今回のテーマは「コアコンピタンス経営」についてです。
いきなりですが、実はコアコンピタンス経営は大手企業向けの経営戦略であり、あまり中小企業には向いていません。
というより、中小企業が真似をしようとしてもできないケースが非常に多いです。
しかしそれでもなお、あなたが社長なら、コアコンピタンス経営についてはよく理解しておくべきだと言えます。
なぜなら既存の経営戦略を学ぶことは、自社の戦略を立てるときの参考となるからです。
当たり前なことですが、社長にとって経営戦略を考えることは非常に重要な仕事の1つです。
社長であるあなたが経営戦略をうまく立てられれば、小さな労力で大きな利益を生み出すことが可能となります。
逆にもし経営戦略をうまく立てられなければ、目の回る忙しさなのにほとんど利益が出ない、という状態になってしまうのです。
つまり、社長が経営戦略を考える能力をどれくらい持っているかということが、そのまま会社の命運を分けてしまうわけですね。
そこで今回はコアコンピタンス経営を軸にして、中小企業の社長向けに以下のようなお話しをさせていただきます。
- コアコンピタンス経営の具体的な意味
- コアコンピタンス経営で成功している企業の具体例
- コアコンピタンス経営を踏まえて中小企業がとるべき戦略
コアコンピタンス経営をよく理解することで、より自社に合った経営戦略を立てましょう。
コアコンピタンス経営の具体的な意味とは?
コアコンピタンスとは「他社には真似することのできない、ビジネスをするうえで核となる圧倒的な能力」のことで、それを使った経営手法が「コアコンピタンス経営」です。
「ゲイリー・ハメル氏」と「C・K・プラハラード氏」の両名によって提唱された言葉で、以下の3つを兼ね備えていることが条件となっています。
- 顧客に何らかの利益をもたらす自社能力
- 競合相手に真似されにくい自社能力
- 複数の商品・市場に推進できる自社能力
(引用:Wikipedia)
まず第一に、お客さんに価値を与えることができる能力であるというのがコアコンピタンスの前提条件となります。
お客さんに価値を感じさせることができなければ対価を得ることもできないため、そもそも経営で使える能力とは言えないからです。
そして次に、競合相手が簡単に真似することのできない独自の能力である必要があります。
仮に独自の能力を生み出したとしても、簡単に真似ができてしまう場合はすぐに同様の能力を持つ競合が生まれてくるはずです。
そうなってしまえばもはや圧倒的な能力であるとは言えないでしょう。
そしてもう1つ見落としがちなのが、複数の商品や市場で使える能力であるということです。
たとえ価値が高くて競合他社が真似できない能力を持っていたとしても、1つの市場で1つの商品を売るためにしか使えない場合、その能力はいつか通用しなくなってしまいます。
なぜなら市場は常に動いているもので、今売れているものがいつまでも売れるとは限らないからです。
応用の利かない能力を経営の核としてしまえば、時代の変化とともに会社の存続すら危うくなるかもしれません。
以上の3つを兼ね備えたものがコアコンピタンスです。
例を挙げると以下のようなものがコアコンピタンスであると言えます。
- 競合他社では真似のできない技術力
- 競合他社では追いつけないレベルの優秀な人材
- 競合他社とは一線を画したブランド力
このように競合他社では真似のできない圧倒的な能力を身につける戦略のことを「コアコンピタンス経営」というのです。
コアコンピタンスとケイパビリティの関係性
ここからは補足として、コアコンピタンスとケイパビリティの違いや関係性について説明していきます。
ケイパビリティについては、コアコンピタンスの話をするさいによく疑問に挙がるものです。
この機会に理解しておき、自社の経営戦略を考えるさいに役立ててください。
ちなみにケイパビリティとは、競合他社に対して優位性がある組織的な能力のことです。
ケイパビリティを提唱した「ジョージ・ストークス氏」、「フィリップ・エバンス氏」、「ローレンス E.シュルマン氏」の3名は、論文内で以下のように語っています。
- コア・コンピタンスはバリューチェーン上における特定の技術力や製造能力である
- ケイパビリティはバリューチェーン全体におよぶ組織能力である
バリューチェーンとは、付加価値を生み出している機能について競合と比較し、どの部分に強み・弱みがあるかを分析したうえで経営戦略の分析や改善を行うことです。
つまり、コアコンピタンスは「バリューチェーンの中でも付加価値を生み出している部分の能力(仕組みの能力)」であるのに対し、ケイパビリティは「バリューチェーンを行うさいに確認する全体の能力(組織の能力)」であると定義されているわけですね。
基本的にコアコンピタンスはケイパビリティの中から生まれてきます。
そういう意味で考えればコアコンピタンス経営をする場合、ケイパビリティは無視することのできないものだと言えるでしょう。
コアコンピタンスを持つ企業の具体例
実際にコアコンピタンス経営を行っている企業には以下のようなものがあります。
- トヨタ
- 味の素
- 富士フィルム
ここからはそれぞれの企業がどのようなコアコンピタンスを持ち、どのように経営に役立てているのか、その成功事例を紹介していきましょう。
コアコンピタンスを持つ企業の具体例1.
