今回は中小企業向けに「ジョブローテーション制度」について解説をしていきます。
ジョブローテーション制度とは、人材育成に関わる制度のことです。
広い範囲の知識や能力を持つ「ゼネラリスト」の育成に向いており、将来の管理職候補を対象にジョブローテーション制度を実施する企業が多くあります。
中小企業の場合だと、従業員や外注を一貫して管理できる人物が社長しかいないというところも少なくありません。
しかしそのような状態では、万が一社長が体調を崩してしまったときに一緒に会社が倒れてしまうことにもなりかねないのです。
そこで今回はジョブローテーションについて、以下のような内容でお話をしていきます。
- ジョブローテーション制度の意味とは
- ジョブローテーション制度の目的、メリット
- ジョブローテーション制度の注意点、デメリット
- 中小企業におけるジョブローテーションの向き、不向き
- ジョブローテーション制度の実施手順
- ジョブローテーション制度の成功事例
もし今、あなたの会社で仕事の全体管理ができる人材があなた以外にいない状況なら、ぜひ今回の記事を読み込んでおいてください。
ジョブローテーション制度の意味とは
ジョブローテーション制度とは、人材育成を目的として、部署や仕事内容を定期的に変更させる制度のことです。
ジョブローテーション制度の対象者を決めて、その人物をさまざまな部署に異動させる、もしくはさまざまな種類の仕事を任せる、というのが基本的なやり方になります。
ジョブローテーション制度はよく人事異動と混同されますが、人事異動はあくまでも組織の活性化や業務を円滑に進めるために行うものです。
それに対してジョブローテーション制度は、人材育成を目的にして、計画的に実施されます。
つまり仕事を円滑に進めるために行うのが人事異動、人材育成のために行うのがジョブローテーションであるということですね。
この2つの違いについてはよく理解しておきましょう。
ジョブローテーション制度の目的、メリット
ジョブローテーション制度は、主に以下のような目的、メリットのもとで実施されます。
- ゼネラリストを育成することができる
- 社員の適性を見抜くことができる
- 社員間のコミュニケーションを円滑にできる
- イノベーションが起こりやすくなる
- 急な退職などに対応できるようになる
1つずつ解説していくので、自社に置き換えて必要性を考えてみてください。
ジョブローテーションのメリット1.
ゼネラリストを育成することができる
冒頭でもお話ししたとおり、ジョブローテーション制度はゼネラリストを育成することに向いています。
ゼネラリストは幅広い知識やスキルを持った人材のことです。
主に管理職やプレイングマネージャーに、このゼネラリストとしての能力が求められます。
管理職として育てたい、アルバイトや外注の取りまとめを任せたい、という人材がいるのなら、ジョブローテーション制度の対象にしても良いでしょう。
ジョブローテーションのメリット2.
社員の適性を見抜くことができる
ジョブローテーション制度を行えば、対象となった社員の適性を見抜くことができます。
さまざまな業務を経験させ、どういった業務に向いているのか、どういった能力が高いのか、といったことを確認することができるのです。
そのため会社によっては、新入社員全員をジョブローテーション制度の対象にするといったところもあります。
あるていど余裕を持って新入社員を育てることができる環境があるのなら、ジョブローテーション制度で適性を見てあげるのも1つの手です。
業務効率が向上したり、離職率が低下したりすることに繋がります。
ジョブローテーションのメリット3.
社員間のコミュニケーションを円滑にできる
ジョブローテーション制度を実施すれば、社員間のコミュニケーションを円滑にすることもできます。
ジョブローテーション制度の対象者は多くの部署に顔が効くようになるため、組織の潤滑剤として活躍することもできるようになるからです。
さらにその人物が業務全体の取りまとめをやるようになれば、風通しの良い社風を作り上げることもできるでしょう。
ジョブローテーションのメリット4.
イノベーションが起こりやすくなる
ジョブローテーション制度によってさまざまな業務を体験させることで、その社員から新しいアイディアが生まれたり、イノベーションが起こったりしやすくなります。
とくに普段、部署ごとに独立して仕事をやっていて、部署間のコミュニケーションが不足している企業であれば、ジョブローテーション制度によって得られる気づきも多くなるはずです。
イノベーションを起こすためにジョブローテーション制度を活用したいなら、対象者はアイディアを組み合わせて新しいことを生み出せるような人材を選ぶようにしましょう。
ジョブローテーションのメリット5.
