今回は小売業を経営しているなら絶対に知っておくべき「オムニチャネル戦略」についてお話をしていきます。
オムチャネルとは、2011年頃からアメリカで注目され、世界中で使われるようになった販売戦略のことです。
この記事を執筆している2020年時点でも、オムニチャネル戦略は小売業を中心に注目を集めています。
そのため、オムニチャネル・リテイリングとも呼ばれていますね。
※リテイリング = 小売、小売業
なぜ小売業から注目されているのかというと、オムニチャネル戦略を導入すれば機会損失を大幅に減らすことができるからです。
とくに昨今、小売業界では店舗のショールーム化が問題となっています。
店舗のショールーム化とは、お客さんが店舗で実際の商品を見たり説明を聞いたりしたあとで自宅に帰り、購入はAmazonなどを代表とするECサイトで行ってしまうという現象のことです。
この現象によって店舗型の小売業は売上があがらなくなってしまい、大きな打撃を受けています。
そこで必要となってくるのが、オムニチャネル戦略という販売戦略です。
今回はこのオムニチャネルについて、以下のような内容でお話をしていきます。
- オムニチャネル戦略の意味
- オムニチャネル戦略のメリット
- オムニチャネル化の進め方
- オムニチャネル戦略の成功事例
- オムニチャネル戦略が失敗してしまう要因(課題)
とくに小売業を経営していたり店舗を構えていたりする場合は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
オムニチャネル戦略の意味とは?
オムニチャネル戦略とは、店舗やホームページだけに限らず、あらゆる場所でお客さんとの接点を作る販売戦略のことです。
たとえば、以下のようなチャネル(販売経路)が挙げられます。
- 店舗
- ネット(ECサイト、ファンサイトなど)
- SNS(Twitter、YouTubeなど)
- カタログ
- スマホアプリ
- イベント
- コールセンター
オムニチャネル戦略では、これらの経路を別々に管理するのではなく、すべて統合して一括管理することが重要です。
たとえば店舗部門とECサイト部門が別々に独立しているのでなく、1つの部門で店舗とECショップという流通経路を活用している、というようなイメージですね。(あくまでもイメージで、実際は別の部門になっていることも多いです)
ちなみにオムニチャネルは、「オムニ = すべて」、「チャネル = 販路」というのが語源で、その名のとおり自社のすべてのチャネルを対象とすることが一般的です。
小売業でオムニチャネル戦略を導入すれば、以下のようなサービスを提供することができるようになります。
- ネットで買った商品を店舗で受け取ることができる
- 店舗で在庫がないときにQRコードからECサイトにアクセスして購入することができる
- SNS経由で購入した商品を店舗で受け取れる
- ネットショップで貯めたポイントが店舗でも使える
- 店舗での買い物実績がネットショップのおすすめ商品の表示に反映される
このようにさまざまな販売経路を一括管理することで、お客さんにとっての利便性が大きく増し、機会損失を防ぐことができるのです。
オムニチャネルと似た言葉との違い
オムニチャネルにはいくつか似た言葉があり、しばしば混同されてしまいます。
そこでここからは、オムニチャネルと似た言葉の意味を比較できるように表で説明していきましょう。
オムニチャネル | さまざまなチャネルを一括管理し、あらゆる販売経路で一貫したサービスを提供する販売戦略 |
マルチチャネル | さまざまなチャネルを増やし、それぞれを独立管理していく販売戦略 |
クロスチャネル | 複数のチャネルで在庫管理、顧客管理を連携させる販売戦略 |
O2Oマーケティング | オンライン(ネット)でお店の存在を知ってもらい、実店舗を利用してもらうマーケティング戦略 |
このように比較していただければわかるとおり、オムニチャネルの最大の特徴はさまざまなチャネルで一貫している販売戦略というところです。
オムニチャネルでは、マルチチャネルのように販売経路を増やしていきつつ、クロスチャネルのように連携を取ります。
そのため、マルチチャネルとクロスチャネルを組み合わせてさらに進化させたものがオムニチャネルである、と覚えておくとわかりやすいですね。
オムニチャネル戦略のメリット
オムニチャネル戦略を実践すれば、以下のような5つのメリットを得ることができます。
- 機会損失を減らすことができる
- 顧客満足度が上がる
- より正確なマーケティング分析ができるようになる
- コスト削減ができる
- 業務効率が上がる
それでは、それぞれ詳しく解説していきましょう。
オムニチャネル戦略のメリット1.
