今回は「需要の価格弾力性」について、わかりやすく解説していきます。
需要の価格弾力性とは、価格を変動させたときにその商品の需要がどのていど影響を受けるかといったことを示す指標です。
需要の価格弾力性を理解しておけば、以下のようなことを予測することができるようになります。
- 値上げすることで売上が上がるのかどうか
- 値下げすることで売上が上がるのかどうか
つまり、どこまで利益率を上げることができるのか、セールやキャンペーンを行ったときの効果性は高いのか、といったことを判断することができるようになるわけですね。
そこで今回は価格弾力性について以下のような内容でお話をしていきます。
- 需要の価格弾力性の意味や定義
- 需要の価格弾力性の計算方法
- 需要の価格弾力性が高い商品、低い商品の例
- 需要の価格弾力性を経営に活かす方法
- 結局、商品価格はどのように決めれば良いのか?
ビジネスをするうえで商品価格は、とても重要な意味を持つものです。
ぜひ今回の記事を参考にして、正しい価格設定の方法を知ってください。
需要の価格弾力性の意味・定義・計算方法とは?
需要の価格弾力性とは、ある商品の価格が1%変動したときに需要(売上)が何%下がるかという度合いを表す数字のことです。
ちなみに「〇〇の××弾力性」という言葉には、「××が〇〇にどのていど影響を与えるのか」という意味があります。
今回の場合は「需要」の「価格」弾力性なので、「価格」が「需要」にどのていどの影響を与えるのか、ということを意味するわけですね。
需要の価格弾力性が高い商品は、価格変更に対する売上の変化量が大きくなります。
値下げをしたときに売上が伸びやすい反面、値上げをすると売上個数が大幅に減少してしまうということです。
そのため需要の価格弾力性が高い商品は値上げには向かず、値下げに向いているということが分かります。
逆に需要の価格弾力性が低い場合、価格変更に対する売上の変化量は小さいです。
つまり値下げをしても売上個数が上がりにくく、値上げをしても売上個数が下がりにくいということが言えます。
そのため需要の価格弾力性が低い場合は、値上げに向いていて値下げには向いていない、ということが分かるわけですね。
この関係性を踏まえたうえで、需要の価格弾力性の求め方についても説明していきましょう。
需要の価格弾力性は以下の公式で計算することができます。
需要の価格弾力性 = 需要の変化率(%) ÷ 価格の変化率(%)
需要の変化率 = (A2-A1) ÷ A1
価格の変化率 = (B2-B1) ÷ B1
※価格改定前の売上個数(A1)
※価格改定後の売上個数(A2)
※改定前の価格(B1)
※改定後の価格(B2)
※価格を上げると需要が下がるという関係性を前提としているため、需要の変化率は絶対値として取り扱う
上記の計算式によって求められた需要の価格弾力性が1以上なら価格弾力性が高い(弾力的である)、1未満なら価格弾力性が低い(非弾力的である)と定義します。
価格弾力性が高い場合は価格の変更が需要に与える影響が大きく、価格弾力性が低ければ価格の変更が需要に与える影響は小さいというわけですね。
ここで1つ、例題を見てみましょう。
たとえば1万円のジャケットを月に20着売り上げていた店舗が、ジャケットを2万円に値上げして、売上数が15着に下がった事例を考えてみてください。
この場合、価格弾力性の計算式は以下のとおりとなります。
需要の変化率 = (15着 – 20着) ÷ 20着 = -0.25 ⇒ 25%(絶対値)
価格の変化率 = (2万円 – 1万円) ÷ 2万円 = 0.5 ⇒ 50%
需要の価格弾力性 = 25% ÷ 50% = 0.5
値上げ前の総売上 = 1万円 × 20着 = 20万円
値上げ後の総売上 = 2万円 ×15着 = 30万円
需要の価格弾力性は0.5で1未満となるため、今回のケースの場合、需要の価格弾力性は低いということが分かりました。
月の総売上で言えば「20万円 → 30万円」と、値上げをすることで10万円増加しています。
これを仮に、ジャケット1着2万円から1万円に値下げするというケースで考えてみるとどうなるでしょうか?
