今回のテーマは、マーケティングで使えるフレーミング効果についてです。
フレーミング効果は心理学に根差したもので、上手く使いこなせばお客さんが抱く印象を誘導することができるようになります。
たとえば自社の商品と競合他社の商品が並んでいたときに、自社の商品をより魅力的に見せることもできるようになるのです。
フレーミング効果を理解しておけば、マーケティングや営業で有利に立ち回ることができるということですね。
そこで今回はフレーミング効果について、以下のような内容でお話をしていきます。
- フレーミング効果の意味とは
- マーケティングにおけるフレーミング効果の具体例
- フレーミング効果をマーケティングで活かす方法
フレーミング効果を知っておけば、それだけで売上や利益を伸ばすことも可能です。
ぜひこの機会に理解し、活用してみてください。
フレーミング効果の意味とは
フレーミング効果とは、同じ意味でも表現方法を変えるだけで読み手の印象がガラリと変わる現象のことです。
フレーミング効果は認知心理学や行動経済学などの分野で研究されており、行動経済学者、心理学者であるダニエル・カーネマン氏とエイモス・トヴェルスキー氏によって共同発表されました。
たとえば、以下の2つの選択肢を見てみてください。
- 満足度90%のサービス
- 10人に1人は満足できないサービス
あなたはこの2つのサービスがあった場合、どちらを選ぶでしょうか?
実はこの2つの選択肢はまったく同じ、「10人に9人は満足して1人は満足しない」という意味を持っています。
しかしこの場合、多くの人が1番の方を感覚的に選びます。
2番の場合、満足できなかった1人がどうしても気になって、選びにくくなるはずです。
一方1番なら、90%の人が満足できたのなら期待できる、とポジティブな捉え方をする人が多いのです。
このように、まったく同じ意味の言葉でも違う表現方法を用いることで受け手に与える影響が180度違ってくる現象のことをフレーミング効果といいます。
フレーミング効果を証明する実験として、世界的に有名な「アジアの疾病問題」というものがあります。
この実験では、学生グループに以下の2つの問題を投げかけ、それぞれに回答をさせました。
〇問題1
600人の死亡が予想されている特殊なアジア病について2つの対策が提案されています。あなたはどちらを選びますか?
- 対策Aを行うことで、200人の命を確実に救うことができる
- 対策Bを行うと、1/3の確率で600人全員が助かり、2/3の確率で誰も助からない
〇問題2
600人の死亡が予想されている特殊なアジア病について2つの対策が提案されています。あなたはどちらを選びますか?
- 対策Cを行うことで確実に400人が死亡する
- 対策Dを行うと1/3の確率で誰も死亡しないが、2/3の確率で600人全員が死亡する
よくよく問題と選択肢を読んでもらえればわかりますが、実は選択肢AとCはまったく同じ意味であり、選択肢BとDもまったく同じ意味です。
- 選択肢A = 選択肢C
- 選択肢B = 選択肢D
ということですね。
では、問題1と問題2の回答はどうなったのかというと、以下のようになりました。
〇問題1の回答
対策A: 72%
対策B: 28%
〇問題2の回答
対策C: 22%
対策D: 78%。
質問1と質問2はまったく同じ質問内容、同じ意味の選択肢であったにも関わらず、ほぼ真逆の回答傾向になったのです。
ではなぜこのような結果になったのかというと、質問1の選択肢では「助かる」ことを強調し、質問2では「助からない」ことを強調したからです。
学生たちは、質問1では「必ず200人が助かる選択肢A」と「1/3の確率でしか人が助からない選択肢B」という選択肢を比較し、考えました。
しかし質問2では、「必ず400人が死亡する選択肢C」と「2/3の確率で600人が死亡するが、1/3で全員が救える選択肢D」という比較をしたのです。
その結果、同じ質問、同じ意味の選択肢であったにも関わらず、学生たちの選択がまったくの真逆になってしまったわけですね。
ではなぜ選択肢Aと選択肢Dの回答が多くなったのかというと、以下のようなことが考えられます。
- 「助かる」を強調した質問1の場合、確実に助けることができる200人の命を失うことを恐れた
- 「助からない」を強調した質問2の場合、400人が死亡するという事態をなんとか回避したいと思った
人は「受け取れるものを逃したくない」、「損失を出したくない」という思考傾向を持っています。(のちほど説明しますが、これをプロスペクト理論と呼びます)
そのため、助かる200人に意識がいったときには確実に助けられる200人を手放すことを恐れ、400人が死亡することに意識がいったときには400人の犠牲をなんとかして回避したいという思考が働いたのです。
