今回はビジネスで有効活用することができる「ピークエンドの法則」について解説をしていきます。
ピークエンドの法則は人間心理を利用した法則で、人が感じる価値観をコントロールできる手法です。
主に恋愛テクニックとして使われることが多いのですが、実はビジネスでも多くのメリットを得ることができます。
- お客さんにより商品やサービスの価値を感じてもらうことができる
- リピート客が増える
- 商品やサービスの価格を上げることもできる
ビジネスはお客さんが感じた価値の対価としてお金をもらうものなので、その価値の感じ方をコントロールできればかなり有利にビジネスを進めていくことができるわけですね。
そのためピークエンドの法則は、ビジネスをするうえではぜひとも取り入れたい法則だと言えるのです。
そこで今回は、ピークエンドの法則について以下のような内容を説明していきます。
- ピークエンドの法則の意味
- ピークエンドの法則を使った事例
- ピークエンドの法則がビジネスで役立つ理由
- ピークエンドの法則を使えるビジネスシーン
ぜひ今回の記事を参考にして、あなたのビジネスにもピークエンドの法則を取り入れてください。
ピークエンドの法則の意味
ピークエンドの法則は、「人は自身の経験をもっとも感情が昂ったときの印象(ピーク)と最後の印象(エンド)で判断する」という意味を持った法則です。
提唱したのは行動経済学者のダニエル・カーネマン氏で、1999年に発表した論文の中で初めてその言葉が登場しました。
ピークエンドの法則は、以下のように実験でも実証されている確かな人間心理です。
ある実験では、あるグループの人が大音量の不快な騒音にさらされた。2番目のグループは、1番目の人々と同じ大音量の不快な騒音にさらされたが、その最後に幾分ましな騒音が追加されていた。この2番目のグループのこの騒音聴取の体験の不快さの評価は、1番目のグループの人たちよりも低かった。最初の同一の騒音区間に加え、不快さを抑えた引き延ばされた区間があり、1番目のグループよりさらに不快であったはずであるにも関わらずである。
(引用:Wikipedia)
この実験では「最初から終わりまで同じ苦痛を感じ続けた場合より、同じ苦痛を同じ時間だけ与えたあとに幾分マシな苦痛を与えて最後に感じる印象をやわらげた方が全体の印象が良くなる」ということを表しています。
実際は後者の方がゆるめの苦痛を多く受けているだけなのに、印象としてはそちらの方が良くなるのです。
日常的な例で言えば、たとえばあなたは映画を観たときにその映画のおもしろさをクライマックスとエンディングだけを重要視して判断していませんか?
ほかのシーンが単調であまりおもしろくなかったとしても、クライマックスとエンディングがおもしろければ「良い映画だった」と判断する人が、実はかなり多いのです。
そしてこれは映画に限ったことではありません。
人はすべての経験において、クライマックスとエンディングで経験の良し悪しを判断するという傾向を持っています。
それこそが、ダニエル・カーネマン氏が提唱したピークエンドの法則なのです。
ピークエンドの法則の事例
ピークエンドの法則をより理解していただくために、いくつかの事例を紹介していきます。
- 大手テーマパークの待ち時間
- 恋愛におけるデートのテクニック
- 花火大会における花火の打ち上げ方
この事例を読んでいただければ、世間では意外と多くピークエンドの法則が利用されているという事実に気づくはずです。
事例1.大手テーマパークの待ち時間
大手テーマパークは、実はピークエンドの法則をがっつり利用しています。
どこに使っているのかというと「乗り物の待ち時間」です。
ディズニーやUSJに行って人気のアトラクションに乗ろうとすると、2時間、3時間の待ち時間は当たり前に発生しますよね?