そのまま反対の計算式となるので、月の総売上で言えば「30万円 → 20万円」と10万円減少してしまうことになります。
このように価格弾力性が低い商品は、値上げによって売上を上げられる反面、値下げをしても逆効果になってしまう可能性が高い、ということが言えるのです。
ちなみに今回のケースにおける需要の価格弾力性をグラフにしたのが以下の図です。
グラフ内にある斜線の角度が急であれば急であるほど弾力性が低く、緩やかであれば緩やかであるほど弾力性が高いということを表しています。
今回のグラフは斜線の角度が急になっているため、視覚的にも需要の価格弾力性が低いと判断することができますね。
では次に、「1万円から2万円への値上げ」によってジャケットの売上個数が「20着から5着」にまで落ちてしまった場合についても計算してみましょう。
需要の変化率 = (5着 – 20着) ÷ 20着 = -0.75 ⇒ 75%(絶対値)
価格の変化率 = (2万円 – 1万円) ÷ 2万円 = 0.5 ⇒ 50%
需要の価格弾力性 = 75% ÷ 50% = 1.5
値上げ前の総売上 = 1万円 × 20着 = 20万円
値上げ後の総売上 = 2万円 ×5着 = 10万円
需要の価格弾力性が1を超えているので、今回のケースだと需要の価格弾力性が高いということが分かりますね。
需要が価格変動の影響を受けやすいため、値上げをすることによって売上が10万円も下がってしまう計算です。
逆に、同じジャケットを2万円から1万円に値下げする場合には、月の売上が5着から20着と4倍になるので、その分売上も上がることになります。
つまり需要の価格弾力性が高い場合は、値上げによって売上が下がってしまう危険性がある反面、値下げをすることで売上を大きく伸ばすことができる、ということが分かるのです。
こちらのケースをグラフにすると、以下の図のようになります。
弾力性が低いケースのグラフに比べて、斜線の角度は緩やかになっているのが分かります。
この斜線の角度が緩やかになればなるほど、需要の価格弾力性が高いということを表すわけですね
このようにある商品のある価格帯において、価格の変動が需要量にどのていど影響を与えるかということを表した数値が「需要の価格弾力性」なのです。
需要の価格弾力性が高い商品の例
需要の価格弾力性が高い商品の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 嗜好品
- 独自性のない商品
嗜好品は必ずしも必要なものではないため、全体的に価格変動の影響を受けやすいと言われています。
たとえば宝飾品などのぜいたく品ですね。
こういったものは価格が上がることで購入を断念する人が一気に増えるので、売上数の変動も大きくなってしまいます。
あとは独自性のない商品についても、需要の価格弾力性は高くなりやすいです。
競合が多いということはそれだけ代わりとなる商品も多いということなので、値上げをしてしまうと一気に客離れを起こしてしまう可能性があります。
しかし逆に値下げによって競合より安く商品を提供できるようになれば、競合からお客さんが流れてくることになるため、一気に売上が上がる可能性もあるのです。
需要の価格弾力性が低い商品の例
需要の価格弾力性が高い商品の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 必需品
- 独自性の高い商品
必需品は需要の価格弾力性が全体的に低いと言われています。
たとえば食料品や日用品、医療品などですね。
こういったものは価格がどうあれ必要な量は変わらないので、販売数が大きく変動することはありません。
ただし、これは市場全体で見たときの話です。
競合が多いとお客さんが安い方に流れてしまうため、1社単位(1商品単位)で見た場合、価格弾力性が高くなるということもあるので注意してください。
そして次に挙げられるのが、独自性の高い商品です。
競合がいない商品の場合、値上げをしても代わりの商品が存在しないため、需要に与える影響は小さくなります。
そもそも競合がいなければ価格競争をする必要もないので、値上げがしやすく、その分売上や利益を伸ばしやすいということが言えるのです。
ただし、逆に値下げをしても競合から流れてくるお客さんがいない状態(需要の大部分をすでに取り切っている状態)なので、売上が大きく向上する可能性は低いです。
需要の価格弾力性を経営に活かす方法
需要の価格弾力性は、以下のような場面で経営に活かすことができます。
- 価格設定の参考にする
- セール、キャンペーンの参考にする
- 商品分析を行うことができる
それでは1つずつ、詳細を説明していきましょう。
需要の価格弾力性を経営に活かす方法1.
価格設定の参考にする
需要の価格弾力性は、価格設定を行うときの参考にすることができます。
たとえば需要の価格弾力性が高い商品の場合、できるだけ安い価格設定をしなければいけません。
少し利益を上乗せするだけでも販売数、売上が大きく減少してしまうかもしれないので、非常に繊細な価格設定をする必要があるのです。
逆に需要の価格弾力性が低い商品の場合は、強気の価格設定を行うべきだと言えます。
多少高くても販売数があまり下がらないので、価格を上げた方が売上増、利益増につながるからです。
もちろん限度はありますが、競合となる商品が存在していない場合は、思い切った値付けをしてみましょう。
このように需要の価格弾力性を把握しておけば、価格設定をするときのおおよその方針を立てることができます。
価格弾力性が高い商品の価格を上げすぎたり、価格弾力性が低い商品の価格を下げすぎたりすることを防げるということですね。
需要の価格弾力性を経営に活かす方法2.
