今回は「ゴールデンパラシュート(黄金の落下傘)」について解説をしていきます。
日本ではあまり聞き覚えのない言葉かもしれませんが、ゴールデンパラシュートは敵対的買収に対する防御策として用いられる手法のことです。
ドラマ「ハゲタカ」でも登場していたので、もしかすると言葉だけ知っているということもあるかもしれませんね。
ちなみに敵対的買収というと、堀江貴文氏が代表を務めていたライブドアがニッポン放送の株を買い占めた件が有名です。
一時期はニッポン放送株の過半数をライブドアが確保していたこともありました。
このような企業買収は、資本主義の社会においては合法的に行われるものであり、違法なものではありません。
そのため敵対的買収に対しては、企業側が自分で対策を講じておく必要があるのです。
そして、その対策として企業側で行われる手段の1つがゴールデンパラシュートであるということですね。
今回はそのゴールデンパラシュートについて、以下のような内容でお話をしていきます。
- ゴールデンパラシュートの意味
- ゴールデンパラシュートを導入するメリット、デメリット
- ゴールデンパラシュートを活用した実例
- 中小企業はゴールデンパラシュートを導入すべきかどうか
もし敵対的買収が気になっているようなら、ぜひ今回の記事に目を通してみてください。
ゴールデンパラシュートの意味とは
冒頭でもお話ししたとおり、ゴールデンパラシュートは敵対的買収に対する防衛策のことです。
具体的には、経営陣が退職させられたり権限を減らされたりした場合に、多額の退職金が発生するような契約を締結しておきます。
すると敵対的買収を仕掛ける側としては、前任の経営陣を退任させるときに多額の資金流出が起こってしまうため、買収コストが高くなってしまうのです。
そのため多額の退職金が発生するような契約を締結しておけば敵対的買収を受けにくくなりますし、いざ敵対的買収を受けたさいにも、買収者との交渉材料として活用することができます。
このような敵対的買収への対抗措置をゴールデンパラシュートというのです。
ちなみに、ゴールデンパラシュートで使われる退職金の額は、取締役が貰っている年収の3倍程度が一般的であると言われています。
また、経営陣だけが多額の退職金を設定するのはイメージがあまり良くないため、条件付きのストックオプション(会社の株式を定められた価格で購入できる権利)という形でゴールデンパラシュートを設定することも多いです。
※ストックオプションについては「ストックオプション制度導入に向いている企業とは?仕組みやメリット、税金について解説!」の記事で詳しく解説しているので、併せて参考にしてみてください。
ティンパラシュートとは
ゴールデンパラシュートと近い言葉に、ティンパラシュート(ブリキの落下傘)という言葉があります。
ゴールデンパラシュートは経営陣の退職金を高額に吊り上げることで買収への対抗措置のことでした。
一方、ティンパラシュートの場合は、従業員の退職金を高額に吊り上げておきます。
そうすることで、敵対的買収を受けたさいに従業員をリストラから守ることができるのです。
またティンパラシュートのメリットには、株主総会の承認を必要としないというものがあります。
ゴールデンパラシュートの場合、役員の退職金を増額しなければいけないため、株主総会での承認が必要となります。
一方ティンパラシュートはあくまでも従業員の退職金を増額するだけなので、取締役会での決議だけで完了させることができるのです。
そのためこの2つを比べた場合、ティンパラシュートの方がより簡単で柔軟に導入することができます。
ゴールデンパラシュート以外の買収対策
ゴールデンパラシュートは敵対的買収の対応策であるとされていますが、買収対策の方法はほかにも色々とあります。
たとえば、以下のようなものですね。
ポインズンピル | ポインズンピルは敵対的買収を受けそうな場合に新株予約権を交付することで、株式が過半数以上買収されることを防ぐという対策です。
日本では、ライブドアから敵対的買収を受けていたニッポン放送がグループ会社であるフジテレビに新株予約権を交付するという使い方をしました。 ただし、ポイズンピルを行うと株式の発行部数が増加して株価が下がってしまうため、ニッポン放送は個人株主からの非難を受けることになってしまったのです。 |
マネジメントバイアウト(MBO) | マネジメントバイアウトは株式を自社の経営陣ですべて買い取り、非上場化することで敵対企業による公開株式の買い付け(TOB)をできなくしてしまうという手法です。
自社を非上場化させるということなので、当然、自社を上場させたい場合には向いていません。 |