このように人の選択というものは、表現方法を変えるだけで180度変わることもあります。
これが心理学で提唱されているフレーミング効果なのです。
フレーミング効果と混同されやすい単語
ここからはフレーミング効果と混同されやすい単語についてまとめていきます。
それぞれをしっかりと理解しておけば、よりフレーミング効果を活用することができるようになるので確認しておいてください。
フレーミング効果 | 同じ意味の言葉でも表現方法が変わるだけで捉え方が大きく変わる心理現象 |
プロスペクト理論 | 同じ期待値の選択肢がある場合、人は損失を回避できる方により価値を感じる傾向があるという理論 (利益が手に入らないリスクを回避したり、損失が出ない方の選択肢を優先したりする傾向がある) |
損失回避バイアス | 損失のストレスは同じものを得る喜びの倍以上になるという、行動経済学の考え方 |
フレーミング効果はここまで説明したとおり、同じ意味でも表現方法によって人が受ける印象が変わるというものです。
一方、プロスペクト理論や損失回避バイアスは、「人は利益より損失を重く捉える」という特徴を表しています。
たとえば、100%で100万円をもらえるパターンAと50%で200万円をもらえるパターンBでは、期待値は同じですが、パターンAを選ぶ人が圧倒的に多いです。
これは「50%で何ももらえないという損失を回避しよう」という心理が働いています。
もしくは200万円の負債がある場合、確実に負債を100万円減らすパターンCか、もしくは50%で負債を0にするパターンDか、という選択なら、50%の確率で負債を完全になくしてしまえるパターンDを選ぶ人が多いです。
これは「確実に100万円の負債を負ってしまうというリスクを回避したい」という心理が働き、こういう結果になります。
(参考:Wikipedia_プロスペクト理論)
フレーミング効果を活用する場合、プロスペクト理論や損失回避バイアスについても理解しておくと、より効果的に扱うことが可能です。
マーケティングにおけるフレーミング効果の具体例
実際にマーケティングでフレーミング効果を活用する場合、以下のような具体例が考えられます。
- 栄養ドリンクの成分表記
- 新聞やメディアの見出し
- 商品の満足度
- セールの売り方
- 価格の伝え方
このように見てみると、日常のさまざまなところでフレーミング効果が活用されていると気づくのではないでしょうか。
それでは1つずつ、解説をしていきます。
フレーミング効果の具体例1.
栄養ドリンクの成分表記
栄養ドリンクの成分表記にも、実はフレーミング効果が活用されています。
よく、「タウリン2,000mg配合」という言葉を見かけないでしょうか?
ではここで、以下の2つを見比べてみてください。
- タウリン2,000mg配合
- タウリン2g配合
1,000mg = 1gなので、どちらも配合量は同じです。
しかし、明らかに2,000mgの方がたくさん入っているように感じないでしょうか?
このように、同じ数字でもより大きく見せることで受け取り側の印象を変えることができます。
フレーミング効果の具体例2.
新聞やメディアの見出し
新聞やメディアの見出しも、フレーミング効果を意識して作成されています。
わかりやすい例としては、以下ようなものがありますね。
- ワールドカップ初戦、日本がブラジルを撃破
- ワールドカップ初戦、ブラジルが日本に敗北
これらはまったく同じ意味ですが、日本の東京駅のホームでこの2つの見出しの新聞が並んでいたら、前者の方が売り上げは伸びるはずです。
前者は日本がブラジルに勝利して喜んでいるイメージですが、後者はブラジルが悔しがっているイメージを抱きます。
そのため日本人なら、感情移入しやす前者の新聞を購入するということですね。
このようにターゲットに響きやすいイメージを表現してあげれば、同じ意味の言葉でもより売上を向上させることに繋がります。
フレーミング効果を活用する場合は、ターゲットにどういう立場でメッセージを受け取ってほしいか、というところも意識すると良いでしょう。
また、今回はあくまでも例として出したのでかなりわかりやすいですが、実際、新聞やニュース、ネット記事などはフレーミング効果によって巧妙に印象操作がされている事例も多くあります。
そういう意味では、マーケティングでこちらから攻めるときだけでなく、情報収集を行うときにもフレーミング効果は意識しておきたいところですね。
フレーミング効果の具体例3.
商品の満足度
商品の満足度をアピールする場合も、実はフレーミング効果が活用されています。
たとえば以下2つの商品なら、あなたはどちらに魅力を感じるでしょうか?