セール、キャンペーンの参考にする
需要の価格弾力性が高ければ高いほど、セールやキャンペーンを実施したときの効果が出やすくなります。
ここまでで説明してきたとおり、価格弾力性が高ければ高いほど、価格を安くしたときの販売数の伸びが大きいと予測することができるからです。
逆に需要の価格弾力性が低い商品は安易に値下げしてはいけません。
予想に反して売上数が伸びず、値下げをした分だけ売上、利益が減少してしまうこともあるので注意しましょう。
需要の価格弾力性を経営に活かす方法3.
商品分析を行うことができる
需要の価格弾力性を用いれば、商品分析を行うこともできます。
たとえば需要の価格弾力性が高い場合、お客さんが価格に注目しているということがわかります。
競合に近い価格設定の商品があって比較されていたり、もしくは価格設定が高すぎて欲しくても買えない人が多かったりと、その理由はさまざまです。
ただこの場合、価格設定を改善すれば売上が上がる可能性が高いと判断することができます。
一方、需要の価格弾力性が低い場合は、お客さんが価格よりも商品の質に注目しているということがわかります。
つまり値下げを行っても効果性が低い商品であるということです。
そのため需要の価格弾力性が低く、さらに売上が伸び悩んでいるという状況なら、商品の質やコンセプトから見直さなければいけません。
逆に需要の価格弾力性が低い商品が好調な売上を記録しているなら、価格にかかわらず買ってくれるファンが多いということなので、会社にとって良い商品(伸ばすべき商品)であると判断することができます。
結局のところ商品価格はどのように設定すれば良いのか?
中小企業の場合、需要の価格弾力性が低い商品を、できるだけ利益が取れる価格で売るべきです。
なぜなら資金や労力が限られている中小企業では、「利益率を落としてでも価格を下げて多くの商品を売り上げる」ということができないからです。
要は、需要の価格弾力性が高い商品を取り扱うことに向いていないということですね。
それこそ価格弾力性が高い商品で無理に価格競争を行えば、たちまち大手企業の餌食になってしまいます。
だからこそ中小企業は、価格競争になりにくく、利益率も確保しやすい価格弾力性の低い商品を売るべきです。
需要の価格弾力性が1を超えない限り、計算上は値上げをすることで同時に売上を上げることができます。
さらに利益で言えば、たとえ売上が下がっていても、その分利益率を向上させることで伸ばしていくことが可能です。
つまり需要の価格弾力性が低い商品ならば、少ない資金と労力で多くの利益をあげることができるということですね。
ただし、ここで注意すべきなのが、しっかりと強気の価格設定を行わなければいけないということです。
実は日本の中小企業には、安すぎる価格設定で自社の商品を売っているところが数多くあります。
結果、十分な利益が出せず、さらに深刻な資金不足、労力不足に陥って、そのまま倒産してしまうのです。
【まとめ】需要の価格弾力性を参考にして利潤最大化を図る
今回は価格が1%変動したときに需要が何%変動するかを表す数字、「需要の価格弾力性」について解説をしてきました。
需要の価格弾力性が1以上のときは価格変動が需要に与える影響が大きく、1未満のときは需要に与える影響が小さいということを意味します。
需要の価格弾力性が高い場合は、値下げをすることで売上個数が大きく伸びることになるので、セールやキャンペーンによる効果性が大きいです。
逆に需要の価格弾力性が低ければ、価格を上げても売上個数が大きく下がることがないため、強気の価格設定をすることができます。
ただし、労力や資金力が限られている私たち中小企業の立場でいえば、値下げによる薄利多売は向いていません。
中小企業向けの戦略として考えるなら、需要の価格弾力性が低い商品を開発し、もっとも利益が出る価格設定で商品を売るべきなのです。
ただ現状、日本の中小企業の中には価格設定が上手くいかず、安すぎる価格で自社の商品を売っている会社が数多く存在しています。
需要の価格弾力性を確認すれば、利潤の最大化を図ることができるようになります。
商品が持つポテンシャルを把握することもできますので、ぜひ1度確認してみてください。