今回の記事では、「事業ドメイン」について解説をしていきます。
事業ドメインでいうところのドメインとは、Web関係の言葉ではありません。
ドメイン(domain)という英語を直訳すると領域という意味になり、事業ドメインはその名のとおり事業で活動する領域のことを指しているのです。
この事業ドメインをしっかりと設定しおけば、事業の方向性や競合相手を明確にすることができます。
逆に言えば、ブレずにビジネスをやるためには事業ドメインの設定が必要不可欠であるとも言えるわけですね。
そこで今回は事業ドメインについて、以下のような内容をお話ししていきます。
- 事業ドメインの意味や定義
- 事業ドメインの設定方
- 事業ドメインが機能している成功事例
ぜひ今回の記事を参考にして、あなたの会社でも事業ドメインを設定してみてください。
事業ドメインの意味や定義とは?
冒頭でもお話ししたとおり、事業ドメインとはあなたの会社が事業において活動する領域のことです。
では具体的に領域とは何なのかというと、主に以下のようなものを指します。
- 誰に提供するのか
- 何を提供するのか
- どのように提供するのか
事業ドメインにおける領域とは、これらをしっかりと決めておくことで定まる活動領域のことなのです。
たとえば、同じ「絵を売るという個人ビジネス」をしているAさんとBさんがいたとします。
この2人の事業ドメインは、以下のように決定されていました。
〇Aさん
- 誰に → 絵を愛する人
- 何を → 世界で認められている芸術
- どのように → しっかりと顧客の好みを把握して
「絵を愛する人に、その人に合った芸術的な絵画を提供する」
〇Bさん
- 誰に → 街を歩く観光客
- 何を → 絵で笑顔になってもらう
- どのように → 自分が絵を描くところを実際に見てもらって
「どんな人でも笑顔になれるような絵をその場で描きあげる」
いかがでしょうか?
AさんとBさんは両方とも同じ絵を売るビジネスをしているわけですが、イメージが全然違うのではないでしょうか。
Aさんの場合、芸術品を取り扱う古物商のイメージですが、Bさんの場合、街で似顔絵を描いて売っている絵描きさんというイメージですね。
このように同じ絵を売るというビジネスでも、事業ドメインの違いによって活動領域が大きく変わってきます。
活動領域が違えば当然競合や戦略も変わってくるため、事業ドメインを設定して把握しておくことはとても重要であると言えるのです。
事業ドメインを設定しておくメリット
自社の事業ドメインをしっかりと設定しておけば、以下のような3つのメリットを得ることができます。
- ビジネスの軸がブレなくなる
- 意識すべき競合相手が明確になる
- 事業ドメインを設定すれば商品価格を上げることができる
それでは1つずつ説明していきましょう。
事業ドメインを設定しておくメリット1.
ビジネスの軸がブレなくなる
まず事業ドメインがはっきりと設定されていれば、ビジネスの方向性が明確になって軸がブレなくなります。
逆に事業ドメインがはっきりとしていなければ、あれやこれやと余計な施策に手を出してしまうことにもなりかねません。
そうなれば余計な部分に労力や資金を費やすことになり、事業の利益率を大きく下げてしまう要因になってしまうのです。
一方、事業ドメインの設定によって軸がブレなくなれば、効果性の高いところに注力することができるようになるため、商品やサービスの質を高めることにも繋がります。
さらに一点集中型の事業ドメインを持っている企業は、その専門性がお客さんに評価される可能性も高いです。
これは事業ドメインの設定によってブランド力が付くのが要因となっていて、よく街で見かける「〇〇専門店」などが良い例ですね。
商品の質が高くなり、さらに専門性をアピールすることができれば、より多くの人があなたの会社や商品を好きになってくれるはずです。
事業ドメインを設定しておくメリット2.
意識すべき競合相手が明確になる
事業ドメインを設定するもう1つのメリットとして、競合相手が明確になるというものがあります。
たとえば先ほど例として挙げた、芸術絵画を売る古物商で考えてみましょう。
この古物商にとって街で似顔絵を描いて売る絵描きさんは、同じ絵を売る仕事であったとしても客層が大きく違うため、そこまで大きな競合にはなりません。
しかし、アンティーク家具を売るような古物商が相手であった場合、たとえ絵画を扱っていなくても客層が似てくるため強力な競合となる可能性が高いです。
顧客の立場を考察すると、たとえば「あの場所には絵画を飾るかアンテーク家具を置くかどちらが良いだろう?」といった選択肢が生まれると考えられますね。
このように事業ドメインが明確になっていれば、どのような客層のどのようなキャパシティを取り合うのかが明確になってくるため、競合相手をより明確に特定することができるのです。
事業ドメインを設定しておくメリット3.
事業ドメインを設定すれば商品価格を上げることができる
もう1つ忘れてはいけないメリットに、事業ドメインを設定することによって商品価格を上げることができるというものがあります。
事業ドメインのメリットの1つに、ビジネスの方向性が明確になり、より多くの人にあなたの会社を好きになってもらうことができるという話をしました。
この「より多くの人に好きになってもらう」という部分は、言い換えればお客さんにより価値を感じてもらうことができるという意味になります。
そしてここで重要なのが、お客さんは商品の質に見合ったお金を払っているのではないということです。
お客さんは、自分が感じた価値に見合った金額を支払っています。
仮に、「質は良いがその説明ができていない商品A」と、「質は普通だが良いところはしっかりと伝えている商品B」があれば、商品Bの方がより高値で売れる可能性が高いのです。
そのため、事業ドメインの設定によってよりお客さんに価値を感じてもらうことができれば、その分商品の価格を上げることもできるというわけですね。
事業ドメインと似た意味を持つ言葉
事業ドメインには、似た意味を持つ言葉が2つ存在しています。
- セグメンテーション
- 経営理念
それぞれの意味を説明していきましょう。
まずセグメンテーションは、市場を細分化する”手法”のことです。
たとえば住んでいる場所や年齢、職業、趣味、行動パターンなどを細分化し、より自社のターゲットとなりそうな顧客層を特定します。
つまりセグメンテーションは、事業ドメインを設定する手段の1つであると言えますね。
次に経営理念には、「社長の想いや価値観を言語化したもの」という意味があります。
社長の想いの形によっては事業ドメインと被ってくるのが、ややこしいと言われる原因ですね。
たとえば「貧しい人に美味しいラーメンを食べてもらうための場所を作りたい」というような想いを社長が持っていた場合、誰に、何を、どうやって、という部分が含まれているため、事業ドメインと同じような形になります。
ただ、経営理念はあくまでも社長の想いや価値観を言語化したものです。
一方事業ドメインは事業の活動領域を示すものなので、意味合いとしては違うものです。
このようにセグメンテーションと経営理念は事業ドメインと似てはいるものの別の意味を持つ言葉なので、混同しないようにしましょう。
事業ドメインの設定方法を解説
事業ドメインの設定は、CTMフレーム分析(エーベルの三次元事業定義モデル)というフレームワークを使って行うのがおすすめです。
具体的には、以下のような手順で分析を行ってください。
- 顧客
- 技術
- 機能
それでは順番に、1つずつ説明していきましょう。
事業ドメインの設定方法1.
顧客
「顧客」では、市場を細分化してどのような人をターゲットにするかを明確にしていきます。
先に説明したセグメンテーションを実践するということですね。
住んでいる場所や年齢、職業、趣味、行動パターンなどを細分化し、どのようなターゲットに対して事業を行うのかを考えてください。
そうすることで、事業ドメインにおける「誰に提供するのか」を設定することができます。
事業ドメインの設定方法2.
技術
「技術」では、自社が持っている技術や強みを明確にしていきます。
ここで重要となるのが、「コア・コンピタンス」と「ケイパビリティ」です。
コア・コンピタンスとは、ビジネスをするうえで核となる圧倒的な能力のことをいいます。
一方ケイパビリティは、企業が組織として持つ能力のことです。
「技術」ではこの2つを明確にすることによって、そこから「何を提供するのか」というところを設定していきます。
※ちなみに「コア・コンピタンス」については別記事で詳しく解説しているので、事業ドメインを設定するさいには併せて参考にしてみてください。
⇒具体例でわかるコアコンピタンス経営!中小企業がとるべき経営戦略とは?
事業ドメインの設定方法3.
機能
「機能」では、自社の商品やサービスが顧客にとってどのように役立つのかを分析していきます。
「顧客」、「技術」で明確にした「誰に、何を」という部分を考慮して、顧客にどのような価値を提供することができるのかを特定していくということです。
ここまで明確にすることができれば、「どのように提供するのか」というところも考えることができるようになります。
つまりここまでの手順を踏むことで、事業ドメインの設定ができるというわけですね。
事業ドメインが機能している成功事例2選
ここからは事業ドメインが機能している成功事例を2つ紹介していきます。
- セブンイレブン
- 株式会社ヤナセ
この2社の事業ドメインを紐解いていけば、事業ドメインのイメージが湧いてくるはずです。
それでは1つずつ解説していきましょう。
事業ドメインが機能している成功事1.
セブンイレブン
セブンイレブンの企業ドメインは「近くて便利」です。
簡単に言うと、セブンイレブンが提供しているのは「物」ではなく「便利」であるということが言えます。
これを紐解くと、以下のとおりですね。
- 誰に → さまざな地域の住人
- 何を → 日常生活であったら便利なもの
- どのように → 町中のいたるところで24時間営業
まず「誰に」の部分ですが、これは店舗展開のやり方から便利を求めるありとあらゆる住民をターゲットにしていると考えられます。
次に「何を」の部分で提供しているのは、「欲しいときに欲しいものが買える便利な生活」です。
そして「どのように」では、「店舗数と商品の種類を増やし、入りやすい店構えで365日24時間営業をしている」ということになります。
とくにセブンイレブンの事業ドメインで特筆すべきは、「物を売るのではなく、地域の住民に欲しいときに欲しいものが買える便利な生活を提供している」というところです。
だからこそ「ありとあらゆる場所」で、「入りやすい店構え」で、「さまざまな種類の商品」を、「365日24時間ずっと売っている」、という営業形態になっているわけですね。
事業ドメインが機能している成功事2.
株式会社ヤナセ
自動車を取り扱っている株式会社ヤナセは、「クルマのある人生を創る」という事業ドメイン(企業理念)を掲げています。
ここでのポイントは、「車」を提供しているのではなく「車のある人生」を提供しているという点です。
これを紐解いていくと以下のようになります。
- 誰に → 富裕層
- 何を → 車のある人生を
- どのように → 町中のいたるところで24時間営業
まず「誰に」の部分ですが、車のある人生というのは必要だから車に乗るというのではなく「車を楽しむ」という意味合いが強く、このような欲求を抱くのはお金に余裕のある富裕層が多いはずです。
次に「何を」の部分では、自社で自動車を作ることはせず、すでにある優れた車や自社の強みである優れたメンテナンスを提供しています。
そして「どのように」の部分では、自社が車を作るのではなく、すでにある優れた車とお客さんをマッチングし、メンテナンス技術を活かしてお客さんのカーライフを支える、という選択をしているわけですね。
このように株式会社ヤナセは自社の強みを理解したうえで、自社が勝てる領域を事業ドメインとして設定しています。
自動車を作って売るという領域を敢えて避け、あくまでも「車のある人生」を支える役目に従事しているわけですね。
【まとめ】事業ドメインの設定は必須
今回は事業ドメインについて解説をしてきました。
事業ドメインを設定すれば、以下のようなメリットを得ることができます。
- ビジネスの軸がブレなくなる
- 意識すべき競合相手が明確になる
- 事業ドメインを設定すれば商品価格を上げることができる
逆に言うと事業ドメインを設定していなければ、ビジネスの軸がブレてしまったり、競合相手が明確にならなかったり、商品価格を上げることができなかったり、といったことになってしまいます。
そのためビジネスをやっていくなら、事業ドメインを設定しておくことは必須であると言えるのです。
ただ商品価格については、事業ドメインを設定していても上げない経営者が、実は非常に多くいます。
これは商品価格を上げれば顧客が離れてしまうと考えている経営者が多いことが原因ですね。
事業ドメインを設定しておけば、自社のビジネスをより明確なビジョンを持って行っていくことができます。
もし事業ドメインの設定ができていないなら、ぜひこの機会に設定してみてください。