今回は企業の事業を立て直すための「事業再生」について解説します。
事業再生という言葉を耳にしたことがあっても、実際に事業再生がどのような意味を持つのか知っている人は少ないのではないでしょうか?
事業再生とは、倒産手続きの1種で倒産状態になった企業が業績の悪化している事業を立て直し、業績を好転させることです。
もしかすると、この記事を読んでいる方の中には「事業再生はうちには関係ない」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、事業再生は意外にも身近なものなのです。
株式会社東京商工リサーチによると、2019年1〜6月の間に倒産した日本の企業は3990社と報告されています。(出典:全国企業倒産状況)
単純計算ですが、これを1年に換算すると約8000社もの企業が倒産することになります。
これだけ多くの企業が倒産に追い込まれているということは、あなたの経営する会社も倒産してしまう可能性は否定できません。
そのようなときのために事業を改善し、経営を安定させる事業再生という手段があるということを覚えておいていただきたいのです。
- 売上が上がらない
- 売上が下がってきた
- 赤字が続いている
もし、あなたの経営する会社がこのような状態であれば、経営破綻してしまう可能性もあります。
自社の経営破綻を未然に防ぐためにも、事業再生を行ってください。
この記事では、事業再生について以下の内容を中心に解説していきます。
- そもそも事業再生とは?事業再生の2つの種類を解説
- 事業再生を行うメリット
- 事業再生を行うデメリット
- 事業再生の流れ
- 事業再生を成功させる4つのポイント
自社の事業を好転させ、経営を安定させたい方はぜひ参考にしてください。
そもそも事業再生とは?事業再生の2つの種類を解説
冒頭でも解説しましたが、事業再生とは「倒産に陥った企業が成績が悪化している事業を立て直して業績を好転させること」です。
事業再生を行う目的は、自社の事業を立て直して経営を安定させることです。
倒産してしまったけれど、事業に再生できる見込みや価値がある場合には、事業再生を行って経営を続けることができるのです。
反対に破産手続きや廃業手続きを行った場合には、企業が保有している資産などを債権者や株主に分配し、経営を続けることはできなくなります。
どちらを選ぶのも債務者の自由ですが、事業再生を行う場合には次のポイントを抑えておくと良いでしょう。
- 事業自体に再生させる価値がある
- 事業を再生をできる見込みがある
ここでいう再生とは、債務者の負債をなくして資金繰りを問題なく行える状態にするということです。
上記2つのポイントを抑えることができなければ、事業再生は諦めるほうが良いかもしれません。
また、事業再生には2つの種類があります。
- 法的再生
- 私的再生
債務者はこれらいずれかの方法で事業再生を行います。
それぞれの種類について詳しく解説していきましょう。
事業再生の種類1.法的再生
事業再生の1つ目の方法は、法的再生です。
法的再生とは、裁判所に仲介してもらいながら事業再生を行う方法です。
法的手続きには以下の3種類があります。
- 民事再生手続・・・民事再生法に基づき債務者が企業の再生を図る。債務者の事業再生を速やかに行うことを目的とした手続。
- 会社更生手続・・・会社更生法に基づき管財人が株式会社の再生を図る。関係者の利害を調整して事業再生を図る手続
- 特定調停手続・・・裁判所が仲介に入り、債務者と債権者の利害と債務の調整を行い事業再生を行う手続
資金繰りや経営状況に応じた手続を行うことで、事業再生を成功させやすくなります。
法的再生の場合、裁判所が手続を仲介してくれるため、手続が公平であり確実性が高いです。
また、債権者の権利を一時的に禁止するなどの法的拘束力も行使できます。
そのため、債権者が権利を行使して事業継続に必要な資産や資本を差し押さえられたり、裁判所が再建計画を認可すれば事業再生を行いやすくなったりというメリットがあります。
ただし、法的手続を行うと自社が倒産状態だということが公になり、企業イメージが悪くなり事業基盤が損なわれる可能性があります。
弁護士費用や予納金など、経済的な負担も増えてしまうため、経済的な余裕があり事業再生を確実に進めたい場合には、法的再生がおすすめです。
事業再生の種類2.私的再生
私的再生は、裁判所が仲介せずに事業再生を行う方法です。
私的再生では裁判所が仲介しないため、債権者の権利を法的に禁止したりすることができません。
そのため、債務者が債権者と直接交渉をして、債権者の権利を変更してもらい事業再生を行います。
法的再生とは違って、裁判所や法律の介入がないため、私的再生には次のような特徴があります。
- 法的再生よりも柔軟な解決法を考えられる
- 手続きに必要な費用負担が少ない
- 倒産の事実を公にしなくても良い
- 短期間で再生することが可能
私的再生は法的再生よりも、柔軟に事業再生を進めることができます。
しかし、法的再生のような公平さや確実性はなく、債権者の同意がなければ事業を再生することはできません。
そのため、私的再生を成功させるためには債権者との交渉がカギを握っています。
事業再生を私的再生だけで行うことは難しいと考えられることも多く、法的再生と上手く組み合わせて事業再生を行うことが望ましいでしょう。
事業再生ADRとは?
