今回は全国の中小企業が頭を抱えている「人手不足」について解説します。
昨今の日本企業が中小企業を中心に人手不足に悩まされていることは、皆様もご存知でしょう。
帝国データバンクの調査によると、2018年度に人手不足が原因で倒産した企業は全国で169社と報告されています。(2019年帝国データバンク)
前年の2017年度に人手不足が原因で倒産した企業は114社で、前年度比が48.2%増加しました。
このデータからもわかるように、日本の人手不足はどんどん深刻化しているのです。
実際にこの記事を読んでいる方の中にも、自身が経営する企業が人手不足で頭を抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、以下の3つの内容を中心に人手不足について解説していきます。
この記事を読むことで、人手不足の実情や人手不足を解決する具体的な方法・事例を知り、自社の人手不足の解決の糸口を掴むことができます。
人手不足を解決し、さらなる業績アップや業績改善を図りたい方は、ぜひご一読ください。
企業が人手不足である5つの原因
まずはじめに、企業が人手不足である原因をひもといていきましょう。
人手不足の原因を理解しておかなければ、人手不足を一時的に解決することはできても、長期的な解決はできません。
そのため、まずは人手不足の5つの原因を押さえておきましょう。
- 労働力人口の不足
- 有効求人倍率の増加
- 非正規雇用者数の増加
- 採用コストの高騰
- 優秀な人材の不足
それぞれの原因について詳しく解説します。
原因1.労働力人口の不足
人手不足の原因の一つとして真っ先に考えられるのは、労働力人口の不足です。
労働力人口とは「15歳以上の就業者と完全失業者をあわせた人口」を指します。
一言でいうと「働く意志を持った15歳以上の人口」です。
厚生労働省が発行する平成29年版厚生労働白書では、労働力人口は今後さらに減少すると報告されています。
出典:「平成29年版厚生労働白書」厚生労働省
ただし、この減少は高齢労働者が減少するのではなく若年労働者が減少することによって、引き起こされます。
反対に高齢労働者は今後さらに増加する傾向にあります。
そのため、人手不足にも少子高齢化現象が起き、労働力人口が不足しているのです。
原因2.有効求人倍率の増加
人手不足の2つ目の原因は、有効求人倍率が増加していることです。
有効求人倍率とは「求職者1人に対する求人件数」を指します。
つまり、有効求人倍率が高いほど企業が多くの労働者を求めているということです。
有効求人倍率が上昇するということは、企業からすると仕事があるのに労働者が足りていないと判断できます。
出典:「完全失業率、有効求人倍率1948年~2018年平均」労働政策研究・研修機構(JILPT)
昨今の日本の有効求人倍率は、バブル期と同程度まで上昇しています。
有効求人倍率が上昇しているということは、経済が活性化しているという判断もできます。
企業に多くの仕事があるため、人手不足を感じやすい状況になっているのです。
原因3.非正規雇用者数の増加
人手不足の3つ目の原因は非正規雇用者数の増加です。
実は日本では有効求人倍率の上昇とともに、雇用者数は増加しています。
つまり、雇用者数が増加しているというのに、人手不足を感じるという矛盾が生じているのです。
これは雇用者数の中でも非正規雇用者が増加しているからです。
総務省の労働力調査によると正規雇用は2014年以降年々増加しています。
しかし、正規雇用以上に非正規雇用者数が増加している傾向にあるのです。
出典:「労働力調査(詳細集計)平成30年(2018年)平均(速報) 」総務省
非正規雇用が増えること自体は悪いことではありませんが、企業の実情として非正規雇用者に責任の大きい仕事を任せることはほとんどありません。
コンプライアンスやガバナンスの面で難しいことが多く、非正規従業員を増やしても業務効率を大きく改善することは難しいです。
そのため、非正規雇用を増やしたところで人手不足を解消するのは難しいのです。
原因4.採用コストの高騰
人手不足の4つ目の原因が採用コストの高騰です。
人手不足を解決するために採用活動を行なうことは当然必要なことです。
しかし、労働者を採用したいという需要とは反対に、採用コストはどんどん高騰しています。
資金のない中小企業の場合、1年を通じて採用活動を行なうことは難しいため、十分な採用活動を行えず人手不足に陥るケースが非常に多いです。
原因5.優秀な人材の不足
人手不足の5つ目の原因は、優秀な人材が不足しているということです。
