今回は「リバースイノベーション」について解説をしていきます。
ここ数年で、技術革新を意味する「イノベーション」という言葉はかなり浸透しました。
ただ、リバースイノベーションという言葉については知らないという人も多いのではないでしょうか?
しかし、もしあなたが日本だけでなく海外市場も視野に入れてビジネスを行っている、もしくはその予定があるのなら、今回紹介する「リバースイノベーション」についてはぜひ知っておいてほしいです。
なぜならリバースイノベーションを理解しておくことで、競合と差別化された新しい事業や商品を作り出すことができるからです。
そこで今回はリバースイノベーションについて、以下のようなお話をさせていただきます。
- リバースイノベーションの意味
- リバースイノベーションのメリット、デメリット
- リバースイノベーションを実施するときのポイント
- リバースイノベーションの成功事例
多くの会社が「イノベーション」という言葉に囚われがちですが、だからこそリバースイノベーションを上手く起こすことができれば競合との差別化を果たすことができます。
ぜひこの記事を参考にして、新しい事業を生み出すヒントを得てください。
リバースイノベーションとは
リバースイノベーションとは、「途上国や新興国向けに事業を展開し、その事業を先進国へ輸入する」という意味の言葉です。
基本的には、「先進国 = 会社の本拠地がある場所」を指します。
たとえば日本企業の場合、アジアの途上国や新興国のニーズをもとに製品を開発し、その製品を日本向けにアレンジして販売するというような手法です。
リバースイノベーションは、2009年にダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのビジャイ・ゴビンダラジャン教授とクリス・トリンブル教授によって提唱されました。
まだ認知されてから10年ちょっとしか経っていない言葉なので、比較的新しい手法であると言えますね。
リバースイノベーションという言葉が有名になる前は、「グローカリゼーション」という手法が主流でした。
グローカリゼーションとは、世界的に売り出している商品を、その国や地域に合わせて仕様変更をするという手法です。
世界的を意味する「グローバリゼーション」と、限定的な地域を意味する「ローカリゼーション」を合わせた造語ですね。
たとえばアメリカのマクドナルドが、日本人の味覚に合わせて「てりやきバーガー」を開発して売っているというのがわかりやすい事例です。
これは世界的に売り出しているハンバーガーという商品を日本人向けに仕様変更した例であると言えます。
このように、先進国で開発した商品を全世界に展開し、各々の国、地域のニーズに合わせることでより売上を伸ばすという戦略がグローカリゼーションです。
ただその一方で、逆のパターンでも良い結果が生み出せるのではないか、という考えが生まれました。
「本拠地で開発して諸外国に展開する」のではなく、「諸外国で開発したものを本拠地で展開する」という考え方です。
つまり、途上国や新興国で起こした技術革新(イノベーション)を本拠地に戻す(リバースする)ということですね。
リバースイノベーションを実践するということは、イノベーションを起こすためのタネを先進国だけでなく途上国や新興国からも拾い上げることになります。
そのため今、リバースイノベーションが世界各国で注目を集めているのです。
リバースイノベーションのメリット
リバースイノベーションのメリットをまとめると、以下のようなものが挙げられます。
- 新しい技術や発想を得ることができる
- 国内での差別化に繋がる
- 途上国や新興国のニーズにより応えることができる
- 海外向けの成長戦略として優秀である
リバースイノベーションを実践すれば、国内だけで商品開発をしていては生まれないような新しい技術や発想を得ることができます。
まさにイノベーションを起こすことができるというわけですね。
そしてこの新しい技術や発想は、国内だけで開発を行っている競合他社に対する大きな差別化となります。
先進国である日本とは大きく環境の違う途上国や新興国で開発を行うからこそ、新しい製品であったり事業であったりを作り出すことができるのです。
さらにリバースイノベーションの大きなメリットとして、グローカリゼーションに比べて途上国や新興国のニーズにより応えることができるというものがあります。
あくまでも国内のニーズをもとに作られた商品やサービスをカスタムするだけのグローカリゼーションでは、必ずしも諸外国のニーズに応えきることができません。
しかし最初から対象国のニーズに合わせて商品を開発するリバースイノベーションであれば、より最適な事業を展開することができます。
そのためリバースイノベーションは、海外向けの成長戦略としても非常に優秀なのです。
このようにリバースイノベーションには、国内で商品開発をしているだけでは得られないさまざまなメリットが存在しています。
リバースイノベーションのデメリットや注意点
リバースイノベーションにはさまざまなメリットがありますが、同時にデメリットや注意点も存在しています。
- 既存の製品やノウハウを転用できない
- 対象国の文化や気候に気を配らなければならない
リバースイノベーションを実践する場合、既存の製品やノウハウを転用することが推奨されません。
なせなら先進国のニーズや環境をもとに開発した製品やノウハウを転用してしまうと、途上国や新興国のニーズを十分にくみ取れなくなってしまうからです。
そもそも既存の製品やノウハウをもとにしてしまえば先入観が入ってしまうため、新しい技術や製品を生み出すことから遠のいてしまいます。
そのためリバースイノベーションを実践するなら、資金や労力を覚悟のうえで1から挑まなければいけないのです。
あと対象とする国については、文化や気候に十分注意しなければいけません。
ここを無視してしまうと、新しく生まれた技術を本拠地に持ち帰るさいに上手くいかなくなってしまいます。
リバースイノベーションを前提として商品開発をするのなら、対象国を選ぶさいにしっかり検討しておかなければいけないのです。
このようにリバースイノベーションにはいくつかのデメリット、注意点もあります。
これらについてもしっかり把握しておきましょう。
リバースイノベーションを実施するときのポイント
実際にリバースイノベーションを行いたいときに、3つのポイントがあります。
- グローバルな人材を育てる
- 組織の意識改革を行う
- 現地のニーズを明確にする
これらのポイントを抑えておけば、リバースイノベーションが上手くいく可能性が大幅に上がるはずです。
それでは1つずつ解説していきましょう。
リバースイノベーションのポイント1.