事業再生ADRとは私的再生の1種で、経済産業省から認定された公正で中立な第三者機関が介入して、事業再生の手続きや交渉を進めていく方法です。
平成19年の法改正により新たに創設されたADRは2017年度から利用件数が増加傾向にあります。(出典:株式会社東京商工リサーチ「事業再生ADR、申請が2年連続で増加」)
事業再生ADRは私的再生の1種のため、手続きや交渉のやりとりは基本的に債務者のみと行われます。
私的再生の他の方法とは違い、公正な立場の第三者機関が介入するため、私的再生でありながら信頼性のある手続きを行うことができます。
事業再生と企業再生の違い
事業再生と似ている言葉に企業再生という言葉があります。
事業再生 | 倒産状態の企業が自社の事業の中で、業績が悪化している事業を改善し、業績を良好にすること |
企業再生 | 倒産状態の企業が自社を存続させるために、自社が行う取組の一部、またはそのすべてを改善し、業績を良好にすること |
2つの言葉は基本的には同じ意味ですが、事業に着目するのか企業全体に着目するのかくらいの違いしかありません。
事業再生を行う3つのメリット
次に事業再生を行う3つのメリットを紹介します。
事業再生を行うメリットを知っておくことで、事業再生を行うかの判断ができます。
- 事業再生のメリット1.事業を立て直すことができる
- 事業再生のメリット2.企業や経営者の信用度への影響が少ない
- 事業再生のメリット3.債権者により多くの返済ができる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
事業再生のメリット1.事業を立て直し経営を続けられる
1つ目のメリットは、事業を立て直すことができるということです。
事業再生を行い、事業を立て直すことができれば業績を好転させ、企業経営を続けることができます。
企業が倒産状態に陥ったときに、破産手続きなどの生産型手続きを行った場合、事業どころか企業経営を続けることができません。
破産手続きを行うと、企業が保有している資産を債権者に分配したあとに会社はなくなってしまいます。
せっかく成長させた事業や会社を立て直せるチャンスがあるということが、事業再生を行う最大のメリットなのです。
事業再生のメリット2.企業や経営者の信用度への影響が少ない
2つ目のメリットは、企業や経営者の信用度への影響が少ないということです。
事業再生を成功させて、企業の経営を続けられた場合、破産や廃業をする場合ほどの信用への影響はありません。
破産や廃業をしてしまうと、企業や経営者の地位や実績が崩れてしまい、社会的な信用が落ちてしまうこともあります。
事業再生を行うことで企業を存続させられるため、企業や経営者の信用度への影響が少なくなるのです。
事業再生のメリット3.債権者により多くの返済ができる
3つ目のメリットは、債権者により多くの返済ができるということです。
事業再生に成功し、業績を立て直すことができた場合には、債権者により多くの返済ができる可能性があるのです。
破産や廃業手続きをしてしまうと、企業の資産を債務者に分配して返済を行いますが、それでは負債額をすべて返済することはできません。
そのため、債権者により多くの返済を行なうためには、事業再生が有効なのです。
また、債権者との交渉でも事業再生が成功したときには、本来の負債額よりも多く返済するという交渉もできます。
事業再生に失敗してしまったり、業績が思うほど好転しなかった場合には、返済金を増やすことが難しいこともありますが、交渉の一つの手段として覚えておきましょう。
事業再生を行う3つのデメリット
次に事業再生を行う3つのデメリットを解説します。
メリットと同時にデメリットを知っておくことで、事業再生を行う判断をしやすくなります。
- 費用がかかる
- 精神的なプレッシャー
- 債権者に迷惑がかかる
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
事業再生を行うデメリット1.費用がかかる
1つ目のデメリットは、費用がかかるということです。
ただでさえ、資金繰りが上手く行かないことが原因で倒産状態にあるにも関わらず、事業再生をするためにさらに費用が必要になるのです。