急な退職などに対応できるようになる
ジョブローテーション制度を導入すれば、従業員の急な退職や体調不良にも対応できるようになります。
人材が不足している中小企業だと、とある業務の内容を1人だけが把握しており、その人物がいないと業務が完全にストップしてしまうというところも少なくありません。
仮にその業務がコアとなるものであった場合、会社全体の機能がストップしてしまうことさえあるのです。
そこでジョブローテーション制度を活用し、あるていど業務をカバーし合えるような状況を作り上げておけば、急な事態にも業務を止めずに対応することができるようになります。
人手が足りない中小企業だからこそ、少ない人員でカバーし合える仕組みを作っておきましょう。
ジョブローテーション制度の注意点、デメリット
ここまでジョブローテーション制度のメリットを説明してきましたが、実は同時に注意点やデメリットも存在しています。
主に以下のような点は理解したうえでジョブローテーション制度を導入しなければいけないのです。
- スペシャリストの育成には向いていない
- 実施中は生産性が下がる
- 対象者のモチベーションが下がることがある
それでは1つずつ解説していきましょう。
ジョブローテーションのデメリット1.
スペシャリストの育成には向いていない
ジョブローテーション制度は、スペシャリストの育成には向いていません。
幅広い業務を浅く経験していく制度であるため、深い専門性が身につかないからです。
そのためジョブローテーション制度は、しっかりと育成計画を立て、対象者をきちんと選ばなければ、失敗に繋がってしまいます。
ジョブローテーション制度を導入するときは、欲しい人材や対象者の適性などを把握したうえで行うようにしましょう。
ジョブローテーションのデメリット2.
実施中は生産性が下がる
ジョブローテーション制度を実施中は、対象者の業務効率が大きく下がり、さらに周りの人員も育成のための工数が必要になってくるため、一時的に生産性の低下が起こってしまいます。
ジョブローテーション制度を導入するなら、一時的な生産性の低下は今後のためだと割り切る必要があるのです。
さらに人手が足りない中小企業では、ジョブローテーション制度による生産性の低下をどのようにカバーするかについてもよく考えなければいけません。
ジョブローテーション制度を実施するさいは長い目で見て計画的に行わなければ、結局中途半端なところで廃止することになってしまうので注意しましょう。
ジョブローテーションのデメリット3.
対象者のモチベーションが下がることがある
ジョブローテーション制度を実施する場合、対象者のモチベーション低下にも注意しなければいけません。
とくに今まで専門的な仕事をやっていた人を管理職候補として対象者に選ぶ場合は注意が必要です。
単純にやりたくない仕事や得意ではない仕事をやることによるモチベーションの低下もありますし、教える立場だった人が他部署で教わる立場に変わることによってモチベーションの低下が起こる場合もあります。
ジョブローテーション制度の対象者には期待しているということをしっかり伝え、メンタル面のフォローも行っておきましょう。
中小企業におけるジョブローテーション制度の向き・不向き
ジョブローテーション制度には、企業や人員によって向き不向きがあります。
たとえばよく言われるのが、中小企業より大企業に向いているということですね。
人が少なく業務の幅も狭い中小企業より、人が多く業務内容も多岐にわたる大企業の方が効果性が高いのです。
しかしだからといって、中小企業がまったく向いていないということではありません。
企業形態、職種、対象者によっては、ジョブローテーション制度を十分に活かすことが可能です。
そこでここからは、以下について紹介をしていきます。
- ジョブローテンション制度に向いている企業
- ジョブローテンション制度に向いている職種
- ジョブローテーション制度に向いている人員
自社や対象に選ぼうと思っている従業員が当てはまるかどうか、チェックしてみてください。
ジョブローテンション制度に向いている企業
ジョブローテーション制度が向いている企業としては、以下のような特徴が挙げられます。
- 管理者が不足している
- 新卒採用を行っている
- 資金、労力に余裕がある
まずジョブローテーション制度は管理者の育成に向いている制度なので、その管理者が不足している企業はジョブローテーション制度の導入を考えても良いでしょう。
とくに全体的な業務管理ができる人間が社長しかいないという場合には、早急に管理者を育てなければいけません。
また、ジョブローテーション制度は新入社員の適性を見ることにも使える制度なので、新卒採用を行っている企業に向いています。