- 満足度99%
- ご満足いただけなかったのはたったの1%だけでした
おそらく多くの人が、「満足度99%」という方に魅力を感じるはずです。
逆に「1%が満足できなかった」という情報を与えてしまうと、購入者はその理由や原因といったリスク面が気になって、購入を踏みとどまってしまいます。
このように商品やサービスをより良く見せたい場合、できるだけポジティブな情報を前面に押し出す方がイメージとしては良いです。
逆にネガティブな要素はできるだけ意識させないような言葉選びをするべきであるということですね。
フレーミング効果の具体例4.
セールの売り方
セールを行うときにも、フレーミング効果を使ってお得に見せているところが多くあります。
たとえば、以下のような売り方を比べてみてください。
- 5点同時購入で20%引き(5点セットの束として販売)
- 5点同時購入で1点無料
実はこれ、割引率はまったく同じです。
しかし、「1点無料」という言葉に惹かれる人が多いため、売上は後者の方が伸びます。
このように人は、無料という言葉に弱い傾向があるのです。
実際に、さまざまな場面でよく「ポイント還元で実質無料」という言葉を目にしませんか?
これも表現方法を変えることでお客さんの印象を操作するフレーミング効果であると言えますね。
フレーミング効果の具体例5.
価格の伝え方
価格の使え方でフレーミング効果を活用している事例もあります。
たとえば、月額を伝えるときの表現方法で考えてみてください。
- 1年で36,500円のお支払いです
- 1日あたり100円、毎朝の缶コーヒーと同じお支払いです
どちらも結局ほぼ同じ価格です。
しかし、後者の方が「まぁ、これくらいなら試してみるか」と思ってしまわないでしょうか?
実際、広告やCMを意識して見てみると、「1日あたり〇円」という表記は意外と多く見かけます。
たとえば家電なんかだと、消費電力にかかる費用は1日単位で少なく表現して、節電効果は年間単位で大きく見せたりしますね。
このように、価格を細分化して安いものと比較することでお得感を打ち出すことができるのです。
これも同じ内容の表現方法を変える、フレーミング効果ですね。
フレーミング効果をマーケティングで活かす方法
実際にマーケティングでフレーミング効果を活かしたい場合、以下のようなやり方がおすすめです。
- 広告で活用する
- 価格設定をするときに活用する
それでは、1つずつ解説していきましょう。
フレーミング効果の活かし方1.
広告で活用する
フレーミング効果を活用するうえでもっとも基本的なのは、広告で活用することです。
どのように活用するのかというと、あなたの提供する商品やサービスの特性に合わせて表現方法を変え、お客さんに与える印象を変えます。
フレーミング効果には2つの種類があります。
- ポジティブな情報を強調する「ポジティブフレーミング」
- ネガティブな情報を強調する「ネガティブフレーミング」
この2つのフレーミング効果を商品やサービスによって使い分けることで、より効果的に広告運用をすることができるのです。
まずポジティブフレーミングは、商品の良さを伝えたいときに使います。
たとえば果汁70%のジュースがあった場合、
- 果汁70%のジュース
- 果汁以外のものは30%しか入っていないジュース
なら、あきらかに前者の方がイメージが良いですよね?
このように、商品の良いところを伝えて買わせたい場合は、ポジティブな情報を強調するポジティブフレーミングが向いています。
一方ネガティブフレーミングは、お客さんの「危機から逃れたい、損をしたくない」という感情を働かせたいときに使います。
たとえば脱毛クリームの場合、
- 毛深いと異性から不潔だと嫌われてしまいます
- 脱毛ができていると異性に清潔だと思われて好かれます
という2つなら、前者の「不潔だと嫌われてしまう」というネガティブなところに意識を持っていく表現方法の方が、より売上が上がる傾向にあります。
これはプロスペクト理論でいうところの、「好かれたい」という欲求より「嫌われたくない」というリスク回避の欲求の方が強いことが要因です。
このように、広告を出すときにポジティブ、ネガティブという観点からフレーミング効果を意識すれば、より高い費用対効果を得られます。
自社が取り扱っている商品の場合はお客さんのどちらの意識に働きかければいいのか、ぜひ考えてみてください。
フレーミング効果の活かし方2.
価格設定をするときに活用する
フレーミング効果は、価格設定をするときにも活用することができます。
どういうことかというと、お客さんが同じ価格に感じる印象を変えることで、より会社の利益を伸ばすことができるのです。
たとえば、1万円の商品Aと3万円の商品Bの2種類を売っていた場合は、お客さんは価格を見比べ、安い方を買いやすい傾向があります。
ところがここに5万円の商品Cを追加し、3種類にすることで、真ん中の商品Bがもっとも売れやすくなるのです。
比較対象を増やすと、「5万円に比べれば3万円は安い」、「1万円の商品に比べれば3万円の商品は質が良い」という意識が働きます。
結果、3万円の商品の印象が良くなり、3万円の商品の売上が伸びる傾向にあるのです。
実際「オリジン弁当」という大手チェーン店では、1種類だった幕の内弁当を並450円、上490円、特上690円の3種類にしたことで、490円の上が一番売れるようになり、幕の内弁当全体の売上を70%以上伸ばしたという事例があります。
このような事例は、3つの価格の商品があると真ん中のものが1番売れやすいという「松竹梅の法則」としても有名ですね。
このように比較対象をあえて用意してあげることで、同じ価格、同じ品質でもお客さんの印象を変えることが可能です。
価格設定をするときは、ぜひ比較対象を意識してみてください。
あとはフレーミング効果とは少し異なりますが、商品の価値の伝え方によって価格に対する印象が大きく変わるというところも抑えておきたいです。
たとえば、以下を見比べてみてください。
- 少数しか出荷されない貴重なブランド牛を使用したハンバーグ 2,980円
- 日本で年間3頭しか出荷されない貴重なブランド牛を使用したハンバーグ 2,980円
どちらも2,980円の同じハンバーグですが、ブランド牛の出荷数の少なさを数字で表現した後者の方が、より価値の高いものに見えるのではないでしょうか。
このように価値をしっかりと伝えられているかいないかで、同じ価格でもお客さんの抱く印象というのは大きく変わってしまいます。
前者なら高いと思ったお客さんでも、後者なら安いと思ってくれるかもしれないということですね。
結局のところ商品の価格は、お客さんが感じる価値によって決まります。
原価が100万円かかる商品でもお客さんが価値を感じなければ0円ですし、原価が10円しかかからない商品でもお客さんが大きな価値を感じてくれれば100万円で売ることもできるのです。
実際、弊社のクライアントの中には、自分のサービスの価値をしっかりと伝えることで単価が20倍にまでアップした治療院経営者さんの事例があります。
それも客層を一般の人から富裕層に変えたわけではなく、同じ一般の客層にサービスを提供し続けての結果です。
言い方を変えれば、サービスが持つ価値の伝え方を変えただけで価格が20倍になっても納得してくれるお客さんがたくさんいたということですね。
それくらい価値の伝え方(表現方法)というのは、お客さんの心理に影響するものなのです。
実際、日本の中小企業の中には、この価値を伝えるというところが不十分で安すぎる価格設定をしてしまっている会社がたくさんあります。
価格設定が安すぎれば、忙しく働いても利益が十分に出ないため余裕が作れず、結局、社長が身体を壊して倒産するという最悪のケースにも繋がりかねないのです。
だからこそあなたの会社で価格を設定する場合はそうならないように、価値の表現方法を工夫したうえで、しっかりと価値に見合った報酬をいただきましょう。
価格設定をする場合にも、フレーミング効果や価値の伝え方についてはしっかりと意識しておきましょう。
【まとめ】マーケティングではフレーミング効果を意識するべき
今回は、同じ意味でも表現方法や伝え方によって受け取り方が大きく変わるというフレーミング効果について解説をしてきました。
マーケティングでは主に、広告運用や価格設定をするときに活用することができます。
活用するのとしないのとでは費用対効果や利益率が大きく変わってきますので、ぜひ意識するようにしてみてください。
とくに価格設定をするときにフレーミング効果を意識するというところは、意外と抜けている人も多いです。
しかし実際は、弊社のクライアントのように価格を20倍にまで上げてしまった事例も存在するくらい、商品の表現方法や伝え方というのは大切なことになります。
同じ価格でも伝え方によって、お客さんが高いと感じたり、反対に安いと感じたりするのです。
もし現状の価格設定が比較対象や価値の伝え方を意識せずにされているものであるなら、ぜひこの機会に設定を考え直してみてください。
フレーミング効果を意識すれば、よりマーケティングで攻めることができるようになります。
会社の利益にも間違いなく直結するはずなので、ぜひ今後はマーケティングを行うときにフレーミング効果を意識するようにしてみてください。