特に法的再生は、弁護士費用や予納金がかかるため、費用が高くなってしまいます。
事業再生の手続きや負債額によって、発生する費用は大きく変動するため、事業再生を行う前にどれくらいの費用がかかるのか見積もりを行っておきましょう。
事業再生を行うデメリット2.精神的なプレッシャーが大きい
2つ目のデメリットは、精神的なプレッシャーが大きいということです。
事業再生を行うときには、
- 財務状況の確保
- 資金繰り計画
- スポンサーの獲得
- 事業再生が成功できるのかという不安
など、さまざまな要因がプレッシャーになると考えられます。
事業再生は、債権者への債務返済が終わるまで完了しません。
そのため、これらのプレッシャーと長期間、向き合わなくてはいけないのです。
最低でも手続き開始から3ヶ月、長い場合だと数年かかることもあります。
事業再生を行うときには、精神的負担が大きいということを覚えておきましょう。
事業再生のデメリット3.債権者に迷惑がかかる
3つ目のデメリットは、債権者に迷惑がかかるということです。
事業再生を行なう場合、債権者と負債の返済やスケジュールについて交渉をし、返済条件を一時的に緩和してもらう必要があります。
たとえば、
- 債権者への返済を引き伸ばししてもらう
- 月々の返済額を減額してもらう
このような対応をしてもらえるように交渉をすることがあるのです。
ただし、これらは債権者からすると迷惑です。
なかには快く対応してもらえることもあるかもしれませんが、債権者に迷惑をかけているということは認識しておきましょう。
事業再生の5つのステップ
次に事業再生の流れを解説します。
前述しましたが、事業再生には数ヶ月から数年かかります。
具体的な流れとしては、以下の5ステップが必要になります。
- 原因の明確化と現状把握
- 再生方法を決める
- 事業再生後までの事業計画を作成する
- 資金を確保する
- 再生手続を行う
事業再生の流れとスキームを理解して、事業再生に備えましょう。
ステップ1.原因の明確化と現状把握
事業再生を行うときに最も重要なのは、倒産原因の明確化と現状把握です。
「なぜ倒産してしまったのか」
「いま会社がどのような状況なのか」
これらを明確にしておかなければ、事業再生を成功させることは難しいですし、成功できたとしてもまた倒産してしまう可能性があります。
事業再生を成功させるため、倒産を繰り返さないためにも原因の明確化と現状把握は必ず行いましょう。
ステップ2.再生方法を決める
倒産した原因と現状を確認したら、事業再生の方法を決めましょう。
自社の資金状況やスポンサー状況などに応じて、どの再生方法で事業再生を行うことが良いのかを判断しましょう。
このときに、再生できなかったり、再生できる価値がないと感じた場合は、破産をすることも一つの手段です。
莫大な時間や費用がかかるため、冷静に考えて再生方法を決めましょう。
また、どのようにして再生方法を決めたらいいかわからない場合には、弁護士に相談することも一つの手です。
ステップ3.事業再生後までの事業計画を作成する
事業再生の方法が決まれば、次に事業計画を作成しましょう。
ここでポイントになるのは、事業再生後までの事業計画を作成するということです。
理由は2つあります。
- もう一度倒産しないように資金繰りや事業計画を改善する
- スポンサーや債権者との交渉に使用する
事業再生後の事業計画を作成することで、資金繰りや事業計画を改善して倒産を繰り返さないように準備する必要があるのです。
また、事業再生後までの事業計画を立てておかなければ、債権者やスポンサーとの交渉で相手を説得することができません。
繰り返しになりますが、事業再生には莫大な資金が必要です。
資金を獲得するためにも、事業再生後までの事業計画をしっかりと作成しましょう。
ステップ4.資金を確保する
事業計画が作成できたら、次に資金を確保しましょう。
事業再生には、莫大な費用が必要ですが、倒産状態の企業が自己資本だけで事業再生にかかる費用を賄うのは難しいことがほとんどです。
そのため、資金を確保する必要があるのです。