中途採用者相手でも機能しなくはないのですが、中途採用者の場合はどちらかというと即戦力として雇っており、適正はすでに本人が理解しているはずなので、効果性としては新卒者より大幅に下がってしまうのです。
あとはやはり、資金的にも労力的にも余裕がある企業の方が向いています。
ギリギリ業務を回しているような状態だと、ジョブローテーション制度の対象者が得意分野から抜けるのが痛手となりますし、受け入れる側としても育成する余裕がありません。
ジョブローテーションを始めとした人材育成には、それなりのコストがかかるものなのです。
ちなみに、もしあなたの会社でもジョブローテーションを実施する余裕がないというのなら、商品やサービスの価格設定に問題がある可能性があります。
実際、安すぎる価格設定のせいで労力ばかりかかって十分な利益があがらない、という中小企業はかなり多いです。
ジョブローテンション制度に向いている職種
ジョブローテーション制度に向いている職種としては、以下のような条件が挙げられます。
- イレギュラー対応が少ない職種
- 短期間でプロジェクトを行う職種
イレギュラー対応が少なく、あるていどマニュアルに沿って業務ができるような職種の方がジョブローテーション制度には向いています。
反対にイレギュラー対応が多すぎる職種だと、ジョブローテーション制度を実施しても対象者が対応できずにパンクしてしまうのです。
マニュアルなどで業務内容を把握することができないため、短い期間では仕事を覚えきれないわけですね。
こういった職種はジョブローテーション制度を実施するときの負担がかなり大きくなってしまうので、向き不向きで言えば向いていないと言えるでしょう。
あとは短期間で1つのプロジェクトが完了するような職種もジョブローテーション制度導入に向いています。
ジョブローテーションの対象者がプロジェクトの最初から完了までを同じ部署で経験しやすくなるからです。
逆にプロジェクトが長期にわたるような職種だと、プロジェクトの進行中に部署異動が発生してしまうため、ジョブローテーションの効果性が下がったり、対象者のモチベーションが下がったりしてしまいます。
ジョブローテーション制度に向いている人員
ジョブローテーション制度に向ている人の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
- コミュニケーション能力が高い
- 管理能力に長けている
新卒者の適性を見抜く場合を除けば、これらの特徴を持った人をジョブローテーション制度の対象者に選ぶべきです。
とくにコミュニケーション能力については、必須と言っても良いでしょう。
複数の部署を渡り歩くことになるので、コミュニケーションが苦手な人を対象にしてしまうと、本人にとっても受け入れ先の部署にとっても大きな負担となってしまうからです。
あとは管理者候補を育てるのですから、当然、管理能力に長けている人の方が向いています。
逆に職人気質でプレイヤー向きの人はスペシャリストを目指すべきなので、ゼネラリストを育てるジョブローテーション制度には向いていません。
ジョブローテーション制度の実施手順
ジョブローテーションを円滑に進めるためには、以下のような手順で行うのがおすすめです。
- ジョブローテーション制度を実施する目的を明確にする
- 対象者を選定する
- 配属先、配属期間を決定する
- 対象者、配属先に連絡をする
- ジョブローテーション制度を実施する
最初に、ジョブローテーション制度を実施する目的を明確にしましょう。
管理者を育成するためなのか、新入社員の適性を見るためなのか、などによって、対象者や進め方も変わってくるはずです。
次に、対象者を選定しましょう。
ここで「ジョブローテーションに向いている人材」を選ぶことが重要となります。
向いていない人材を選んでしまうと、その人物の退職にも繋がりかねないので注意してください。
目的と対象者が決まったら、配属先とそれぞれの配属期間を決定します。
ジョブローテーションはあくまでも育成のために行うものなので、きっちり計画的に行いましょう。
ジョブローテーションについて計画が定まったら、対象者や配属先に連絡し、了承を得られた時点で実施していきます。
以上が、ジョブローテーション制度の基本的な流れです。
ジョブローテーション制度の成功事例
ここからは、ジョブローテーションの成功事例について紹介していきましょう。
- 双日
- ヤマト運輸
それぞれ目的を持ってジョブローテーション制度を成功させている事例なので、あなたの会社で導入するときの参考になるはずですよ。
ジョブローテーションの成功事例1.
