今回は理想を現実にする思考法、「バックキャスティング思考」について解説をしていきます。
簡単に言うとバックキャスティング思考は、理想の姿から逆算して実現手段を考える手法です。
たとえば「自分がどのような経営者になりたいのか」、「会社をどのような状態にしたいのか」、「お客さんが最終的になりたい姿はどのようなものか」というところからアプローチし、1つずつ課題や問題点を解決していきます。
ビジネスをするうえで、目的の軸がブレないことは非常に重要です。
その点バックキャスティング思考は目的から順番に思考を進めていくため、ブレることなく答えにたどり着くことができます。
バックキャスティング思考は、多くのビジネスマンにとってとても有用性の高い思考法なのです。
そこで今回はバックキャスティング思考について、以下のような内容でお話をさせていただきます。
- バックキャスティング思考の意味
- バックキャスティング思考を実践する方法
- バックキャスティング思考のメリット
- バックキャスティング思考の欠点
- バックキャスティング思考の事例
ぜひ今回の記事を参考にして、バックキャスティング思考を実践してみてください。
バックキャスティング思考の意味とは?
冒頭でもお話したとおり、バックキャスティング思考とは「あるべき理想の姿から逆算して今やるべきことを考える思考法」です。
1970年代に環境問題を解決するために生まれた言葉であると言われています。
あるべき地球環境を定義し、そこから今やるべきことを考えていったわけですね。
この考え方は、ビジネスマンとしても、企業としても当てはめることができます。
たとえばビジネスマン、つまりあなた自身の場合、「どれくらいの収入があってどういう生活を送れる状況が理想なのか」ということを定義し、そのために何をするべきかを考えていきます。
もしくは企業の場合、「どれくらいの利益があって、どういうお客さんを相手にするのが理想なのか」といったことを定義し、やるべきことを考えるわけです。
逆に、今あるものから思考を進めていく手法を「フォアキャスティング思考」といいます。
目的から逆算して考えるのが「バックキャスティング思考」、現状から積み上げていく考え方が「フォアキャスティング思考」であると覚えておきましょう。
ちなみに「バックキャスティング思考」と「フォアキャスティング思考」はどちらか1つだけを使うのではなく、併用するのが基本です。
どちらか1通りだけの思考をすると、間違っていても気づくことができません。
そこで目的と現状の双方から思考を進めていくことで、より最適な行動を選び取ることができるのです。
また、昨今話題になっているSDGs(持続可能な開発目標)を実践するためにも、バックキャスティング思考は必要不可欠であると言われています。
SDGsという達成目標があり、そこから逆算して今できることをやっていかなければいけないからです。
SDGsに関しては別記事で詳しく解説しているので、併せてご確認ください。
⇒SDGsは中小企業でも意識すべき?メリットや取り組み事例を解説!
バックキャスティングを実践する方法【フレームワーク】
バックキャスティング思考を効率的に実践するためには、以下の5つの手順を踏んでください。
- 目標とする姿を設定する
- 課題を抜き出す
- できるアクションを洗い出す
- スケジューリングする
- スケジュールを実行する
この順番で思考、行動を進めていくことで、目的達成の可能性をグッと高めることができます。
それでは順番に解説していきましょう。
バックキャスティングの実践方法1.
目標とする姿を設定する
まずはバックキャスティング思考の軸となる目標となる姿を設定しましょう。
このとき重要なのは、本当に望んでいる状態を設定することです。
というのも人は、無意識に本当の目標をはき違えてしまう生き物なのです。
たとえば目標を考えるとき、ついつい現状を考えて下方修正してしまう場合があります。
無意識に弱気になってしまうわけですね。
もしくは、浅いゴールを目標にしてしまうこともあります。
たとえば「年収3,000万円」を目標として掲げてしまった結果、「お金はあるけど忙しくて使う暇がなく、あまり人生が楽しめない」と嘆く社長は多いです。
こういった社長の場合、本当の目標は「年収3.000万円」ではなく「お金に不自由なく、時間も自由に使える幸せな人生」だったということですね。
このように目標を設定するというプロセスは、案外間違いが発生しやすいところです。
バックキャスティング思考のもっとも軸となる部分なので、じっくりと考えるようにしましょう。
バックキャスティングの実践方法2.