資金調達の方法はさまざまですが、中小企業が事業再生を行う場合にはスポンサーを募集することが多いです。
また、行政や金融機関が事業再生の支援を行っている場合もあるため、そちらを利用することも考えるとよいでしょう。
資金調達については、オクゴエの別記事でも詳しく解説しています。
事業再生の資金を調達したい方は、ぜひ参考にしてください。
資金調達とは?資金調達を行う30の方法と成功させる3つのポイントを解説
ステップ5.再生手続を行う
資金が調達できたら、再生手続を行いましょう。
法的再生の場合は、裁判所や弁護士に依頼をすることにもなるため、手続きが多いです。
私的再生の場合は、裁判所の手続きが必要ありませんが、事業再生ADRを利用する場合は、SDR業者への手続きが必要になります。
前もってスケジュールを立てて、手続きに何が必要なのか、どれくらいの時間がかかるのかを把握しておきましょう。
事業再生を成功させる2つのポイント
最後に事業再生を成功させる2つのポイントを紹介します。
事業再生は必ずしも成功するものではありません。
そのため、次の2つのポイントを抑えておきましょう。
- 再生する価値のある事業であるかを見極める
- 金融機関や行政の再生支援を利用する
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
ポイント1.再生する価値のある事業であるかを見極める
1つ目のポイントは、その事業が再生する価値のある事業なのかを見極めるということです。
そもそも事業が再生する価値がない場合、事業再生をする意味がありません。
また、事業再生を検討するときに、市場でその事業は需要があるのかを再確認することも必要です。
市場に需要がない場合には、事業再生をしたとしても、業績を上げることは難しいです。
そのため、事業再生を行う前の段階で、自社の事業が社会にとって必要なものなのか、必要とされているのかを冷静に判断しましょう。
ポイント2.金融機関や行政の再生支援を利用する
2つ目のポイントは、金融機関や行政の再生支援を利用することです、
行政機関はもちろん、一般の金融機関でも再生支援をおこなっています。
事業再生を自社だけで行うのではなく、再生支援をおこなっている機関に協力してもらうことで、事業再生を成功しやすくなるのです。
中小企業庁は中小企業向けに再生支援をおこなっています。
再生支援のスキームも公開されているので、気になる方はぜひご覧ください。
【まとめ】事業再生をして企業を存続させよう
企業が倒産してしまったときには、破産以外にも方法があるということは覚えておきましょう。
企業の事業が上手くいかずに倒産状態にある場合は、事業再生を行なうことで事業を立て直して業績を好転させることができるかもしれません。
事業再生によって、経営を続けられるだけでなく、社会的な信用や債権者により多くの返済を行うことができます。
反対に破産手続きをおこなってしまうと、経営を続けることはできなくなり、企業は廃業してしまいます。
事業を立て直す価値がある場合は、事業再生を行なうことをおすすめします。
ただし、そもそも企業にとっては倒産しないことがベストですよね。
そのため、事業再生を行わなくてもいいような経営を続けられることを目指しましょう。
具体的には、資金繰りや利益率の改善を行なうことで、倒産を未然に防ぐことができます。
特に利益率を改善しなければ資金繰りを改善することは難しいです。
この記事を読んでいる経営者の方の中にも「利益率を改善することが難しい」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そのような経営者の方に一度検討していただきたいのが、自社商品の価格アップです。
倒産する多くの企業は販売不振が原因ですが、そもそも利益率が低い企業も多いです。
そのため、自社商品の価格をアップすることで利益率を改善することができます。
そこでオクゴエでは、価格をアップして利益率を改善した成功事例を3つ紹介しています。
適切な価格設定ができれば、利益率と資金繰りを改善することができ、倒産を防ぐことも可能です。
自社の経営を続けるためにも事業再生と併せてチェックしておきましょう。