしまっていた場合、権利行使者には損失が発生してしまいます。
そのため有償ストックオプションについては、「報酬」というよりは自社の新株予約権を使った「投資」という意味合いの方が強いと言えるでしょう。
ストックオプションの種類3.
株式報酬型ストックオプション
株式報酬型ストックオプションは、権利行使価格を1円に設定したストックオプションです。
別名、1円ストックオプションともいいます。
株式報酬型ストックオプションの場合、権利行使価格が1円、つまりほとんど無料に近い形になるため、権利を行使した時点でほぼ株価と同じ価格の報酬を手にすることになります。
このことから株式報酬型ストックオプションは、より報酬としての意味合いを強めたストックオプションであると言えるでしょう。
ちなみに、ほぼ無料で新株を購入できることから、報酬として以外に退職金として株式報酬型ストックオプションを発行するというパターンも多いです。
ストックオプション制度導入のメリット、デメリット
ここからはストックオプション制度を導入するメリットとデメリットについて説明をしていきます。
ストックオプションのメリットとデメリットを正しく理解し、うまく活用していきましょう。
ストックオプション制度導入のメリット
ストックオプション制度を導入するにあたって得られるメリットには以下のようなものがあります。
- 優秀な人材を獲得することができる
- 社員のモチベーションを上げることができる
- 売上がまだ立っていないときの人件費を抑えることができる
まずは冒頭でもお話ししたとおり、ストックオプションを活用すればより優秀な人材を獲得できるようになります。
なぜならストックオプション制度がある場合、企業の規模が小さくても事業に将来性があれば優秀な人材が入社してきてくれるからです。
そのためストックオプション制度を導入すれば、本来なら獲得できないようなレベルの人材を確保することもできます。
そしてストックオプション制度には、社員のモチベーションが上がるというメリットもあります。
なぜそのようなメリットがあるのかというと、ストックオプションによる報酬が会社の業績によって大きく左右されるためです。
がんばって業績を上げた分がそのまま報酬に反映されるわけですから、ストックオプションを保有している社員はより高いモチベーションで仕事に挑めるというわけですね。
そのため、強い影響力を持った役員に対してストックオプション制度を導入するという企業も多くあります。
あとストックオプション制度のメリットとしては、売上がまだ立っていないときの人件費を抑えることができるというものも大きいです。
事業を立ち上げてすぐはまだ売上が立っていないため、人件費として使える資金にも限度があります。
しかし優秀な人材は、それなりの報酬を用意しなければ獲得することができません。
そこでストックオプション制度を活用すれば、人件費の負担を減らしつつ優秀な人材を獲得することができるというわけですね。
また、高額になりがちな役員の報酬を支払う場合も、一部をストックオプションにすることで人件費を抑えることに繋がります。
以上がストックオプションのメリットです。
ストックオプションは企業側にも社員側にもメリットがあるため、うまく活用すればWIN-WINの関係性を築けるでしょう。
ストックオプション制度導入のデメリット
ストックオプション制度の導入にはメリットだけでなく、以下のようなデメリットも存在しています。
- 権利を行使した優秀な社員が会社を離れてしまう
- 社員同士の関係が悪くなる可能性がある
- 業績が伸びなかった場合に社員から不満があがる
まず忘れてはいけないのが、ストックオプションの権利を行使した社員がそのまま会社を退社してしまう可能性があるということです。
ストックオプション制度では、権利を行使して株式を購入しなければ報酬を受け取ることができません。
しかし、株式を購入した時点でストックオプションの旨味はなくなってしまうわけです。
そうなれば当然、株式を購入すると同時に自分をさらに高く買ってくれる会社に転職しようとする人も出てきます。
それが向上心の強い優秀な人材ともなれば尚更ですね。
そしてもう1つ知っておきたいのが、社員同士の関係性が悪くなってしまう場合もあるということです。
考えてみてほしいのですが、ストックオプションを受け取っている社員と毎月決まった額の報酬だけを受け取っている社員のモチベーションは等しいでしょうか?