トヨタ
世界的企業である「トヨタ」が持っているのは、「トヨタ式生産システム」というコアコンピタンスです。
トヨタの生産システムは競合他社に比べて生産効率が非常に高く、無駄がありません。
なぜそのようなことが可能なのかというと、「必要なものを、必要なときに、必要な数だけつくる」というジャストインタイムと言われる生産方式を採用しているからです。
それに加えトヨタは、徹底した自動化によって生産効率を大きく向上させています。
この「ジャストインタイム」と「自動化」によって成り立っているのが「トヨタ式生産システム」なのです。
ちなみにこれはトヨタが持つ豊富な経験と高い技術力のうえに成り立っているものなので、当然ながら競合他社が簡単に真似できるようなものではありません。
トヨタ式生産システムは、コアコンピタンスに必要な3つの条件を以下のように満たしています。
- 自動車業界において圧倒的なシェアを誇っている
- 競合他社には真似のできない生産システムである
- さまざまな製品をつくるときに応用できるシステムである
トヨタ式生産システムは、まさにトヨタという企業を支えているコアコンピタンスなのです。
コアコンピタンスを持つ企業の具体例2.
味の素
調味料で有名な「味の素」は、「アミノ酸に関わる技術力」というコアコンピタンスを持っています。
味の素は創業1909年で、実は100年以上続いている企業です。
その100年という長い期間を味の素は、アミノ酸に関わる技術力というコアコンピタンスで戦い抜き、世界中で多くの支持を得ることに成功しました。
- 世界中で多くの支持を得ることに成功している
- 競合他社に真似のできない技術力である
- その技術を基に多くの商品を生み出している(100年以上愛され続けている)
味の素の技術力は以上のようにコアコンピタンスの条件である3つの項目を満たしているわけですね。
コアコンピタンスを持つ企業の具体例2.
富士フィルム
富士フィルムは「精密技術」というコアコンピタンスを持っています。
カメラフィルムが全盛期であった当時、富士フィルムはその高い技術力でフィルム製造について多くのシェアを獲得していました。
しかし昨今、デジタルカメラの普及によってフィルムの売上は大幅に減少してしまったのです。
そこで富士フィルムは、コアコンピタンスである精密技術を活かして高品質なコラーゲンを作り出し、美容や医療の市場へと参入していきました。
富士フィルムのコアコンピタンスは、まさに複数の市場で活きる能力だったわけですね。
- 質の良いフィルムやコラーゲンを作り出すことができる
- 競合他社には真似のできない技術である
- 精密技術を基に、カメラのフィルムから美容液と幅広い商品を開発することができる
富士フィルムの精密技術は、このようにコアコンピタンスの条件を満たしています。
カメラフィルムと美容液ではまったく違う商品になりますが、それでもその根本を支えているのは高い精密技術なのです。
コアコンピタンス経営は中小企業に向かない
冒頭でもお話ししましたが、ここまで説明してきたコアコンピタンス経営は、実は中小企業には向いていません。
なぜならコアコンピタンスを持っている企業のほとんどが大企業であり、そもそも中小規模のビジネスにおいてはそこまでの強みを必要としないからです。
そもそもコアコンピタンスを持つためには、競合他社が真似できないような強みを持っていなくてはいけません。
これはただ差別化を図るだけとは比べ物にならないほど高いハードルになります。
それこそ大企業は、このコアコンピタンスを得るために膨大な費用をかけた研究であったり、長い歴史の中で培った経験であったりを軸としているのです。
つまり、先に説明したケイパビリティ(組織力)のレベルが全然足りないというわけですね。
もちろん、社長であるあなたが他者には絶対に真似できないような天才的なスキルを持っているという場合には例外もあり得ます。
しかしそうでない場合、今からコアコンピタンスを作ろうという考え方はしない方が無難です。
コアコンピタンス経営はあくまでも大企業向けの経営戦略なのだと考えておきましょう。
中小企業がとるべき経営戦略とは?
