今回は成長戦略を立てるときに使える「アンゾフのマトリクス」について解説をしていきます。
流れの早いビジネスの世界において、企業の現状維持は衰退と同じ意味です。
だからこそ経営者は常に前を向き、自社の成長戦略を考えなければいけません。
そこで使えるのが、今回ご紹介する「アンゾフのマトリクス」です。
今回は「アンゾフのマトリクス」について、以下のような内容をお話ししていきます。
- アンゾフのマトリクスの意味
- アンゾフのマトリクスを活用するメリット
- アンゾフのマトリクスの使い方
- アンゾフのマトリクスの事例
より自社のためになる成長戦略を立てるためにも、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
アンゾフのマトリクスの意味とは?
「アンゾフのマトリクス」は、戦略的経営の父と呼ばれるイゴール・アンゾフが提唱した成長戦略を考えるためのテンプレートです。
「成長ベクトル」や「事業拡大マトリクス」と呼ばれることもあります。
(参考:Wikipedia_イゴール・アンゾフ)
イゴール・アンゾフは、縦軸を「市場」、横軸を「製品」として、以下のようなマトリクス図を作成しました。
アンゾフのマトリクスでは、図のように成長戦略を「市場浸透戦略」、「新市場開拓戦略」、「新製品開発戦略」、「多角化戦略」の4つに分け、それぞれの戦略を考えていきます。
図を見ていただきたいのですが、たとえば「市場浸透」の場合は、市場軸が既存市場、製品軸が既存製品になっていますよね?
つまり「市場浸透」では、既存製品を既存市場で販売する場合における成長戦略を考えるというわけです。
同様に「新市場開拓」は、既存製品を新しい市場に対して販売する場合の成長戦略を考えるわけですね。
アンゾフのマトリクスでは、この4種類のケースにおける成長戦略を別々に考えていくことで、より細かく、多くの成長戦略を立てることができるようになります。
このように、市場と製品を区切ってケース別に成長戦略を考えていくのが、アンゾフのマトリクスなのです。
アンゾフのマトリクスを活用するメリット
冒頭でもお話ししたとおり、アンゾフのマトリクスは企業の成長戦略を考えるときに活用することできるテンプレートです。
細かいメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
- 自社の現状や伸びしろを視覚化できる
- より多くの成長戦略を立てられる
まずマトリクス図を作成し、4つに分けて考えることで、自社の現状や伸びしろを視覚化することが可能です。
「市場を変えるべきなのか」、「製品を変えるべきなのか」、「あるいはその両方を変えるべきなのか」、「もしくは今ある市場と製品で、やり方だけを変えれば良いのか」、といった判断ができるようになるのです。
さらにアンゾフのマトリクスを活用すれば、より多くの成長戦略を立てられるようになります。
マトリクス図によって視点を分けて考えることで、より多くのアイディアが生まれるからです。
このような2つのメリットがあるからこそ、成長戦略を立てるときにはアンゾフのマトリクスを活用する経営者は多くいます。
アンゾフのマトリクスを活用すれば、今まで思いつきもしなかった戦略が立てられるかもしれません。
成長戦略を立てるためのアンゾフのマトリクスの使い方
アンゾフのマトリクスは、マトリクス図に則って以下の順番で成長戦略を考えていくという使い方をします。
- 市場浸透【既存市場×既存製品】
- 新製品開発【既存市場×新規製品】
- 新市場開拓【新規市場×既存製品】
- 多角化【新規市場×新規製品】
そのためにもまずは、既存の市場と製品について、強みや弱みを抜き出しておいてください。
そのうえで、上から順番に成長戦略を考えていきます。
それでは1つずつ説明していきましょう。
市場浸透【既存市場×既存製品】
「市場浸透」では、市場も製品も現状のままで成長していくという戦略を考えます。
要は今までどおり、既存の製品を既存の市場に販売する場合の成長戦略ですね。
そのため「市場浸透」では、主に以下のようなことを考えなければいけません。
- どのようにして今まで以上に既存市場のお客さんを獲得するか
- 既存顧客の客単価をどのようにして上げるか
- どのようにして利益率を上げるか
既存の市場と製品で売上を伸ばしていこうとするなら、お客さんの数か、もしくは客単価をあげる必要があります。
なぜなら売上は、「お客さんの数 × 客単価」で決まってくるものだからです。
そのうえで利益率を上げることができれば、最終的に残る利益を増やすことができます。
まず売上を上げるためには、以下のようなことを考えていきましょう。
- どのように集客するか
- どのように成約率を上げるか
- どのようにリピート率を上げるか