おそらく、ストックオプションを受け取った社員の方がモチベーションは高いはずです。
ストックオプションによる報酬は業績の影響をより大きく受けてしまうため、通常の給与を貰っている社員と比べてモチベーションが違うというのは、当然と言えば当然ですね。
そしてこのモチベーション格差が、ときに社内での不和を呼んでしまいます。
ストックオプション制度を導入するさいは、そのことをきっちり理解したうえで社内の人間関係にも気を配るようにしておきましょう。
あとは、業績が思ったより上がらなかった場合にストックオプションを受け取った社員から不満が挙がってくるというデメリットもあります。
業績が伸びなかった場合、もっとも責任が問われるのは社長、つまりあなたです。
そのため業績が伸びなかった場合は、あなたのやり方が悪かったのだと責められる可能性があります。
そしてさらにそれだけではなく、業績の悪化が深刻なモチベーションの低下や人材流出を引き起こしてしまうこともあるのです。
このようにストックオプションは、業績が上がらなかった場合には一転してデメリットが多くなってしまうという側面も持っています。
以上がストックオプション制度を導入するさいに生じるデメリットです。
ストックオプションは確かにメリットが多い制度ですが、これらのデメリットについても忘れないようにしておきましょう。
ストックオプション制度導入に向いている企業とは?
ストックオプション制度を導入するのにもっとも向いているのは、将来性のある事業を手掛けている中小企業です。
中小企業はまだまだ発展途上の小さな会社であるため、事業によっては大きく跳ねる可能性があります。
そしてその可能性が、ストックオプションを受け取る側からしてみれば大きな魅力となるのです。
ちなみに、ストックオプション制度を導入する段階では必ずしも上場している必要はありません。
もちろん株式を報酬として取り扱うわけですから、上場している企業の方が向いてはいます。
しかしストックオプション制度はあくまでも将来性を視野に入れた報酬形態であるため、将来的に上場することを予定している企業であれば、現状非上場であったとしてもストックオプション制度を導入することが可能なのです。
このようにストックオプション制度を導入する場合、もっとも重要なのは企業の将来性です。
だからこそストックオプション制度の導入に向いているのは、成長途上でまだまだ伸びしろのある中小企業だと言えるわけですね。
ストックオプションの税金について
ここからはストックオプションの税金についてお話をしていきます。
ストックオプションを受け取った社員からしてみれば普段とは違う報酬の受け取り方になってしまうため、実は確定申告のときに迷ってしまう人も多いです。
そのためストックオプション制度で優秀な人材を確保したいという場合には、企業側から税金のことについてあるていど説明できるようになっていた方がプラスに働くというわけですね。
そして重要なのが、ストックオプションの課税には2種類のパターンがあるということです。
この種類によって税金の支払い方が変わってきますので、企業側としてもしっかり理解しておかなければいけません。
その2種類のパターンというのが、この2つです。
- 税制非適格ストックオプション
- 税制適格ストックオプション
この2つのどちらが適用されるかによって、社員が支払う税金の額は大きく変わります。
それでは1つずつ詳細を説明していきましょう。
税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションの場合、受け取った側が払わなければいけないのは「給与所得による所得税」と「譲渡所得による所得税」です。
まずストックオプションの権利を行使して株式を購入した場合、時価が権利行使価格(購入金額)を上回っていた分に関しては「給与所得」とみなされ、そこに所得税がかかります。
この所得税は累進課税で計算されるため、最大55%の税金を支払わなければいけません。
またこの所得税は株式を購入した段階でかかってくるため、株式を売却しなくても支払う必要があります。
そのため税額が大きすぎる場合、税金を支払うためにすぐ株式を売却してお金を作らなければいけないということにもなりかねないのです。
そして税制非適格ストックオプションの場合、さらに株式を売却するときにも追加で税金がかかります。
権利を行使したときの時価と売却価格に差額がある場合、その差額が譲渡所得とみなされ、そこに一律20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の税金がかかってくるのです。
このように税制非適格ストックオプションの場合、二重に税金がかかってきてしまうわけですね。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションの場合は、税制の優遇措置を受けることができます。
具体的に言うと、税制非適格ストックオプションと比べて権利行使時の税金がかからないという違いがあるのです。
つまり税制適格ストックオプションの場合は、株式を売却したときに発生する譲渡所得に対する所得税だけを支払えば良いというわけですね。