コアコンピタンス経営は大企業向けの経営戦略であるというお話をしましたが、では中小企業はどうすれば良いのかという疑問を持ったかと思います。
結論から言うと、中小企業は「差別化戦略」を行うべきです。
そもそも中小規模でビジネスを行う場合、競合他社の追随を許さないような圧倒的な強みは必要ではありません。
なぜなら、中小規模のビジネスでは市場シェアの大部分を得る必要がないからです。
では中小企業に必要なものは何なのか?
それは、一部のお客さんから深く必要とされることです。
たとえばあなたが個人で居酒屋を経営していた場合、「魚民」や「ワタミ」といった大企業に勝とうとは思わないのではないでしょうか?
せいぜい近所にある一店舗をライバル視するくらいで、企業そのものには戦いを挑まないはずです。
とくに価格面で言えば、大企業の仕入れや生産システムに勝つことはかなり難しいと言えるでしょう。
ではどうすれば良いのかというと、「魚民」や「ワタミ」とは差別化を行い、一部のお客さんから熱烈な支持を受けるような経営をするべきです。
そうすれば一部のお客さんはあなたのお店に大きな価値を感じてくれるようになり、多少割高でも喜んでお金を払ってくれるようになります。
つまりお客さんの数は少なくとも、その分価格を上げることで利益を確保できるようになるわけです。
そしてそのために必要なのは、核となる「コアコンピタンス」を持つことではなく、差別化のできる「コンピタンス(強み)」をお客さんに知ってもらうことなのです。
実際に弊社クライアントである治療院経営者さんは、自分が持つ技術の価値をお客さんに伝えることで価格を20倍にまで上げることに成功しました。
自分の強みを伝え、そこに価値を感じてくれるお客さんだけを相手にするようにしたのです。
結果、以前は寝る間も惜しんで仕事をしていたその経営者さんは、自分の時間を確保しつつ利益を大幅に伸ばすことができました。
このように中小企業の場合、市場シェアを独占できるような能力は必要ではありません。
それよりも自社が持つ強みをきっちりと把握し、お客さんに伝え、ファンを作ることの方が重要なのです。
自社のコンピタンス(強み)を分析する方法
差別化を図れるような自社の強みを分析する方法としては、直接お客さんに聞いてみるということが非常に重要です。
「あなたは気付いていますか?」の記事内で弊社代表の北岡も説明していますが、ただ社内で自社の強みについて考えているだけではいつまで経っても答えは出せません。
なぜならそれはお客さんや競合他社を見ていない独りよがりな思考だからです。
そこでお客さんに対して、「あなたがこうなりたいと描く理想の未来に対して自分の会社はどのような形で価値提供できますか?」というような質問をしてみてください。
直接聞いてみても構いませんし、アンケートを取ってみても構いません。
この質問を徹底して繰り返していけば、お客さんが本当に望む価値に寄り添った強みを見つけ出すことができるはずです。
もちろん、そこで見つける強みは競合他社の追随を許さないようなコアコンピタンスである必要はありません。
中小企業の規模であればコンピタンス(強み)をしっかりとお客さんに伝えるだけでも十分な価値提供になり、利益に繋げることができるはずです。
【まとめ】コアコンピタンスを作るよりもコンピタンスを伝えることが重要
今回は大企業向けの経営戦略であるコアコンピタンス経緯について説明をしてきました。
コアコンピタンスとは「他社には真似することのできない、ビジネスをするうえで核となる圧倒的な能力」のことで、それを使った経営手法が「コアコンピタンス経営」だということでしたね。
しかし私たち中小企業の場合、コアコンピタンスを持つことは至難の業であると言えます。
競合他社が真似できないような技術は膨大な費用をかけた研究であったり、長い歴史の中で培った経験であったりを軸としているので、そうそう作り出せるものではないわけですね。
もし今からコアコンピタンスを作り出そうとしているのなら、本当にそれが必要なのかどうかを考えてみましょう。
そもそも中小規模で行うビジネスの場合、市場シェアを独占しに行く必要なんてありません。
必要なのは自社の商品が持つ価値をしっかりと理解してくれる一部の優良顧客です。
そしてそんな優良顧客を得るために必要なのはコアコンピタンスを持つことではなく、お客さんにコンピタンス(強み)を伝え、いかに価値を感じてもらえるかというところなのです。
ただもちろん、コアコンピタンス経営の考え方は間違ったものではありません。
大企業向けであり、難易度が高いということが問題なだけです。
書籍やブログ、セミナーといった世間には大企業向けの経営戦略がたくさん溢れていますが、そこから学んだうえで、中小企業の自分たちにとっては何が不要でなにが必要なのかということを考えるようにしてみてください。
大企業向けの経営戦略から不要なものを取り除いてシンプルに考えられるようになれば、あなたの会社にとって向いている経営戦略を立てられるようになるはずです。