機会損失を減らすことができる
冒頭でもお話ししたとおり、オムニチャネル戦略を実践すれば機会損失を減らすことができます。
なぜなら多種多様なニーズに応えられる体制を作っておくことによって、お客さんが別のショップで買い物をすることを防ぐことができるからです。
たとえばSNSを確認していて広告が目に留まり、この商品が欲しいと思ったお客さんがいたとします。
ここでリンクを開いてもらい、ネットショップの販売ページに誘導するのがポピュラーなやり方ですね。
しかしそのお客さんは商品を今すぐほしいため、通販で商品が届くのを待っていられない状態だったと考えてみてください。
このとき、ネットからお客さんの近所の店舗と在庫の有無を同時に表示してあげれば、お客さんは「直接買いに行こう」とその店舗を訪れてくれるはずです。
このように多種多様なニーズに対応できるようにチャネルを統合しておけば、お客さんの囲い込みができるため、機会損失を防ぐことができるというわけですね。
オムニチャネル戦略のメリット2.
顧客満足度が上がる
オムニチャネルを導入すれば、顧客満足度を上げることもできます。
なぜなら幅広い流通経路を一貫して運用することで、お客さんの細かいニーズにも応えることができるようになるからです。
たとえばSNSから簡単に商品の取り置きができたり、ネットショップでの閲覧履歴を参考にして店舗でもおすすめ商品を紹介できたり、買い物によるポイントを持ち越しできたりと、色々なことができるようになります。
ほかにも、各チャネルを組み合わせて生み出せるサービスはアイディアの分だけ無限大にあると言っても過言ではありません。
このようにオムニチャネルは、サービスの質を高めて顧客満足度を上げるためにも役に立つのです。
ちなみにオムニチャネルの導入によって顧客の満足度が上がったと感じたなら、その分、商品の値上げについても検討するようにしてください。
基本的に商品の価格はお客さんが感じた価値によって決定されるものなので、本当に顧客満足度が上がっているなら、価格アップについても容易にできるはずです。
価格を上げることができれば直接利益が上乗せされることになるため、企業側としては非常に大きなメリットがあります。
オムニチャネル戦略のメリット3.
より正確なマーケティング分析ができるようになる
オムニチャネルによって販売経路を一貫管理すれば、より正確なマーケティング分析を行うことができます。
異なるチャネルでの顧客データを別々に分析するのではなく、すべてを一括で管理すれば、より大きな視点でお客さんの動きを分析することができるようになるからです。
たとえばオムニチャネルによる一括管理によって、ECサイトに訪れるお客さんが断トツで多いのに対し、実際の売上では店舗の方が大きく勝っているということが分かったとします。
この場合には、「ECサイトでは商品の情報を十分に得られない状態になっているのではないか?」といった仮説を立てることもできるわけです。
このように販売経路を一括で管理し、得られる顧客データを統合して分析することができれば、より正確なマーケティング分析ができるようになります。
オムニチャネル戦略のメリット4.
コスト削減ができる
オムニチャネルには、コスト削減の効果を期待することもできます。
オムニチャネルでは在庫を一括管理することから、在庫管理システムの統一や在庫の適正化を図ることができるからです。
そのため、店舗とECサイトでシステム構築や保守に別途経費がかかったり、ECサイトでは在庫がないのに店舗の倉庫には何年も前の在庫がずっと残っていたり、という状況を回避することができます。
つまり、無駄なコストを色々と削減することができるというわけですね。
オムニチャネル戦略のメリット5.