- どのように購入頻度を上げるか
- 商品の価格を上げる必要はあるか
これらを改善することで、売上を上げることができるはずです。
ただし、企業にとってもっとも重要なのは売上ではありません。
とくに中小企業の場合、もっとも重要なのは利益率を上げることです。
売上至上主義の経営者は多くいますが、いくら売上が多くても利益率が悪ければ、会社本来の目的であるはずの利益をあげることはできません。
逆に売上が多少低くてもその分利益率が高ければ、少ない労力で十分な利益を確保することができます。
ちなみに、もしあなたが中小企業の経営者であったなら、まず最初に考えてみてほしいのが商品の価格を上げるという選択肢です。
なぜなら日本の中小企業の多くが大企業との価格競争に無理に参戦してしまい、十分な利益をあげられない状態となってしまっているからです。
実際、忙しいのにほとんど儲からない状況で経営者が無理をしてしまい、そのまま体調を崩して廃業する、というケースが多くあります。
そもそも薄利多売戦略は、資源の豊富な大企業だからこそできるやり方です。
そんなやり方を中小企業が続けてしまえば、当然体力が持ちません。
新製品開発【既存市場×新規製品】
「新製品開発」では、既存の市場に新しい製品を投下することで事業を成長させていきます。
既存市場のニーズをしっかりと理解したうえで、そのニーズに合わせた製品開発を行うということですね。
具体的には、以下のような戦略が考えられます。
- 既存製品の関連商品や付属製品を開発、販売する
- 既存製品に機能を追加してバージョンアップする
新製品開発の成長戦略を考えるときは、既存市場のニーズで現状まだ応えられていないものがないかを探ってみると良いでしょう。
そうすることで、既存市場における売上、利益の最大化が図れるはずです。
新市場開拓【新規市場×既存製品】
「新市場開拓」では、製品はそのままに、新しい市場を開拓していくことで事業を成長させていく方法を考えます。
そのために必要なのが以下の2つです。
- 自社の製品が持つ強みを洗い出す
- その強みに需要があるターゲットを想定する
要は、既存の製品をどのように活かし、誰に届けるかを考えるわけですね。
製品の強みを活かし、「新しい販売エリア」や「新規ターゲット」を開拓することで、あなたの会社の事業は成長します。
多角化【新規市場×新規製品】
多角化は、新しい製品を新しい市場に向けて開発、販売する戦略です。
今ある製品や市場に囚われない、まったく新しい成長戦略を考えるということですね。
多角化は製品も市場も一新して全く新しい事業を作り出すため、成長戦略としてはもっともコストがかかります。
ただ同時に、既存事業の衰退に対するリスクヘッジという意味合いも持っているため、必ずしもリスクが高い選択肢であるとは言い切れません。
また、製品や市場が一新されるからといって、必ずしもまったくの0から事業を作り上げるということではありません。
多角化の進め方には、以下の4つの種類があります。
- 水平型多角化
- 垂直型多角化
- 集中型多角化
- 集成型多角化
この4つはそれぞれ、今あるものをどのように活かして多角化をはかるか、といった考え方を表しています。
つまり、全く新しい商品を新しい市場に売り出すと言っても、自社の強みを活かすことはできるし、やるべきだということですね。
それでは1つずつ詳細を説明していきます。
多角化戦略の進め方1.
水平型多角化
水平型多角化とは、同じ分野で事業を拡大していくことです。
たとえば居酒屋を経営している会社がレストランの経営を始めたり、乗用車を製造しているメーカーが大型車を製造したり、というように、既存事業とシナジー効果があるような事業に展開をしていきます。
多角化戦略と言いつつも、既存製品や既存市場から大きくは外れないという選択肢ですね。
多角化戦略の進め方2.
垂直型多角化
垂直型多角化とは、バリューチェーンを広げることで事業を拡大していくことです。
たとえば野菜を作って出荷だけしていた農家がみずから販売店の経営を始めてみたり、他社ブランドの衣料品を仕入れて売っていたお店が自社ブランドを立ち上げたり、といった戦略が垂直型多角化にあたります。
つまり垂直型多角化戦略とは、既存バリューチェーンの上流工程、もしくは下流工程に参入するということですね。
多角化戦略の進め方3.
集中型多角化
集中型多角化とは、既存のコアな技術や主要な顧客を活かせる分野に参入する戦略のことです。
たとえば酒造が消毒用のアルコールを販売したり、カメラレンズを制作していた企業がその技術を転用して医療機器用レンズを制作したり、といった戦略が集中型多角化にあたります。
自社が持っているコアな技術や顧客をまったく別のジャンルで活かすのが、集中型多角化戦略なのです。
多角化戦略の進め方4.