黄金株 | 黄金株とは、通常の株式よりも強い権限が付与されている株式のことです。
この黄金株式を所有している株主は株主総会の決議への拒否権を持っており、会社の合併や買収といった決議に拒否権を発動することができます。 ただし、黄金株は1株しか発行できないうえに自社では保有することができないため、信頼できる企業に渡すのが一般的です。 |
チェンジオブコントロール | チェンジオブコントロールとは、経営権の移動があったさいに契約内容に制限がかかる条項のことです。
たとえば経営権が移動した場合に取引先が催告なしで契約解除をすることができるようにしておけば、買収側は重要な取引先を失ってしまい、せっかく買収した企業のビジネスで大打撃を受けてしまう可能性があります。 |
プットオプション | プットオプションとは、ある条件を満たしたときに株式の買い取りをしてもらえたり、弁済の請求を行うことができたりする権利のことです。
このプットオプションを利用し、敵対的買収が行われたときに行使できる以下の権利を譲渡しておきます。
すると買収時に巨額の費用が発生してしまう状態を作り出すことができるため、敵対的買収に対しての強いけん制となります。 |
ホワイトナイト | ホワイトナイトとは、敵対的買収をされそうになったさいに友好的な第三者に先に株式を買収してもらうことです。
ホワイトナイトを実施する場合には第三者割当増資によって新株を発行するのが一般的ですが、ポイズンピルと同様、新株の発行によって株価の低下を招いてしまうため、株主からは良く思われない傾向にあります。 また、株式を買収してくれた第三者の対応によっては自社に悪い影響が出てしまうこともあるため、買収してもらう先はきちんと精査しなければいけません。 |
以上が、さまざまな種類の敵対的買収対策です。
中小企業の場合はあまり行使する機会がないかもしれませんが、知識として知っておいてください。
ゴールデンパラシュートのメリット
ゴールデンパラシュートによって敵対的買収を防ぐことができれば、以下のような3つのメリットがあります。
- 社風の改変を防ぐことができる
- 役員の交代を防ぐことができる
- 株主の不利益を防ぐことができる
まず1つ目のメリットが、社風の改変を防ぐことができるというものです。
会社が買収されてしまえば、買収した企業の影響を大きく受けてしまいます。
その結果、従業員たちが慣れ親しんでいた社風が改変されてしまい、最悪自社がブラック企業へと姿を変えてしまうかもしれないのです。
そこでゴールデンパラシュートを設定しておけば、買収による社風改変のリスクを軽減することができるというわけですね。
そしてもう1つのメリットが、役員の交代を防ぐことができるという点です。
会社が買収されてしまった場合、自分も含めた自社の役員たちが退任させられてしまう可能性があります。
とくに買収企業と役職が被ってしまっている場合には、退任させられる可能性が高いです。
それこそ最悪の場合、役員が退職にまで追い込まれてしまうことも少なくありません。
そこでゴールデンパラシュートを設定しておけば、買収企業が簡単に役員を退任させることができなくなるというわけですね。
そしてもう1つ重要なメリットとして、株主の不利益を防ぐことができるという点があります。
会社を買収されるということは、自社の株主たちが今まで保有していた株式が変わってしまうということです。
そして株式が変わるということは、そこに株価下落のリスクが潜んでいます。
そのため敵対的買収の対策であるゴールデンパラシュートには、株主の利益を守るといった側面も存在しているのです。
以上の3つが、ゴールデンパラシュートを導入する代表的なメリットですね。
ゴールデンパラシュートのデメリット
ゴールデンパラシュートの設定にはメリットがある一方、以下のような2つのデメリットもあるので注意が必要です。
- 株主の承認を得るのが難しい
- 経営陣への不満が溜まる可能性がある
まず最初に、そもそもゴールデンパラシュートを設定するための承認を得るのが難しいというデメリットがあります。
ゴールデンパラシュートを設定するためには、原則として株主の承認を得なければいけません。
ところがゴールデンパラシュートは、見方によっては会社のお金を使って経営陣の自己保身をしていると映ってしまうため、なかなか株主の承認を得ることが難しいのです。
場合によっては、株主から利益相反取引(自己または第三者が得をして会社が損をする取引)であるとみなされてしまう場合もあります。
ちなみに株主総会または取締役会の承認を受けずに会社と取締役が利益相反取を行うことは、会社法でも禁止されていますので注意してください。