業務効率が上がる
オムニチャネルを導入すれば業務効率を改善することもできます。
なぜならオムニチャネルでは一括して情報を共有しているため、各チャネル間での連携が取りやすくなるからです。
たとえば在庫データが共有されていれば、「〇〇の在庫についてはECサイト部門の〇〇さんに聞かなければわからない」といったことがなくなります。
これだけのことでも、数が積み重なればかなりの無駄な工数を省くことができますよね?
このようにオムニチャネルには、社内の連携を強め、業務効率を改善する効果も期待できるのです。
オムニチャネル化の進め方
ここからは、オムニチャネル戦略を実際に導入する方法について解説していきます。
オムニチャネル化をするためには、以下の順番で進めると良いです。
- 市場調査、自社分析を行う
- オムニチャネル化の計画を立てる
- 社内の体制を整える
- オムニチャネル化のための環境を整える
- 実際に運用しながら改善していく
それでは順番に解説していきましょう。
オムニチャネル化の進め方1.
市場調査、自社分析を行う
オムニチャネル化を進めるためには、まず市場調査と自社分析を行う必要があります。
たとえば以下のようなことを明確にしておいてください。
- 顧客のニーズ
- 顧客の購買行動の傾向
- 競合の動向
- 自社の強みや弱み
ここで調査、分析した内容をもとに、オムニチャネル化を進めていくことになります。
オムニチャネル化の進め方2.
オムニチャネル化の計画を立てる
市場調査、自社分析の結果をもとに、オムニチャネル化の計画を立てていきます。
- どのようなチャネルをオムニチャネル化するのか
- どういったスケジュールで進めていくのか
少なくともこの2点については、きっちりと決めておきましょう。
オムニチャネル化の進め方3.
社内の体制を整える
調査と計画が終わったら最初の作業として、社内の体制を整えます。
オムニチャネル化されていない場合、それぞれのチャネルで部門が分かれていることが多いです。
そのためチャネルの一括管理をするためには、それぞれの部門がより連携を取れるように横のつながりを作っていかなければいけません。
とくに問題として起こりやすいのが、成果の取り合いや責任の所在に関するトラブルです。
このような問題が起こらないように社員の意識改革を行い、社内体制を整える必要があるということですね。
オムニチャネル化の進め方4.
オムニチャネル化のための環境を整える
社内の体制が整ったら、次にオムニチャネル化をするための環境を整えていきます。
主に以下のようなことを行ってください。
- システムの統合
- データの連携
- 必要なハードウェアの導入
ちなみに小規模であれば、タブレットを導入し、クラウドでデータの連携を行うことで大きなコストをかけずに環境を整えるということもできます。
自社のビジネスには何が必要なのか、どれくらいの予算をかけられるのか、を考えてみましょう。
オムニチャネル化の進め方5.
実際に運用しながら改善していく
あとは実際にオムニチャネルを運用しながら、少しずつ改善を行っていきましょう。
「メリット」としても説明しましたが、オムニチャネルを行えばより正確なマーケティング分析を行うことができるようになります。
その結果を参考にして、よりお客さんのニーズに応えられるオムニチャネル戦略を展開していってください。
オムニチャネル戦略の成功事例
ここからはオムニチャネル戦略の成功事例を2件紹介していきます。
- セブン&アイホールディングス
- ユニクロ
1つずつ詳細を説明していきますので、参考にしてみてください。
オムニチャネル戦略の成功事例1.
セブン&アイホールディングス
オムニチャネル戦略を進めている企業といえば、大手コンビニチェーンのセブンイレブンを運営するセブン&アイホールディングスが有名です。
セブン&アイホールディングスはもともと、ネット通販とリアル店舗を分けて考えていました。
ネット通販を始めてしまうと、コンビニに来るお客さんをネット通販に取られてしまうと考えていたのです。
しかし、元会長兼CEOであった鈴木 敏文氏がお客さんはネットとリアルを上手に使い分けているのだということに気づき、オムニチャネル化を進めるに至りました。
(画像引用:セブンマイルプログラム公式サイト)
セブン&アイホールディングスはオムニ7の失敗など試行錯誤しながらオムニチャネル化を実践し、現在ではスマホアプリを起点にしたCRM戦略(顧客関係管理)を軸にオムニチャネル戦略を進めています。
これは無理にグループ各社を統合するのではなく、お客さんに同じアプリを使ってもらうことで顧客管理を一貫して行うという狙いです。
そのためにセブン&アイホールディングスは、「セブンマイルプログラム」というセブンイレブンやイトーヨーカドーを始めとしたグループ共通で使えるポイント制度を導入しています。
スマホアプリやポイント制度を利用したことにより、セブン&アイホールディングスはお客さんにとってもわかりやすい方法で顧客データを連携させているわけですね。
このように、どのような範囲まで統合をするのか、どのような手段でデータの連携を行うのか、というところも、オムニチャネル戦略では非常に重要な部分となります。
オムニチャネル戦略の成功事例2.
ユニクロ
大手アパレル企業であるユニクロも、オムニチャネル戦略を実践しています。
もともとアパレル業界はオムニチャネル戦略と相性が良いと言われているため、業界的にも成功事例は多いですね。
(画像引用:UNIQLOアプリ公式サイト)
その中でもユニクロの場合は、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取ることができます。
ユニクロが公式アプリの利用者についてデータ解析をしたところ、なんとECサイトの利用件数に対して1/3が店舗受取を利用しているとのことでした。
つまり、ECサイトとリアル店舗の融合が非常に上手くいっているということですね。
ユニクロではECサイトに専用の商品を用意し、それを店舗に受け取りに来てもらって、店舗でまた買い物をしてもらうというクロスセルに繋げています。
そうすることでユニクロは、相乗的に売上をあげることに成功しているのです。
またユニクロでは、ポイントやセールを利用してスマホアプリへの登録を促し、そこで顧客データを一括管理しています。
その顧客データは、マーケティング分析を行うさいにも使えるはずです。
このように見ていくと、ユニクロはオムニチャネルを戦略を非常に上手く運用し、売上アップやマーケティング分析に役立てているということがわかりますね。
オムニチャネル戦略が失敗してしまう要因(課題)
ここまでオムニチャネル戦略のメリットや成功事例について説明をしてきましたが、当然、失敗してしまう事例もあります。
なぜオムニチャネル戦略が失敗してしまうのかというと、「顧客理解」ができていないからです。
オムニチャネルはここまで説明したとおり、単なる販路拡大ではありません。
それぞれのチャネルを一括管理し、より顧客満足につなげる戦略です。
しかし実際はこの顧客理解ができておらず、ただECサイトを作っただけであったり、ただ在庫を一括管理しているだけであったりという事例も少なくありません。
要は、オムニチャネル戦略の目的や各チャネルの効果性が明確になっていないわけですね。
これではいくらオムニチャネル戦略を進めてもお客さんが便利さを感じてくれず、失敗に終わってしまいます。
オムニチャネル戦略では、いかにお客さんのニーズをくみ取ることができるかが1つの課題となっているのです。
【まとめ】オムニチャネル戦略は今後さらに必要性を増していく
今回はオムニチャネル戦略についてお話をしてきました。
オムニチャネル戦略とは、さまざまなチャネルを一貫して管理、運用する戦略のことでしたね。
単なる販路拡大とは違いオムニチャネル戦略には、機会損失を減らせたり、顧客満足度が上がったり、マーケティング分析の質が上がったり、といったメリットがあります。
さらにオムニチャネル化をすることによって、顧客満足度を上げられたり、マーケティング分析ができたりすれば、副次的なメリットとして商品の販売価格を上げることもできるようになります。
より自社の商品に価値を感じてくれるターゲットにリーチし、さらに顧客満足度を上げられるわけですから、当然と言えば当然ですね。
これからの時代、企業はより顧客を理解することが必要となります。
だからこそオムニチャネル戦略を実践し、一貫した顧客管理を行っていきましょう。