今回は「リアルオプション」の考え方について解説していきます。
リアルオプションは金融工学における事業評価の手法なのですが、変化の激しいビジネスの世界においては、経営者側にとっても非常に重要となる考え方です。
このリアルオプションを意識した戦略を立てることで、事業に柔軟性を持たせることができます。
そこで今回はリアルオプションについて、以下のようなお話をしていきます。
- リアルオプションの意味
- 経営戦略にリアルオプションを取り入れるメリット
- リアルオプションを念頭に置いた戦略の実践方法
- リアルオプションの活用事例
技術革新が早い現代において、柔軟性は非常に重要な要素の1つです。
ぜひ今回の記事を参考にして、リアルオプションを理解してください。
リアルオプションの意味とは?
冒頭でもお話ししたとおり、リアルオプションとは、金融工学で用いられる事業の評価手法のことです。
簡単に言うと、将来の不確実な要素に対し、柔軟性がない事業よりも柔軟性がある事業の方が投資家からの評価が高くなります。
投資家からの評価が高くなるということは、それだけ事業に優位性があるということです。
そのため経営者についても、事業戦略を立てるさいにリアルオプションを意識すれば良いと言えるわけですね。
では、どのような事業がリアルオプションにおいて評価されるのかというと、重要な局面で複数の選択肢がある事業です。
事業の継続を揺るがすような重要な場面で、どれだけ状況や環境に合わせて柔軟な対応ができるか、ということですね。
たとえばいきなりすべての予算をつぎ込まなければいけない事業よりも、少額でテストマーケティングができる事業の方が評価は高いです。
このように、不確実性に対して柔軟に対応できる事業戦略かどうかを評価するのがリアルオプションです。
リアルオプションで評価されるような事業戦略をとれば、将来の不確実性が持つリスクを大幅に削減することができます。
そのため、最近は多くの日本企業が自社の事業を評価するための手法として採用しています。
経営戦略にリアルオプションを取り入れるメリット
経営戦略を立てるさいにリアルオプションを取り入れれば、以下のようなメリットを得ることができます。
- 「不確実性」というリスクに対応できる
- 柔軟性の高い事業を展開できる
- 新規事業立ち上げで失敗するリスクを減らせる
それでは1つずつ解説していきましょう。
リアルオプションを取り入れる1.
「不確実性」というリスクに対応できる
リアルオプションは不確実性に対する柔軟性を評価する手法であるため、これを意識して事業戦略を立てれば不確実性というリスクに対応することができます。
従来の事業評価手法にDCF法(NPV分析)というものがあるのですが、こちらの場合は不確実性に対するリスクを判断することができません。
DCF法(NPV分析)は、市場の完全性や評価時点での実行判断だけで評価をするためです。
一方リアルオプションの場合、ある一定の段階や時点において再評価を行います。
そのためリアルオプションで事業評価を行えば、再評価のタイミングで経済情勢や業界動向、テクノロジーの発展などを確認し、その都度、投資判断や撤退判断、もしくは段階投資判断をすることができるのです。
そしてこの再評価のタイミングで多くの選択肢を持っていればいるほど、「不確実性」というリスクに対して強い事業であると判断できるわけですね。
リアルオプションを取り入れる2.
柔軟性の高い事業を展開できる
リアルオプションでは現時点での収益性だけでなく、今後の柔軟性が重要な評価基準となっています。
そのため自社事業の評価をリアルオプションで行えば、柔軟性の高い事業を展開できるようになるのです。
たとえば従来のDCF法(NPV分析)では、現時点での収益性が重要視されます。
そのため現時点での収益性は高いが将来性が低い事業が高く評価されてしまうのです。
言ってしまえば、目先の利益を取るあまり、将来の柔軟性が軽視されているわけですね。
これでは当然、これから成長する事業に参入することが難しくなってしまいます。
さらに柔軟性がなく、資源の使い道も固定されてしまうため、今後の経営基盤をかなり圧迫してしまうのです。
しかしリアルオプションの場合、たとえ現時点での収益性が低くても、将来性や柔軟性があればその分事業評価が高くなります。
そのためリアルオプションで事業判断を行えば、成長分野に参入しやすくなったり、経営基盤の圧迫を防げたりするのです。
リアルオプションを取り入れる3.