これは生産性が高い人材を雇用・育成できないという現状が企業にあるからと考えられます。
雇用に関しては次の要因があるでしょう。
- 雇用コストが捻出できない
- 求職者の求める労働環境が整備されていない(企業としての魅力がない)
- 自社にとって優秀な人材を定義できていない
優秀な人材が不足する原因は雇用コスト以外にも、労働環境や採用時に問題があることが多いです。
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また、育成に関しては次のような要因が考えられます。
- 教育環境が整備されていない
- 求職者のスキルや希望と実際の業務がマッチしていない
- 人材戦略が立てられていない
特に教育環境や人材戦略が立てられていない企業は非常に多いです。
労働者の雇用は採用がゴールではありません。
求職者のスキルの有無に関わらず、採用後の教育環境や労働環境、人材戦略は優秀な人材を確保する上でとても大切です。
特に採用コストを捻出できない中小企業は、人材育成に力を入れて採用に注力できない現状を補わなければいけません。
次の章では企業が人手不足を解決できた7つの方法を紹介します。
既に人手不足を感じている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
企業が人手不足を解決できた7つの方法
ここからは人手不足を解決できた7つの方法を紹介します。
人手不足が懸念される場合に、解決する方法を知らなければ対処できません。
人手不足は深刻な課題ですが、解決することはできます。
実際に企業が人手不足を解決できた7つの方法を見ていきましょう。
- 従業員の待遇を強化・改善する
- 職場環境を強化・改善する
- 教育環境を万全に整備する
- ITを取り入れる
- 障がい者を雇用する
- 外国人労働者を採用する
- アウトソースを利用する
それぞれの方法について詳しく解説します。
方法1.従業員の待遇を強化・改善する
1つ目の方法は従業員の待遇を強化・改善することです。
従業員が満足・期待できる待遇を用意できなければ、採用を成功させることはもちろん従業員の離職を防ぐことが難しいです。
これは求職者に対しても同様です。
求職者から見て魅力的な待遇がなければ、採用募集を出していてもエントリーすら来ない可能性があります。
たとえば、次のような点は求職者と従業員が特に気にしています。
- 給料
- ボーナス
- 有給消化率
- 年間休日
まずは、自社の待遇面を見直して、客観的に魅力的な待遇が用意されているかを確認しましょう。
方法2.職場環境を強化・改善する
2つ目の方法は職場環境を強化・改善することです。
待遇が良くても職場環境が良くなければ、人手不足を改善することは難しいです。
- 人間関係
- 労働時間
- 社風
- 評価制度
上記のようにに社外からは見えづらい点を、待遇面よりも重要視している求職者もいるでしょう。
そんな方にとっては、職場環境の良い企業でなければ魅力的に感じず、離職に繋がってしまうのです。
そのため、職場環境を改善することは人手不足を改善するために必要なのです。
方法3.教育環境を万全に整備する
3つ目の方法は、教育環境を万全に整備するということです。
教育環境が整備されていない場合、新たに採用した社員を育成することができません。
採用した人材が専門的なスキルを持ち合わせている場合は、教育が必要ない場合もありますが、そのような人材を採用できる可能性は低いです。
特に新入社員の場合は、スキルやマナーなどを持ち合わせていないことが多く、実務以前にビジネススキルやマナーを教えることから始まります。
ただし、ビジネススキルやマナーを身に着けただけでは、人手不足は解決できません。
実際に優秀な人材や専門的なスキルを身につけるには、さらなる教育が必要なのです。
しかし、この教育環境が整備されている企業は以外にも少ないものです。
教育環境が整えられていない企業では、雇用者は自身の成長を期待できなかったり、何をすればよいのかをわからないまま時間が過ぎてしまいます。
そのため、企業が採用を成功させたり離職を防ぐためにも、教育環境を万全に整備することが重要なのです。
採用コストがない場合でも、教育環境が整備されていれば、もともと優秀とは言えなかった人材を優秀な人材へと育成することもできます。
少ない採用コストで優秀な人材を確保したい場合には、自社の教育環境を整備してみるとよいでしょう。
方法4.ITを取り入れる
4つ目の方法はITを取り入れることです。
ITテクノロジーを取り入れることで、業務効率を改善して生産性を上げることができます。