課題を抜き出す
目標設定が決まったら、その目標に向かうための課題を抜き出していきましょう。
たとえば「年商10億達成」を目標とした場合、そこに至るために何が足りないかを1つずつ洗い出していきます。
「会社のリソース」、「資源」、「客単価」、「自身の実力」など、色々な課題が出てくるはずです。
これらの課題は、1つずつ乗り越えていくことで目標を達成できるハードルであると言えます。
すべての課題が解決できたなら、自然と目標も達成しているはずだということです。
もしすべての課題を解決しても理想の姿になっていないなら、そもそのゴールを間違えているか、もしくは何か見落としている課題があるかということになります。
「課題をすべて乗り越えれば目標を達成できる」と思えるレベルまでは、しっかりと課題を抜き出していってください。
バックキャスティングの実践方法3.
できるアクションを洗い出す
課題の抜き出しができたら、その課題に対してできるアクションをできるだけ多く洗い出してください。
ここで重要なのは、実現可能性や時間の都合を考慮せず、とにかくアクションを挙げていくことです。
本当にできるかどうか、やるためにどれくらい時間がかかるのか、についてはあとの手順で考えていきます。
そのためこの段階では、とにかく思いつく限りのすべてを出し切りましょう。
バックキャスティングの実践方法4.
スケジューリングする
課題とできるアクションを洗い出せたら、それらを基にしてスケジューリングをしましょう。
どの順番で、いつまでにどの課題を解決するのか、といった予定を立てる作業ですね。
このプロセスで立てたスケジュールを実際に実行していくことになりますので、実現可能なようにしっかり考え込んで組み立てを行いましょう。
またスケジューリングをすることで、新たな課題や必要なアクションが見つかる場合もあります。
それらも合わせて、すべての課題がクリアできるようにスケジュールを作成していってください。
バックキャスティングの実践方法5.
スケジュールを実行する
あとはスケジュールどおりに実行していくだけです。
ただ、必ずしもスケジュールどおりに事が運ぶとは限りません。
何か問題が生じたら、その都度修正をかけながら、1つずつ課題をクリアしていきましょう。
バックキャスティング思考のメリット
バックキャスティング思考には、フォアキャスティング思考だけでは得られない以下のようなメリットがあります。
- 問題に対して前向きに取り組める
- より広い視野を持つことができる
それぞれ詳しく解説していきましょう。
バックキャスティングのメリット1.
問題に対して前向きに取り組める
バックキャスティング思考は、フォアキャスティング思考と比べて前向きに問題に取り組めるといったメリットがあります。
なぜならバックキャスティングは、「目標達成した姿」が思考の軸になるためです。
前提が目標達成した姿なので、前向きに考えざるを得ないというわけですね。
フォアキャスティング思考であれば無理だと諦めてしまうようなことでも、バックキャスティング思考で逆算して考えれば意外となんとかなることもあります。
そのため難しい目標であればあるほど、バックキャスティング思考は力を発揮するのです。
バックキャスティングのメリット2.
より広い視野を持つことができる
バックキャスティング思考を取り入れることで、より広い視野で目標達成に向かえるようになります。
フォアキャスティング思考だと現状を考慮して諦めていたようなことでも、バックキャスティング思考なら課題解決のための選択肢として挙がってくるからです。
現状だけを見ていれば一見無謀に思えることでも、ゴールから逆算して順序立てて考えれば実現できる可能性も見えてきます。
だからこそバックキャスティング思考とフォアキャスティング思考を合わせることで、より広い視野で思考することができるようになるわけですね。
バックキャスティングの欠点
バックキャスティング思考にはメリットもある反面、以下のような欠点も存在しています。
- 短期的な問題解決に向いていない
- 失敗のリスクが高くなる
こういった欠点が存在しているからこそ、フォアキャスティング思考と併せて使うことが推奨されるわけですね。
それでは1つずつ説明していきましょう。
バックキャスティングのデメリット1.