新規事業立ち上げで失敗するリスクを減らせる
リアルオプションの考え方を重視すれば、新規事業立ち上げで失敗するリスクを軽減することができます。
リアルオプションでは将来の選択肢を増やす考え方をするため、失敗に対する対応力が上がるからです。
たとえば新規事業に一気に投資するのではなく段階投資を採用したり、新規事業の戦略を最初から固めてしまうのではなく状況に応じて方針を変えられるようにしたり、ということですね。
またリアルオプションを念頭に置けば、衰退事業への参入を防ぐことができます。
市場の動向にはプロダクトライフサイクルというものがあり、「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」の順番で移行していきます。
「導入期」と「成長期」は現時点での収益性が低くても将来性が高い状態であり、「成熟期」と「衰退期」は現時点での収益性が高くても将来性が低い状態です。
仮に現段階での収益性だけを見て新規事業を立ち上げてしまえば、「成熟期」、「衰退期」の市場に参入してしまい、事業が軌道に乗ったころには市場自体が衰退しているということもあり得ます。
一方、リアルオプションを意識すれば「導入期」、「成長期」への参入ができるため、将来的に大きな利益を生み出せる可能性が高まるのです。
もちろん「導入期」での参入は本当にその市場が成長するのか? といったリスクもありますが、だからこそ撤退という選択肢も残しておけるリアルオプションが役立つわけですね。
新規事業を立ち上げるなら、リアルオプションの考え方は持っておきたいところですね。
リアルオプションを念頭に置いた戦略の実践方法
リアルオプションを念頭に置いた戦略を実践する方法としては、以下のようなものが挙げられます。
- デシジョンツリーによる分析
- 生産拠点や設備のリース
- 多段階的な投資判断
- 事業シナリオの修正
それでは1つずつ解説していきましょう。
リアルオプションの実践方法1.
デシジョンツリーによる分析
リアルオプションではまず最初にデシジョンツリー分析を行い、事業にとって重要なポイントを抜き出す必要があります。
デシジョンツリー分析とは、樹形図の形で情報を整理し、分析する手法です。
実際に樹形図を見ていただければイメージが湧くのではないでしょうか。
※クリックで拡大します。
このように事業にとって重要なポイントを抜き出し、そこで取れる選択肢を繋げていきます。
リアルオプションでは、この重要なポイントの抜き出しや、そこから派生する選択肢が多ければ多いほど柔軟性が高いと評価することができるのです。
リアルオプションを実践するためには、事業の目的や重要な判断ポイントをしっかり把握しておく必要があります。
そのためにも、デシジョンツリーの作成が効果的なわけですね。
リアルオプションの実践方法2.
生産拠点や設備のリース
生産拠点や設備をリースにすれば、さまざまな面で柔軟性が増します。
たとえば生産拠点や設備を購入してしまえばかなりの投資となることから、簡単に撤退することができなくなってしまいます。
しかしリースであれば、撤退判断も比較的にしやすくなるはずです。
さらにリースであれば生産拠点や設備の変更、改善がやりやすいことから、商品自体の変更や改善も容易になります。
生産拠点や設備のリースは長い目で見ればコストが高くなってしまうことから、収益性という点ではやや劣るかもしれません。
しかし不確実性に対する柔軟性やリスク回避の観点から見れば、十分検討すべき戦略です。
リアルオプションの実践方法3.