生産性が上がれば、労働者を雇用せずに人手不足を解決できる可能性があるのです。
近年ではAIやインターネットの技術進歩により、さまざまなツールやテクノロジーがあり、ビジネスを促進することができます。
とはいえ、新しい技術を取り入れればよいというわけではありません。
自社にあったツールや技術を導入することで、業務効率を改善することができればよいのです。
たとえば、以下のようなものです。
- パソコンのスペックを上げる(処理速度などの向上)
- チャットツールを導入する
- 会計ソフトを導入する
このように身近なものにITを導入することでも、業務効率を改善して生産性を上げることはできます。
大掛かりなITの導入は、コストもかかるため、中小企業では難しい場合もあるでしょう。
まずは身近なところからITを導入して、業務効率を改善してみてはいかがでしょうか。
方法5.障がい者を雇用する
5つ目の方法は、障がい者を雇用するということです。
採用する人材は何も健常者でなければいけない決まりはありません。
特に障がい者の方は、専門的なPCスキルを持っている方も多いです。
そのため、雇用の条件を広げることにより、自社が求めている人材を採用できる可能性があるのです。
障がい者雇用を行なうことで、社会貢献にも繋がり企業イメージをアップすることもできます。
さらに、労働者が45.5人を超える企業は障害者雇用制度によって、障がい者を1名以上雇用しなければいけないと決められています。
障がい者雇用を行っていない場合には、罰金が課せられることもあるため、注意しましょう。
障がい者雇用は人手不足を解決するだけでなく、企業イメージを上げることもできるため、自社でまだ導入されていない場合は検討されてはいかがでしょうか。
方法6.外国人労働者を雇用する
6つ目の方法は外国人労働者を雇用することです。
外国人労働者を雇用することで、人手不足を解消するだけでなく自社をグローバル化できます。
法務省が2018年に公表した在留外国人数に関する資料によると、日本の在留外国人数は年々増加していると報告されています。
出典:「【平成30年6月末現在】公表資料」法務省
在留外国人は今後も増加するといわれているため、それに伴い外国人労働者の需要も増加すると考えられます。
グローバル化が進む中で、企業が外国人を雇用することもゆくゆくは一般的になるでしょう。
方法7.アウトソースを利用する
7つ目の方法はアウトソースを利用することです。
人手不足の昨今では、自社のリソースだけですべての業務を賄うことは難しいと感じている方は多いのではないでしょうか。
自社のリソースだけで業務を賄える場合、人件費や諸経費以外の費用がかからないため、アウトソースを利用するよりもコストは抑えられます。
しかし、テクノロジーの発展が加速している今の時代に、必要なものや技術が出てくるたびに人材採用を行なうのは非効率であり、現実的ではありません。
アウトソースを利用することで、自社のリソースにはない知識や技術を持った人材に必要なだけ業務を外注することができます。
アウトソース先としては、主に次の2つがあります。
- 代行サービス企業
- フリーランス・個人事業主
代行業を行っている企業に、業務の一部を切り出して委託することは実施されている企業も多いのではないでしょうか。
企業以外にもフリーランスや個人事業主でも優秀な人材にアウトソースすることも1つの手です。
継続的な依頼や単発で仕事を依頼できるため柔軟性も高く、企業に依頼するよりも低価格で依頼できることも多いです。
【注意】採用基準を下げるのはNG
人手不足を解決するときには、採用基準を下げてはいけません。
なぜなら、企業が採用基準を下げたとしても、顧客に提供する価値は下がらないからです。
採用基準を下げて、能力の低い人材を採用したとしても、価値提供ができなければ人手不足を解決するどころか業績を悪化させてしまう可能性もあります。
育成環境が整備されている場合でも、求職者の将来性や価値観がマッチしないのに採用基準を下げて雇用してしまうと、ミスマッチも起こりやすく売上が発生しない育成にコストがかかりすぎてしまいます。
求職者の将来性がない場合や価値観がマッチしない場合など、採用基準を下げてまで雇用を行なうのはやめましょう。
人手不足を改善した中小企業の事例5選
最後に人手不足を実際に改善した事例を5つ紹介します。
他社がどのような方法で人手不足を解決したのかを知って、自社の人手不足対策に活かしましょう。
それぞれの事例について解説します。
改善例1.残業のない飲食店で人材の定着率アップ
京都で飲食店を展開する株式会社minittsは勤務時間を固定化して、人材の定着化に成功しました。