グローバルな人材を育てる
リバースイノベーションは現地で商品開発を行うため、グローバルな人材の採用、教育が必要不可欠です。
現地では、言語はもちろん、文化も考え方も違う人材を採用し、管理していかなくてはいけません。
日本の考え方では通用しないことも多々出てきます。
そのため、言語力のある人間や柔軟な対応ができる人間を採用し、対象国のことをしっかりと学ばせる必要があるのです。
リバースイノベーションのポイント2.
組織の意識改革を行う
リバースイノベーションを行うためには、新しい発想を生み出すための意識改革が必要です。
文化や環境の違う国で商品開発をするので、日本での常識が通用しない部分もあります。
また、新しい商品を生み出すという意識も必要です。
この意識改革ができていないと、新しい商品を生み出したものの、結局既存品を現地に合わせただけのものになってしまいかねません。
現地の人の声をしっかりと汲み取って新しい商品を生み出すという意識は、リバースイノベーションを行ううえで必要不可欠であると言えるでしょう。
リバースイノベーションのポイント3.
現地のニーズを明確にする
リバースイノベーションを実践するためには現地のニーズを明確化する必要があります。
このとき、対象国は文化も環境も宗教も習慣も所得も日本とは違うはずなので、固定観念が混じってはいけません。
もちろん日本と対象国の差を明確にすることは重要ですが、安易に日本の価値観で差を比較してしまうと、結局日本商品の仕様変更版になってしまいかねないのです。
その国で何が欲されているのかは両国の差を理解したうえで、しっかりと現地の人の声を調査して抜き出していきましょう。
日本企業におけるリバースイノベーションの成功事例
ここからは、日本企業におけるリバースイノベーションの成功事例を紹介していきます。
- 株式会社LIXIL
- PayPay株式会社
現地のニーズがどのように日本で評価されているのか、ぜひ参考にしてみてください。
リバースイノベーションの成功事例1.
株式会社LIXIL
株式会社LIXILはケニア・ナイロビのニーズを汲み取り、「超節水型水洗トイレ」、「循環型無水トイレ」の2種類のトイレを開発しました。
ケニア・ナイロビを始めとしたアフリカ諸国では、慢性的な水資源の不足が問題となっています。
そしてもう1つ、人口の急激な増加についても、現地での大きな問題となっているのです。
LIXILはそんな環境下において、清潔で快適な衛生設備の提供を目指す「グリーントイレシステムプロジェクト」を進めました。
その結果生まれたのが、ほとんど水を使わずに洗浄できるトイレや、便を肥料に変えることができる仕組みを搭載したトイレです。
これらのトイレはケニア・ナイロビだけではなく、慢性的な水不足問題を抱えているアメリカやオーストラリアでも評価されました。
そして日本でも、災害時の避難施設設備として注目を集めたのです。
このように途上国や新興国で問題となっていることで、実は先進国でも問題となり得るものがあります。
こういうニーズを上手く解決することができれば、リバースイノベーションが成功する確率は高まるでしょう。
リバースイノベーションの成功事例2.
PayPay株式会社
PayPay株式会社が提供するキャッシュレスの技術についても、リバースイノベーションが起こっていると言えます。
実はPayPay株式会社のキャッシュレス技術は、日本や欧米といった先進国で生まれたものではなく、途上国とされているインドで生まれたものなのです。
現在日本は、キャッシュレス化においてかなりの遅れを取っています。
一方でインドや中国といった国では、キャッシュレス化が早い段階から広く普及していたのです。
このように新しい技術が先進国ではなく、途上国や新興国から生まれ、普及していくこともあります。
固定観念を捨て、途上国や新興国で広まっている商品が日本でも使えないかという視点を持つことが、リバースイノベーションを起こすうえでは非常に重要です。
【まとめ】リバースイノベーションのメリットを活かそう
今回は途上国、新興国から先進国に技術や製品を逆輸入するリバースイノベーションについて解説をしてきました。
リバースイノベーションを意識すれば、国内だけで商品開発をしていては出てこない発想や技術を発掘することができます。
現地で成功することはもちろん、日本国内においても競合他社と差別化を図ることができるのです。
ただし、途上国や新興国と先進国(日本)では物価が違うので、価格設定には注意しなければいけません。
物価の安い途上国や新興国で生まれた商品だからといって、安すぎる価格設定をするべきではないのです。
商品の価格は、その商品を使ったお客さんが感じた価値によって決まります。
言ってしまえば、お客さんが「これくらいなら払ってもいい」と思える価格が、そのまま商品価格になるのです。
そして当然、この感覚はその国の物価によって変わってきます。
日本で商品を売るときには、日本の価値観に合わせて価格設定をしなければいけないのです。
リバースイノベーションを実践することで、まったく新しい商品やサービスを生み出すことができます。
グローバル化が進む現代において、1つの選択肢として知っておいてください。