集成型多角化
集成型多角化とは、既存の製品や市場とはまったく関連性のない分野に参入することをいいます。
コングロマリット型多角化とも呼ばれ、アドバンテージがない状態から新規事業に進出するため、4つの中でもっとも難易度が高い多角化戦略です。
シナジー効果が得られないことからリスクが高い反面、完全に別の事業を増やすことになるため、リスク分散ができるという考え方もあります。
アンゾフのマトリクスの事例【富士フイルム】
ここからは、アンゾフのマトリクスを活用して成長戦略を立てた事例として、「富士フイルムの事例」を紹介します。
富士フイルムはもともと、写真フィルムやカメラレンズを主力商品としていました。
さらに使い捨てカメラである「写ルンです」が大ヒットし、順調に業績を伸ばしていたのです。
ところが、デジタルカメラやカメラ付携帯が普及すると同時に、主力商品としていた写真フイルムや使い捨てカメラが売れなくなってしまい、大きな危機に立たされました。
しかしそんな危機の中でも、富士フイルムはもともと持っていた高い技術力を活かし、さまざまな成長戦略をとることで、その危機を乗り越えたのです。
そんな富士フイルムの成長戦略をアンゾフのマトリクスに当てはめると、以下のようになります。
市場浸透 | ・インスタントカメラの販売
・レントゲンフィルムの開発 |
新製品開発 | ・レーザー内視鏡の開発
・医療用画像情報ネットワークシステムの開発 |
新市場開拓 | ・液晶用のフィルムを開発
・携帯電話用プラスチックレンズ |
多角化 | ・化粧品業界への進出 |
まず既存製品と既存市場からなる「市場浸透」としては、インスタントカメラの販売が挙げられます。
主にデジタルカメラやカメラ付携帯が普及する前にとっていた成長戦略ですね。
主力製品であったカメラをより使いやすく、お求めやすくしたわけです。
次に既存の市場に新製品を投下する「新製品開発」では、レーザー内視鏡の開発や医療用画像情報ネットワークサービスの開発を行いました。
富士フイルムはもともとレントゲンフィルムの販売を行っていたため、医療業界とも強いつながりがあったのです。
そこでその医療業界に対し、フィルム以外の製品を開発、販売したというわけですね。
さらに富士フイルムは、既存製品を別市場に売り出す「新市場開拓」も行っています。
富士フイルムはもともと持っていたフィルム、レンズに関する高い技術力を、液晶分野や携帯電話分野に転用したのです。
そして富士フイルムは、まったく別の分野である「化粧品業界」にも進出しています。
今まで取り扱っていたフィルムやレンズではない商品を、まったく手を出していなかった化粧品業界に向けて販売したのです。
このように富士フイルムはさまざまな成長戦略を行うことで、主力製品の衰退という危機を乗り越え、業績を伸ばすことに成功しました。
技術力が進み、流行や衰退が早い現代だからこそ、柔軟な成長戦略を立てることが重要となってくるわけですね。
【まとめ】アンゾフのマトリクスで正しい成長戦略が立てられる
今回は成長戦略を立てるときに使えるテンプレート、「アンゾフのマトリクス」について解説をしてきました。
以下の4つに分けて成長戦略を考えることで、自社の強みを視覚化できたり、より多くの戦略を立てたりできるということでした。
- 市場浸透【既存市場×既存製品】
- 新製品開発【既存市場×新規製品】
- 新市場開拓【新規市場×既存製品】
- 多角化【新規市場×新規製品】
流れの早いビジネスの世界では、現状維持をしようとすれば衰退してしまいます。
だからこそ経営者は、常に自社の成長戦略を考えておかなければいけません。
ただ、成長戦略を考えるときに1つ抑えておいてほしいポイントがあります。
それが、成長戦略を考えるときは利益率を重視するということです。
とくに中小企業の場合、利益率の設定が低すぎると、その事業が失敗する可能性が大きく上がってしまいます。
実際、利益率が低すぎるばかりに仕事量と利益が合わず、そのままバランスを崩して倒産してしまうという会社も多いのです。
そもそも中小企業の場合、無理に価格を下げ、利益率を落としても、価格競争で大企業に勝つことなんてできません。
薄利多売戦略は、資源の豊富な大企業だからこそできるやり方なのだと理解しておきましょう。
そしてだからこそ成長戦略を考える場合は、きっちり利益が取れるように事業を組み立てていかなければいけないというわけですね。
何度も言いますが、ビジネスの世界で会社を経営していく以上、常に前を向き、成長戦略を考えていかなければいけません。
もし成長戦略についてあまり考えられていない、もしくは良いアイディアが生まれてこない、という場合には、ぜひ1度「アンゾフのマトリクス」を用いて成長戦略を考えてみてください。