飲食業界は勤務時間が長かったり、残業が長い現状がありますが、株式会社minittsでは勤務時間を9:00〜17:45分に固定。
営業時間は昼のみで、100食を完売すれば営業終了という飲食店では珍しいスタイルを確立しました。
他の飲食店から転職を希望する人も増え、飲食業界が抱える人手不足に対応したのです。
参考:「人手不足対応100事例」中小企業庁
改善例2.副業推奨で本業の業務効率向上
東京都でショッピング事業やマッチング事業を展開する株式会社エンファクトリーでは、副業推奨で本業の業務効率を向上させることに成功しました。
エンファクトリーは「専業禁止」と称し副業を推奨することで、従業員一人ひとりに経営者意識を持たせ、副業をするために本業の業務効率を向上させることができたのです。
その結果、本業の残業時間を削減し、オープンイノベーションの動きが加速しました。
社員同士が副業についての情報共有をする会なども設け、企業としてはもちろん個人の成長につながっています。
参考:「人手不足対応100事例」中小企業庁
改善例3.柔軟な勤務体系で多様な人材採用に成功
東京都でアウトソーシング業やマーケティング事業を展開する株式会社キャリア・マムでは、柔軟な勤務体系を導入することにより多様な人材採用に成功しました。
キャリア・マムでは従業員のライフスタイルを考え、働く場所と時間を従業員が決める勤務体系や1時間毎に使える有給休暇を導入。
特に女性が婚約後や出産後も活躍できるように、職場環境を整えました。
この結果、大手企業ではなくキャリア・マムを選んで活躍する人材が増えたそうです。
参考:「人手不足対応100事例」中小企業庁
改善例4.大企業と違う採用方法で優秀な人材を雇用
新潟県で製菓業を展開する三幸製菓株式会社では、大企業とは違う採用方法を導入したことで優秀な人材を確保することに成功しました。
三幸製菓では総合職の採用時に、高いコストをかけたにもかかわらず期待した成果が出なかった経験から、採用面接主体の採用を廃止。
一次試験を適性検査にして、二次試験以降は適性検査の結果に合わせて、各適性に応じた面接以外の選考方法を取り入れました。
また、採用活動にSkypeなどのオンラインを導入するなど、採用担当が少ない中で工夫をしています。
この他にも大手との競争をなくすために、独自の取組を導入しています。
- 大手採用サイトへの掲載廃止
- 合同説明会への参加廃止
- 外国人雇用や採用年齢の制限廃止
- 通年採用の導入
このように雇用に対して、柔軟な姿勢を持つことで人手不足を解消したのです。
参考:「人手不足対応100事例」中小企業庁
改善例5.外国人を採用して事業拡大
東京都でソフト開発行を展開する東洋システム開発株式会社は、外国人を雇用することで事業を拡大することに成功しました。
東洋システム開発では海外進出をおこなうために、外国人を初めて採用。
中国人2名を採用すると外国人が予想以上に優秀だとが分かり、海外の取引先からも信頼を得られています。
外国人にも安心して働いてもらうために、外国人従業員向けの寮を用意したり、給与体系を区別しないなど外国人雇用に前向きな姿勢を持っています。
参考:「人手不足対応100事例」中小企業庁
【まとめ】多様な働き方を導入して人手不足を解消!
今回は中小企業を悩ませている「人手不足」について解説しました。
企業が人手不足になると事業が進められないだけでなく、最悪の場合、倒産に追い込まれてしまう可能性もあります。
そのため、人手不足は未然に防がなければいけないのです。
人手不足は少子高齢化が原因といわれていますが、それだけではありません。
今回紹介した人手不足の原因を押さえて、自社にあった方法で人手不足を解決しましょう。
人手不足を解決する方法は、採用以外にもあります。
自社の資本や状況に応じた施策を考えることが、人手不足を解決するためには重要です。
とはいえ、人手不足を解決するには時間や費用がかかります。
自社が望む人材を採用する場合やアウトソースには、大きなコストがかかることもあるのです。
そのため、人手不足を解決するために、自社の売上を最大化して人手不足を解決するための費用を用意しなければいけません。
そこで一度確認していただきたいことが、自社商品の価格が適切であるかどうかです。
実は自社商品の価格が適切でないために、売上を最大化できていなケースは意外にも多いのです。
優秀な人材をいくら確保して業務効率を上げても、商品の価格が適切でなければ売上や利益を上げることはできません。
そのため、人手不足の解決に取り組む前に自社商品の価格が適切か確認していただきたいのです。