さらに株主にとっては、現経営陣であっても新しい経営陣であっても、より利益を出してくれるならどちらでも良いという側面もあります。
そのためゴールデンパラシュートを設定するには、現経営陣が株主から、人格的にも能力的にも深く信頼されていなければいけないのです。
※参考
J-Net21_利益相反取引とはどのような場合に該当するのでしょうか。
またゴールデンパラシュートが経営陣の自己保身であるように見えてしまうところから、経営陣に対する不満が溜まってしまうというデメリットもあります。
会社のために必死で働いてくれている従業員からの不満が溜まってしまえば、業績が大幅にダウンしてしまう可能性も否定できません。
もちろん、株主からの信用を失ってしまうことにもつながります。
そのためゴールデンパラシュートを設定する場合は、できるだけ理解を得る努力をしなければいけないのです。
ゴールデンパラシュートにはメリットもある反面、これら2つのようなデメリットもあるため、設定するさいには注意しなければいけません。
実際にゴールデンパラシュートを活用した事例
ゴールデンパラシュートの事例ですが、実は日本ではまだ活用されたことがありません。
しかしアメリカでは、実際にこのゴールデンパラシュートが活用されました。
それが、RJR Nabiscoが買収された事例です。
RJR Nabiscoは投資会社KKRによって買収されてしまった企業なのですが、ゴールデンパラシュートを設定していたことにより、当時RJR NabiscoのCEOであったロス・ジョンソン氏は、退職金などの一時金として5800万ドルを手にしました。
この事例は大規模な買収としてとても有名であり、『野蛮な来訪者―RJRナビスコの陥落』という書籍にもなっています。
書籍についてはAmazonで売られているので、興味があればぜひ読んでみてください。
(参考:Wikipedia)
ブライアン・バロー (著)、ジョン・ヘルヤー (著)
ゴールデンパラシュートは中小企業でも導入を考えるべき?
中小企業でもゴールデンパラシュートの導入を考えるべきかどうかですが、基本的には導入を考える必要性は高くないということが言えます。
なぜなら中小企業の場合、そもそも敵対的買収のリスクがあまり高くないからです。
というのも中小企業の多くは、自社の株式に譲渡制限を設けています。
譲渡制限を設けた株式は、株式の譲渡をする場合に取締役会の承認を要するという取り決めがされているため、経営陣を丸め込まない限り敵対的買収を仕掛けることができません。
そのため、譲渡制限を設けた株式は敵対的買収をかなり受けにくいということですね。
ただし、東証の株券上場審査基準においては、「株式の譲渡についての制限を行っていないこと」が要件の一つとなっています。
もし株式上場を考えていて、なおかつ買収されるような独自性や強みが自社にあると感じているのなら、少なくともゴールデンパラシュートを始めとした敵対的買収対策についての知識は今のうちにつけておくべきでしょう。
とはいえ、実際に導入するかどうかというのはまた別の問題です。
敵対的買収の対策を導入することは、基本的に非常に大きなデメリットを伴います。
そのためゴールデンパラシュートを始めとした敵対的買収の対策については、安易な導入は避けるべきであると言えるでしょう。
【まとめ】今後ゴールデンパラシュートが一般的になるかもしれない
今回は敵対的買収対策の1つであるゴールデンパラシュートについて解説をしてきました。
現状日本では、敵対的買収はあまり盛んに行われてはおらず、友好的な買収の方がメインであると言われています。
しかし2011年以降、日本ではM&A(合併や買収)の件数が増加傾向にあり、敵対的買収が今後増加する可能性も否定はできません。
グローバル化が進む昨今では、いつ日本でも敵対的買収が盛んになるかわからないのです。
そのため、もしかすると今後、ゴールデンパラシュートが日本でも一般的になるときが来るかもしれません。
そのような事態に備え、とくに上場を目指している企業の経営者は、ゴールデンパラシュートを始めとした敵対的買収対策の知識を学んでおくべきであると言えるでしょう。
ちなみに今回の記事を読んでいただければわかるとおり、ゴールデンパラシュートを導入するさいにもっとも必要なのは、株主たちの理解や信頼です。
そして株主の信頼を勝ち取るためには、利益を上げ、できるだけ多くの還元をする必要があります。
現状、日本の中小企業がゴールデンパラシュートを始めとする敵対的買収行為の対策を導入する必要性はあまり高いとは言えません。
しかし今後も同じ状況が続くとは限りませんので、敵対的買収の対策に関する知識については、経営者なら今のうちに知っておきましょう。