そしてずっと長い列に並んでやっと順番が回ってきても、ほんの5分ていどで楽しい時間を終わってしまいます。
普通に考えれば、それはかなり理不尽な時間配分です。
しかし、多くの人がそのアトラクションに満足し、もう1度並んででももう1回乗りたいと口にします。
それがなぜなのかというと、結局人はピークとエンドの瞬間しか印象に残っていないからです。
アトラクションの場合、まさに最後の5分がピークであり、エンドとなります。
つまりアトラクションに乗り終えたお客さんは、3時間の待ち時間の印象を忘れ、5分間の楽しかった体験のみを思い出し、語り合うのです。
大手テーマパークのアトラクションはかなり派手で、乗り終えたあとの爽快感も演出してくれます。
さらに3時間という待ち時間が期待感を膨らませるスパイスとなり、結果、最後のアトラクション乗車の体験が最高のピークになるわけですね。
よく「何時間も並んで5分間の乗り物に乗る意味がわからない」と言う人がいますが、その理由はまさに「ピークエンドの法則」にあります。
だからこそ大手テーマパークは、待ち時間の改善よりもアトラクションの質にこだわるのです。
事例2.恋愛におけるデートのテクニック
ピークエンドの法則は、恋愛でもよく利用されます。
その中でも有名なのがデートで使う別れ際のテクニックです。
恋愛では、「デートはできるだけ別れ際を大事にするべき」という有名な格言があります。
つまりピークエンドで言うところのエンドを印象深いものにしましょう、ということです。
欲を言えば素晴らしいディナーを用意するなどピークにもこだわりたいところですが、別れ際を演出するだけでもデートの印象はかなり変わってきます。
たとえデートの最初に遅刻してケンカをしてしまったとしても、最後の瞬間を素晴らしいものにできればその悪い印象はほとんど消え去ってしまうのです。
またこのテクニックは、別れ話をされた場合にも適用できます。
別れ話をされたときに相手の印象を悪くするような返しをしてしまうと、そのあと復縁できる可能性が著しく下がってしまうのです。
しかし逆に別れ際の対応が魅力的なら、それだけ相手の印象は良くなり、向こうから復縁を望む連絡が来る可能性も上がります。
このように最後の瞬間を魅力的に演出することができれば、相手の印象はかなり良くなります。
そしてこのテクニックは、ビジネスでも大いに転用することができるのです。
最初はお客さんの期待に応えることができなくても、最後の最後にお客さんの期待を大幅に上回れば、そのお客さんはとても大きな価値を感じてリピーターになってくれます。
「終わりよければすべて良し」という考え方は、実はピークエンドの法則に基づいているわけですね。
事例3.花火大会における花火の打ち上げ方
ピークエンドの法則のわかりやすい事例として、花火大会における花火の打ち上げ方を挙げることができます。
花火大会では、花火を単調に同じ分量ずつ打ち上げるということはしませんよね?
盛り上げるところと単調な部分を明確に分けているはずです。
そして、花火大会の最後にはクライマックスとしてかなり多くの花火を打ち上げます。
そうすることで多くの花火が打ち上がったクライマックスの瞬間が深く印象付けられ、花火大会の評価が良くなるからです。
あなたも花火大会の評価をするとき、単調な部分を評価対象にはしていないと思います。
結局、多くの花火が一度に打ち上がるピークとエンドの印象だけで評価を決めているはずです。
このようにピークエンドの法則は、花火大会における花火の打ち上げ方にも活用されています。
花火大会はピークエンドの法則に基づいた演出をすることで、来年のリピート客を増やしているわけですね。
ピークエンドの法則がなぜビジネスに役立つのか
ここまででピークエンドの法則の概要を説明してきましたが、ではなぜこのピークエンドの法則がビジネスに役立つのかというと、「ビジネスはお客さんが感じた価値に対して対価をもらうものだから」です。
言い換えれば、お客さんが感じた価値こそがそのビジネスの持つ価値であるとも言えます。
たとえば、同じ最高級の牛肉を使ったレストランが2店あったとします。
1店は最高級の牛肉を使っているということを一切お客さんに知らせずに営業をしており、もう1店はしっかりと最高級の牛肉について説明をしていました。
この場合、お客さんがより価値を感じるのは後者のお店です。
同じ牛肉を使ったメニューでも、前者が1000円しか取れないのに対し、後者なら倍の2000円取ることができるということも簡単に起こり得ます。
同じ牛肉を使った同じメニューであるにも関わらずです。
このようにビジネスの価値は、必ずしも商品やサービスの持つ価値で決まるわけではありません。
ビジネスの価値は、お客さんが感じた価値によって決まるのです。
そして、そのお客さんが感じる価値をコントロールできる手法こそが、今回のテーマである「ピークエンドの法則」であるというわけですね。
だからこそピークエンドの法則はビジネスで活かすことができる法則であると言えます。
クライマックスと最後の瞬間に力を注ぐことであなたのビジネスはその価値を増し、リピーターの拡大や売上の向上を狙うことができるのです。
【シーン別】ピークエンドの法則をビジネスで活用する方法
ここからはピークエンドの法則を活用できるビジネスシーンを解説します。
- 顧客満足度を上げてリピート客を増やす
- 営業、プレゼンの組み立てに活用する
- 情報発信のストーリーに取り入れる
ピークエンドの法則をビジネスに取り入れ、あなたのビジネスが持つ価値を上げていきましょう。
ピークエンドの法則を活かせるビジネスシーン1.
顧客満足度を上げてリピート客を増やす
ピークエンドの法則がもっとも力を発揮するのは、顧客満足度を上げたいときです。
事例で説明した「大手テーマパーク」や「花火大会」などは、まさにお客さんの満足を上げることに成功した例であると言えます。
では、ビジネスにおいてどのようにピークエンドの法則を活用すれば顧客満足度を上げてリピート客になってもらえるのかというと、力の入れどころを考えるということが挙げられます。
たとえば接客業の場合、お客さんの去り際に力を入れてみてください。
仮にオーダーミスなどがあった場合、その場での謝罪は当然あったとしても、そのあとさらに帰り際でフォローが入るか入らないかでお客さんの印象は大きく変わります。
帰り際にきちんとフォローを入れることができれば、お客さんには「ミスはあったもののすごく丁寧な仕事をしてくれた」という印象が非常に強く残るはずです。
もしくはイベントを開催するさいは、1番盛り上がるクライマックス部分に予算を割くことでイベントの評価を上げることができます。
「花火大会」の事例と同じで、均等に力を入れるより、ここぞというピークと最後のエンディングにこそ力を入れるべきなのです。
そうなればお客さんは大きな価値を感じて、「また来たい」と思ってくれます。
つまり、リピート客が増えるというわけですね。
このようにお客さんがもっとも価値を感じる瞬間と最後の瞬間を特定してそこに力を入れることができれば、ビジネスの価値は大きく跳ね上がり、顧客満足度を上げることができます。
たとえ同じ予算と労力を使っていたとしても、単調にサービスを提供している場合とは雲泥の差が生まれるのです。
そしてさらに、顧客満足度を上げることができれば、そのビジネスの利益率を大幅に上げることもできます。
なぜなら「お客さんが感じる価値=商品やサービスの価値」が上がることで販売価格を上げることができるからです。
前述したとおり、商品やサービスの価値はお客さんの感じた価値で決まります。
そのため、同じ商品を取り扱っていてもお客さんの満足度を上げることができれば、その分価格を上げることもできるのです。
実際に弊社のクライアントの中には、自分が持つサービスの価値をお客さんにしっかり説明することで販売価格を20倍にまで上げた事例が存在しています。
ぜひ1度、自分のビジネスの力の入れどころがどこなのかを考えみてください。
そうすればリピート客が増えるだけでなく、利益率まで上げることができます。
ピークエンドの法則を活かせるビジネスシーン2.
営業、プレゼンの組み立てに活用する
ピークエンドの法則は、営業やプレゼンの組み立てにも力を発揮します。
営業やプレゼンで1番魅力が伝えられる部分をもっとも熱意的に説明し、そして最後にはポジティブな情報で締めくくるという方法です。
そうすれば受け取り側の印象を上げることができます。
たとえばこれは、営業におけるデメリットの説明にも当てはまります。
もしあなたが商品やサービスのデメリットの説明をいつも最後に回しているのなら、今すぐにでも改善してください。
ピークエンドの法則が働いてデメリットの話が相手の頭に強く残ってしまいます。
そうなれば当然、商談失敗の大きな原因となってしまうわけです。
それよりは、まず最初にデメリットを説明して、そこからメリットの説明をすることで話を盛り上げていく方が成果は上がります。
このようにピークエンドの法則は、営業相手やプレゼンを聞いている人の心にも強く作用するものです。
営業やプレゼンの組み立てをするさいは、ぜひピークエンドの法則を意識してみてください。
ピークエンドの法則を活かせるビジネスシーン3.
情報発信のストーリーに取り入れる
ピークエンドの法則は、情報発信のストーリーに取り入れることでも効果を発揮します。
情報発信を行うさいは、もっとも伝えたいことをピークとエンドに置くと効果的なのです。
そうすることでこちらが1番伝えたいことを深く印象付けることができます。
伝えたいところがきちんと伝われば、そのユーザーがあなたのファンになってくれたり、最終的に購買に至ってくれたりする可能性は大きく上がるはずです。
ちなみにこの手法は、本や論文を執筆するさいにもよく使われます。
尻すぼみなストーリーは、それまでがどれだけおもしろくても評価されないものだからです。
このように情報発信を行うさいは、1番伝えたいことをどのタイミングで伝えるかということが重要になります。
そしてそのタイミングを考えるさいに参考にしたいのが、まさにピークエンドの法則なのです。
【まとめ】ビジネスで重要なのはお客さんに価値を感じさせること
今回はお客さんの価値の感じ方をコントロールする手法である「ピークエンドの法則」について解説をしてきました。
この記事内でも何度か言っていますが、ビジネスで重要なのはお客さんにいかに価値を感じてもらうかというところです。
そのため、お客さんにより価値を感じさせることができるピークエンドの法則は、ビジネスをするうえで必ず押さえておきたい手法であると言えます。
今回の記事を参考にして、あなたのビジネスでもぜひ活かしてみてください。
また、お客さんが感じる価値が上がるということは、その分商品やサービスの価格を上げることもできるということです。
お客さんは自身が感じた価値にお金を支払っているわけなので、買い叩こうとしない良いお客さんの場合は、価値を感じれば感じただけお金を出してくれるのです。
だからこそピークエンドの法則でお客さんが感じる価値の向上に成功したのなら、価格の見直しも同時に行っておくことを強くおすすめします。
実際に弊社のクライアントの中には、お客さんが感じる価値を向上させたことで同じサービスの販売価格を20倍にまで上げた事例が存在しています。
ピークエンドの法則は、ビジネスをするうえで重要な「お客さんが感じる価値」を上げることができる手法です。
あなたも経営やビジネスをしているのなら、ぜひ知っておいてください。