双日
総合商社である双日株式会社は、2009年から人材育成のためのジョブローテーション制度を導入しています。
さらに双日では、「3種類以上の業務経験」が管理職登用の要件となっているそうです。
ジョブローテーション制度を導入し、管理職の要件を整備することで、必然的に広い視野を持った管理職が生まれてくるわけですね。
このように双日は、明確な人材育成の計画、目的のもと、ジョブローテーション制度を導入しています。
ジョブローテーションの成功事例2.
ヤマト運輸
ヤマト運輸は、新入社員向けにジョブローテーション制度を導入しています。
ヤマト運輸では配送業務や営業業務、管理業務など、業務内容が多岐に渡っており、部署間でのコミュニケーションが取りにくいといった状況があります。
そこで新入社員に配送現場を体験させることで、今後配属される部署での仕事がどのように会社に役立っているのかを理解できるようにしているのです。
また、キャリアプランについてもジョブローテーションを経て、社員と会社が一緒になって考えるような機会を設けています。
ヤマト運輸は、新入社員の育成を目的にして、ジョブローテーション制度を活用しているわけですね。
中小企業の社長はすべての業務内容を知っておくべき
ジョブローテーション制度とは少し話が変わりますが、もしあなたの会社が小規模であるなら、従業員だけでなく、社長であるあなたも社内全体の仕事内容を把握しておく必要があります。
なぜなら体調不良や退職によって業務フローに穴ができてしまった場合、最悪あなた自身がその穴を埋めなければいけなくなるからです。
中小企業の場合だと、なかなか良い人材を揃えることはできません。
そのため、従業員1人が抜けた穴が非常に大きくなってしまうのです。
優秀な従業員が抜けた場合は、会社にとってかなり大きな痛手になることもあります。
そのような事態に陥ったとき、最終的に社長は自分自身の手で会社を守り切らなければいけないのです。
とくにマーケティングに関しては、必ず社長であるあなたも把握するようにしておいてください。
仮に総務や経理なら、突然穴があいてしまったとしてもなんとか対応することができます。
しかしマーケティングが止まってしまえば業務も止まってしまうため、そのまま会社が潰れてしまうことにも繋がりかねないのです。
だからこそジョブローテーション制度での育成とは別に、社長自身も会社内の仕事内容については幅広く把握しておくようにしましょう。
【まとめ】ジョブローテーションはしっかりと目的を持って行うべき
今回は人材育成に効果的なジョブローテーション制度について解説をしてきました。
ジョブローテーション制度を導入すれば、新入社員の適性を見抜けたり、管理者を育てたりすることができます。
基本的には部署が多く、業務内容が多岐にわたる大企業に向いた制度であるとされていますが、場合によっては中小企業でも導入を検討するべきです。
たとえば業務フロー全体を把握しているのが社長であるあなただけであり、社長が倒れたら一緒に会社も倒れてしまうというような状況になっているようなら、むしろ早急にジョブローテーションを導入して、管理者を育てるべき状況であるとさえ言えますね。
ただ中小企業の場合、ジョブローテーションを行うような資金的、労力的な余裕がないというところも多いのが実情です。
しかしだからといって、人材育成をしっかりやらない会社に未来はありません。
もしあなたの会社でも人材育成の余裕がないようなら、ジョブローテーションより先に経営自体を見直す必要があります。
中でもまず確認してほしいのが、商品やサービスの価格設定についてです。
日本の中小企業には、安すぎる価格設定のせいで労力ばかりかかって十分な利益があがらないという会社が数多く存在しています。
そして疲弊し、そのまま倒産してしまうというケースが本当に多いのです。
ジョブローテーション制度は、明確な目的を持って計画的に行えば効果的な人材育成制度です。
もしあなたの会社が導入に向いているようなら、この機会にジョブローテーション制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか?