貸借対照表の読み方、知っていますか?
貸借対照表は「たいしゃくたいしょうひょう」と読みますが、ここでいう読み方とはフリガナのことではなく、読み解く力という意味です。
会社が年に1回、かならず作成しなければいけない決算書と呼ばれるものがあるのはご存知かと思います。
正式には決算書のことを「財務諸表」といいますが、主な財務諸表には貸借対照表と「損益計算書」があります。
多くの人が読んでいるのは会社の利益を計算する「損益計算書」のほうです。
貸借対照表はあまり経営判断の上で活用されていない、というのが現状かと思います。
それにはいくつか理由があるかと思いますが、そもそも貸借対照表の読み方がわからない、ということが大きな原因の一つにあるのではないでしょうか。
そこで今回は貸借対照表の基本的な仕組みとあわせて、社長が経営判断する上で、最低限知っておきたい3つの指標についてお伝えしていきます。
目次
2-1 資産の部
2-2 負債の部
2-3 純資産の部
2-4 3つの構成要素の意味するもの
4-1 自己資本比率
4-2 流動比率
4-3 手元流動性
4-4 3つの指標の優先順位
貸借対照表がバランスシートと呼ばれる理由&
貸借対照表の読むべきポイントをお伝えする前に、まずは貸借対照表がどういうものか、ということを確認しておきます。
まずはじめに、貸借対照表は大きくわけて3つのグループから成り立っています。それが「資産の部」「負債の部」「純資産の部」の3つです。
表にすると、左側に「資産の部」、右側に「負債の部」と「純資産の部」にわけて表記をするのですが、このときに資産の部の合計額と負債の部・純資産の部の合計額は必ず一致します。
つまり、左側と右側の合計額が一致する(バランスのとれた状態)ことから、バランスシートと呼ばれます。
Balance Sheetと書きますので、省略してB/S(ビーエス)と呼ばれるのが一般的です。
また、話をわかりやすくするために左側・右側と表現をしましたが、会計の世界のルールでは左側のことを「貸方」と書いて「かしかた」、右側のことを「借方」と書いて「かりかた」といいます。
「貸方」と「借方」が対照になっている(バランスがとれている)ことから、日本語では貸借対照表と呼ばれるようになりました。
これは余談ですが、貸方と借方とありますが、単にルール上そのように呼び方を決めているだけで、お金を貸すとか借りるという意味ではありませんので、念のためお伝えしておきます。
貸借対照表の3つの構成要素
貸借対照表がざっくりどんなものかご理解いただけたかと思います。
次に、貸借対照表の構成要素である3つのグループ「資産の部」「負債の部」「純資産の部」について、もう少し詳しくみていきます。
2-1 資産の部
現金・預金・売掛金・商品・車両・建物などがここに含まれます。
厳密にいうと違いますが、
「売ればお金になるもの」
と考えるとわかりやすいかもしれません。
現金や、今後現金になりうるこれらのものの総称が資産と呼ばれます。
また、現金に近いものから上に並んでいます。
下にいくほど現金化が遠いものと思ってください。
資産の部の中でもさらに細分化され、現金または1年以内に現金化されるものを「流動資産」、それ以外のものを「固定資産」といいます。
2-2 負債の部
買掛金、借入金などが該当します。
「将来返さなければいけない、支払い義務のあるお金」
がこの負債の部になります。
資産の部と同様に、1年以内に返済しなければいけないお金を「流動負債」、それ以外のものを「固定負債」といいます。
2-3 純資産の部
大部分が株主から提供された資金(資本金)となり、会社を運営するための元手と、運営して得た利益の蓄積がこの「純資産の部」です
負債の部と違って基本的には「返済義務のないお金」をあらわします。
2-4 3つの構成要素の意味するもの
「資産の部」「負債の部」「純資産の部」と3つの構成要素を見てきました。
この3つのグループがなにをあらわすのか、ということですが、
・「負債の部」と「純資産の部」 = 資金の調達方法
・「資産の部」 = 調達した資金の運用方法
実は上記のことをあらわしています。
具体的に数字を出して例にあげてみます。
会社を立ち上げるにあたり資本金として100万、銀行から300万円融資を受けて調達し、合計400万円用意したとします。
400万円のうち200万円を使い営業車を購入し、残りの200万円は運転資金として現金で手元にあります。
この場合、貸借対照表では以下のようにあらわします。
【資産の部】
200万円(現金) + 200万円(車両) = 400万円
【負債の部】+【純資産の部】
300万円(借入金) + 100万円(資本金) = 400万円
銀行からの借入と自己資金であわせて400万円の資金を調達し、それが200万円の車両と手元現金200万円として運用されている、とこのようになります。
3 貸借対照表を読めるようになるべきたった一つの理由
ここまでで、貸借対照表の構成要素と何をあらわしているか、という点をお伝えしてきました。
ここからが今回の本題になりますが、なぜ経営者が貸借対照表を読めるようになるべきなのか、わかりますでしょうか?
会社が倒産しないために重要なもの、特に中小企業にとって一番大切なものは「資金繰り」です。
一時的に赤字が出たって資金さえまわっていれば倒産することはありません。
逆に利益が出ていても、過度な設備投資などで資金が尽きてしまっては倒産してしまいます。
ではその重要な資金繰りについて、損益計算書で判断ができるでしょうか。
損益計算書は「結果」としての損益しかわからないのです。
・今現在手元の資金としていくら残っているのか
・将来的にいくら支払わなければいけないのか。
・事業を進めていくためにどれくらい投資に使えるのか
こういった情報は貸借対照表でなければわからないのです。
貸借対照表について、しっかり知識をつけることで、
会社の今現在の安全性や、将来残るお金、投資への配分など、
会社の事業実行のパワーをどれだけ持っているか
こういったことを読み取ることができるようになるのです。
4 貸借対照表で社長が知っておくべき3つの指標
では、実際に貸借対照表のどこを見ていけばいいのか。
経営者として最低限知っておくべき、会社の安全性を見るための、
3つの指標をお伝えします。
4-1 自己資本比率
※ 自己資産 = 資産 ÷ 純資産
自己資本比率は、会社の中長期的な安全性を見るための指標です。
安全ラインは業種によって違いますが、一般的にはこの数値が15〜20%だと比較的安全といえます。
ですが、業種にかかわらず10%を切るようだと要注意となります。
これがマイナスになってしまうと、債務超過という状態になり、
会社としては非常に危険な状態となります。
4-2 流動比率
※ 流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債
自己資本比率に対して流動比率は、短期的な安全性を見るための指標です。
先の説明で、流動負債とは「1年以内に返済しなければいけないお金」であることをお伝えしました。
この流動負債が大きくなってくると、とたんに資金繰りが悪くなり、最悪倒産ということになってしまいます。
ですから、1年以内に現金化される可能性の高い「流動資産」が「流動負債」をどれだけ上回っているか、調べる必要があります。
この指標が「流動比率」ということになります。
これも一般的には120%を上回っているようであれば、比較的安全であるといえます。
4-3 手元流動性
※(手元現預金 + すぐ売れそうな資産 + すぐ借りられそうな資金)
÷ 月商
中小企業の経営者が一番気をつけてほしいのがこれ。
「手元流動性」という指標で、倒産危険度を一番よくあらわす指標です。
ようするに、即現金化できそうな資金が月商の何ヶ月分ぐらいあるか、ということです。
目安として中小企業であれば、1.7ヶ月分ほどあれば安全性が高いといえます。
4-4 3つの指標の優先順位
あわせてチェックするべき指標の優先順位も覚えておいてください。
大原則として、現金に近いところ(短期的なところ)からチェックをしましょう。
手元流動性 → 流動比率 → 自己資本比率
この順番です。
まずは手元の資金が枯渇しないようにコントロールすることが第一です。
他にも分析のための指標はいろいろありますが、最低限この3つだけでも覚えて、経営判断の材料としていただければと思います。
5 貸借対照表にはあらわれない本当の価値とは
貸借対照表について、何となくでも重要性を感じていただけたのではないでしょうか。
貸借対照表には、経営判断の上での大切な情報がつまっています。
貸借対照表で大事なのは、やはり会社にお金をもたらす資産です。
そして会社にたくさんのお金をもたらす資産が、いい資産であるといえます。
ところが、この貸借対照表には会社にもっともお金をもたらす資産が計上されていません。
それは…いわゆる「無形資産」のことです。
・会社のブランド
・従業員
・社長の人柄
・蓄積したノウハウ
こういったさまざまな目に見えない資産こそが、会社に利益をもたらす源泉でもあります。
そしてもっと大きなお金をもたらしてくれる資産…それがお客さんです。
資産といってもお客さんはあなたの所有物でもなんでもありません。
しかし、お客さんこそ最大の資産と考えて、そのお客さんからこの先得られるであろうお金を管理する資料を作ることはできますよね。
お客さんからこの先得られるお金、いわゆる顧客生涯価値(LTV)をしっかり把握し、それを最大化するための行動計画を練り、PDCAをまわしていく。
お客さんへの具体的な行動計画を実行したかどうか、それが事業計画の達成に大きくかかわってくるのです。
◆貸借対照表で社長が知っておくべき3つの指標まとめ
いかがでしたでしょうか?
貸借対照表の基本的な仕組みとあわせて、経営判断する上で役に立つ3つの指標ついてお伝えしてきました。
貸借対照表をはじめとする、財務諸表を作成する能力と、読み解く能力は別物です。
作成する能力は必要ありません。
それは税理士や経理担当者にまかせればいいと思います。
ですが、経営者として読み解く能力は必要だと思います。
貸借対照表に限らず、財務諸表は結果を見るだけで終わらせないでください。
今回の記事を参考に、ぜひそこから経営状況を判断し、次の行動計画へとつなげていってください。