税率は権利行使時における株式の時価と売却価格の差額に対して、一律20.315%となります。
このような違いがあるため、ストックオプション制度を導入するさいは基本的に税制適格ストックオプションとして設計するのが好ましいです。
ただし税制適格ストックオプションにするためには以下の要件を満たしておかなければいけませんので、チェックしておいてください。
- 付与対象者の範囲 自社及び子会社(50%超)の取締役、執行役及び使用人 (ただし大口株主及びその特別関係者、配偶者を除く)
- 所有株式数 発行済み株式の1/3を超えない
- 権利行使期間 付与決議日の2年後から10年後まで
- 権利行使価額 権利行使価額が、契約締結時の時価以上
- 権利行使限度額 権利行使価格の合計額が年間で1200万円を超えない
- 譲渡制限 他人への譲渡禁止
- 発行形態 無償であること
- 株式の交付 会社法に反しないこと
- 保管・管理など契約 証券会社等と契約していること
- その他事務手続き 法定調書、権利者の書面等の提出
(引用:平成31年度税制改正要望事項_PDF)
逆に言えばこれらの要件を満たせない場合は、ストックオプションの導入を再検討した方が良いでしょう。
ストックオプション制度導入手続きの手順
ストックオプション制度を導入する場合、基本的に以下の手順で手続きを行う必要があります。
- 取締役会にて権利行使のための条件を決議する
- 株主総会を開き、ストックオプションの募集要項について特別決議を得る
- 株主総会で決議を得てから1年以内に取締役会を開き、付与対象者や発行価格などについて決議する
- 付与対象者から新株予約権申込証を受け取り、新株予約権割当契約書を締結する
- 新株予約権原簿を作成し、会社で保管しておく
- ストックオプションを発行してから2週間以内に新株予約権に関する登記申請をする
- 株式を公開している会社でかつ取締役を含む役員がストックオプションを保有している場合、その内容と保有人数などを事業報告書に記載する
- 就業規則への規定と周知、労働基準監督署への届出を行う
- 新株予約権に関する調書を税務署に提出する(権利付与をした年の翌月1月31日までに提出すること)
これらの手続きを行うことで、ストックオプション制度を導入することができます。
手順によっては期限がありますので、その点は注意してください。
ストックオプション制度導入時に注意すべきこと
ストックオプション制度を導入するさいに1つ、注意しなければいけないことがあります。
それがストックオプションを発行しすぎてしまうことです。
基本的にストックオプションは、株式全体の10%ていどまでが適正であると言われています。
なぜかというと、株式全体に対するストックオプションの比率が大きくなりすぎてしまうことで上場審査に通りにくくなってしまったり、株式の価値が落ちてしまったりするからです。
たとえば、ストックオプションを大量に発行してしまったうえで一気に権利を行使されてしまったらどうなるでしょうか?
ストックオプションの権利を行使されるたびに新しい株式を発行することになるため、1株当たりで受け取れる利益が急激に下がってしまうという、いわゆる株式の希薄化が起こってしまいます。
そして既存の株主たちはそのようなリスクを避けるため、あなたの会社の株式を手放そうと動き出すのです。
すると当然、株価の急激な下落が起こってしまうわけですね。
このような事態を避けるため、ストックオプションは多くても全体の10%ていどに抑えなければいけません。
ストックオプション制度を導入する場合、ストックオプションが占める割合についてはきちんとコントロールしておきましょう。
【まとめ】ストックオプションは優秀な人材を確保したいときに効果的
今回はストックオプションについて説明をしてきました。
ストックオプション制度は、簡単に言うと会社の将来性を報酬にするといった制度です。
そのためうまく活用することで、現状の企業規模よりも高レベルな人材を確保することもできます。
もしあなたの手掛けている事業がこれから伸びる見込みのあるものなら、ぜひ1度ストックオプション制度の導入を検討してみてください。
ただし、ストックオプション制度には会社の業績が伸びなければ報酬も増えないというデメリットもあります。
そのためストックオプション制度を導入するということは、社長であるあなたにかかる責任がさらに増すということを同時に意味しているのです。
ただ、そうはいってもなかなか業績が伸ばせないという場合もあるかと思います。
そんなときは1度、あなたの会社で販売している商品サービスの価格を見直してみてください。
なぜなら日本の中小企業の多くが、商品が本来持つ価値よりも安い価格で売ってしまっているからです。
商品価格は利益や利益率に直結する非常に重要な数字だと言えます。
そのため価格を適正な水準まで上げることができれば、それをキカッケに業績が伸びる可能性も大いにあるということなのです。
ストックオプション制度はうまく活用することができれば、企業が大きく発展するキッカケになります。
もしあなたの会社でもうまく活用できそうなら、ぜひ1度導入を検討してみてください。