多段階的な投資判断
リアルオプションでは、デシジョンツリーで事業継続における重要な要因を抜き出し、段階的な投資判断を行うことで柔軟性を確保します。
一回の判断ですべての予算をつぎ込んでしまえば、高リスクなうえに不確定要素に対する柔軟性も皆無となってしまうからです。
その点、段階的な投資を行えば、リスクや不確定要素に合わせ、予算を柔軟に振り分けることができます。
たとえばWeb広告の出稿をする場合、その広告で本当に集客ができるのかどうかという点は、事業継続をするうえで非常に重要なポイントです。
このとき、一気に予算を投下してしまうのではなく、条件を限定させてテストを行えば、Web広告から撤退し、別の集客方法に予算を使うことができます。
逆に予算を一気に使い果たしてしまえば、施策が失敗してしまったときのダメージが大きく、また別の施策を行う体力も失ってしまうわけです。
このように投資を段階的に行うことにより、軌道修正や撤退の判断が格段にやりやすくなります。
リアルオプションの実践方法4.
事業シナリオの修正
リアルオプションを念頭に置いて戦略を立てるなら、事業シナリオの修正も考えておかなければいけません。
つまり、事業シナリオを修正する余地を残しておいたり、上手くいかなかったときの代替案を考えておいたりしなければいけないということです。
そのためには、デシジョンツリーをより細かく書き込み、さまざまな事態を想定しておく必要があります。
ただし注意点として、最初の目的からズレてしまわないように注意しておいてください。
リアルオプションの活用事例
ここからはリアルオプションの活用事例を紹介していきます。
- トヨタのジャスト・イン・タイム
- ユニクロの海外進出
自社で活用するさいの参考にしてみてください。
リアルオプションの活用事例1.
トヨタのジャスト・イン・タイム
トヨタのジャスト・イン・タイムは、リアルオプション的な考え方であると言えます。
ジャスト・イン・タイムとは、「必要なモノを、必要なときに、必要な分だけ」という考え方です。
大企業にありがちな大量生産方式と違い、ジャスト・イン・タイムではムダ、ムリ、ムラを排除するため、柔軟で効率的な生産を行うことができます。
たとえば大量生産したあとに問題が発覚して多額の費用が無駄になるということも、ジャスト・イン・タイムでは起こりにくいわけですね。
さらにトヨタでは、問題の見える化を行い、常に改善を繰り返しています。
そのため常に柔軟で、より良い生産方式を採用することができるのです。
リアルオプションの活用事例2.
ユニクロの海外進出
今でこそ世界で大きな規模を持っているユニクロですが、ここまで成長してこれたのもリアルオプション的な発想を持っていたからです。
というのも実はユニクロの海外進出は、最初は失敗の連続でした。
2001年には英国ロンドンに出店するも失敗、規模を縮小しています。
2002年には中国における営業を開始しましたが、それも失敗で、撤退しました。
さらに2005年には米国のニュージャージー州で出店をしましたが、これも2006年には閉店してしまっています。
ユニクロは数々の失敗を繰り返しながら、徐々に戦略を修正し、海外進出を成功させたのです。
このように、致命傷にならない失敗を繰り返しながら戦略を修正していくのは、リアルオプション的な発想と言えます。
たとえば最初の英国ロンドンに出店したときに、もっと多額の資金を投じて大々的に行っていたら、次の一手は打てなかったかもしれません。
まずは小規模で出店してテストを行い、戦略を修正して再挑戦するという考え方が、今の成功を作り上げたと言えますね。
【まとめ】リアルオプションで事業に柔軟性を持たせることができる
今回はリアルオプションを事業経営に活用する方法について解説をしてきました。
リアルオプションとは、将来の不確実に対する柔軟性を評価する金融工学の手法です。
この評価手法を活用することで、リスクや不確実な要素に対応できる柔軟な事業戦略を立てることができます。
また柔軟な事業戦略は、リスク回避という面だけでなく、利益の最大化にも役立ちます。
とくに価格設定については、柔軟な変更ができるようにしておくと良いでしょう。
なぜなら価格を上げるということは、そのまま利益の増加に直結するからです。
技術進歩や流行の流れが早い現代において、事業の柔軟性は非常に重要な要素となっています。
とくに資源が限られた中小企業では、1度の施策が一か八かの博打になってしまわないように心がけましょう。