短期的な問題解決に向いていない
バックキャスティング思考は、短期的な問題解決には向いていません。
短期的な問題の場合、逆算して考えるとかえって効率が悪いからです。
短期的な問題を解決するためには、今あるものから解決策を考えるフォアキャスティング思考の方が向いています。
バックキャスティングのデメリット2.
失敗のリスクが高くなる
バックキャスティング思考には、失敗のリスクが高いというデメリットも存在しています。
バックキャスティング思考は現状を度外視で理想を追いかける思考法であるため、フォアキャスティング思考に比べて無理な選択をしてしまいがちだからです。
そのためバックキャスティング思考は、どうしても成功率が下がってしまいます。
もし実践中に無理があると感じたら、その都度計画を見直しましょう。
バックキャスティングの事例
ここからはバックキャスティングの事例を紹介していきます。
- トヨタ
- オーラライト社
詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてください。
バックキャスティングの事例1.
トヨタ
大手自動車メーカーのトヨタは、「トヨタ環境チャレンジ2050」というバックキャスティングによる目標達成を掲げています。
くわしくは、「2050年に新車が排出するCO2(二酸化炭素)の総量を2010年比で90%削減する」という目標です。
トヨタはこの目標を軸にして、バックキャスティング思考で1つずつ課題を解決していっているわけですね。
この目標が掲げられた背景には、「将来的にガソリン車はほとんど残らない」という未来予想があります。
たとえ今何を持っていようと、2050年に今のままガソリン車を作り続けていては会社自体が生き残れない、と考えているのです。
トヨタはこの何が何でも達成しなければいけない目標を軸にするため、バックキャスティング思考を採用しているわけですね。
バックキャスティングの事例2.
オーラライト社
バックキャスティングの成功事例として世界的に有名なのが、オーラライト社の取り組みです。
オーラライト社は、「5年で売上2倍、営業利益率2倍」という大きな目標を掲げました。
そしてその目標を達成するために、以下のような改革を行ったのです。
- ヨーロッパへの進出
- 営業力の強化
- 製品の見直し
- 製造からサービスへの転換
もちろん、これらの改革を行うために何をすれば良いのか、という課題についても、1つずつバックキャスティング思考で抜き出していきました。
その結果オーラライト社は、イタリアの非常に大きな市場を手に入れることに成功したのです。
一見すると無謀な目標でも、そこから逆算して1つずつしっかり改革を行えば成功できる可能性はある、という事例ですね。
【まとめ】バックキャスティング思考は大きな目標を達成するときに効果的
今回は、未来にあるべき理想の姿から逆算して目標を達成する「バックキャスティング思考」について解説をしてきました。
この考え方はビジネスにおいて、非常に多くの場面で使うことができます。
「会社の目標を達成するとき」、「個人の目標を達成するとき」、「お客さんの目標を達成するとき」などですね。
ただ一方でデメリットも存在しているので、基本的にはバックキャスティング思考だけでなく、フォアキャスティング思考と使い分けたり併用したりすることをおすすめします。
2つの思考法を上手く使いこなすことで、より大きな目標をより確実に達成できるようになるのです。
ちなみにバックキャスティング思考で「とれるアクションを洗い出す」とき、必ず考慮してほしいことが1つあります。
それが「商品の価格アップ」です。
というのも日本における多くの企業が、実は価格アップをするだけで目標を達成できる状況にあるのです。
たとえば「業績を伸ばしたい」、「忙しすぎる現状をなんとかして働き方を変えたい」、「付き合うお客さんの質を上げたい」などは、すべて価格アップをするだけで達成できる可能性があります。
バックキャスティング思考は目的の軸がブレにくい、ビジネスマンにとっては必須とも言える思考法です。
ぜひこの記事を参考にして、あなたも身につけておいてください。